深夜。
小田切は外の暗闇とは対照的に、煌々と光を放つモニターの前に座っていた。
アパートは彼の城であり、聖域であり、そして、戦利品を鑑賞するための、プライベートな映写室だった。
彼はまず、数日前の日付がつけられた動画ファイルを開いた。
モニターに映し出されたのは、中目黒から乗せた、地味な女の記録映像だ。
彼はタクシー車内の退屈な場面を無感情に早送りしていく。
彼が求めているのは、もっと別の場所で記録された映像だ。
ファイルの中盤、映像は女の部屋の本棚の隅から見下ろすアングルに切り替わった。
完璧な構図。
ベッドの上には意識を失った女が人形のように横たわっている。
小田切は再生速度を落とし、食い入るように画面を見つめた。
映像の中の自分が、手際よく女の服を剥ぎ取っていく。
無防備に晒された白い裸体。
彼は、その場面で一度、再生を止めた。
そして、マウスのカーソルで、画面の中の女の体をゆっくりとなぞる。
まるで所有物を確認するかのように。
再び、再生を開始する。
やがて利尿剤の効果が現れ、眠る女の体から意思とは無関係に尿が流れ出し、清潔だったはずのシーツに、じわりと染みを作っていく。
小田切は、その光景を満足げに頷きながら見届けた。
完璧だ。
抵抗も、懇願も、悲鳴もない。ただ、自分の仕掛け通りに事が進んでいく。
それは彼が設計したプログラムが、寸分の狂いもなく作動するのを確認するエンジニアの喜びに似ていた。
彼はファイルを閉じると、次の「作品」へと移った。
次に開いたのは昨夜の記録。
御茶ノ水から乗せた女の映像だ。
これもまた完璧だった。
映像の中の自分は職人のように、手慣れた動きで女の体を検分し、そして、浣腸を注入していく。
そして、クライマックス。
眠る女の体から汚物が溢れ出し、シーツを無惨に汚していく様。
彼は、その場面を何度も、何度も、繰り返し再生した。
無垢だったものが汚濁にまみれる瞬間。
整頓された部屋という秩序が己の持ち込んだ混沌によって破壊される様。
これこそが支配の最終形態だ。
彼は自らの才能に自画自賛した。
女の肉体だけでなく、その生活空間ごと、自分の作品へと昇華させたのだ。
全能感に体が打ち震える。俺は、もはや神の領域にいる。
すべての鑑賞を終え、彼はパソコンの電源を落とした。
ふ、と部屋の明かりが消え、モニターの黒い画面に自分のぼんやりとした顔が映り込む。
静寂。
さっきまでの、あの凄まじい興奮が嘘のように引いていく。
後に残ったのは満腹感だけだった。
最高の食材を使い、最高の技術で調理されたフルコースの料理。
それを、もうこれ以上は一口も入らないというところまで腹一杯に食べた後のような。
強烈な満足感と、それに続く、静かな倦怠感。
彼は、これまでの女たちの顔を思い浮かべた。
パーキングエリアで、すぐそこのトイレを前に絶望していた、気の強そうな女。
親友の前で、プライドをズタズタにされていた、女子大生。
彼女たちの顔には、「意識」があった。
抵抗し、懇願し、絶望に歪む、生身の人間の表情があった。
それに比べて、最近の「人形」たちは、どうだ?
ただ眠っているだけだ。何の反応も示さない。
それは安全で、確実で、完璧な犯行だ。だが、そこには、かつてのような、相手の心をへし折るという、スリリングな駆け引きが存在しない。
すべてが思い通りになりすぎた。
小田切は机の引き出しを開けた。
中には、まだ使っていない薬剤や、犯行に使うための道具が整然と並んでいる。
彼は、それを、どこか面倒くさそうに眺めた。
また、これを準備して、車に仕込んで、後始末をして…。
そうまでして得るものは、もう、分かりきった結果だけだ。
彼は引き出しをゆっくりと閉じた。
そして、誰に言うでもなく、ぽつりと虚空に向かって呟いた。
「…なんだか、少し、飽きてきたな」