土曜の深夜。
薄汚いワンルームのユニットバスに小田切はいた。
狭い空間には彼の体臭と、もう一つ、別の異臭が満ちている。
バスタブの縁には、八王子まで乗せた女が使ったプラスチックの洗面器が無造作に置かれていた。
中には乾いてこびりついた茶色い汚物の痕跡が、おぞましい模様を描いている。
彼はそれを清掃する前に、おもむろに屈み込むと、まるで年代物のワインの香りを確かめる鑑定家のように器に顔を近づけた。
そして腐敗したような強烈な悪臭を恍惚とした表情でゆっくりと、深く、肺の奥底まで吸い込む。
記憶を反芻するように固く目を閉じ、脳裏にあの車内の光景を焼き付ける。
女が絶望に顔を歪ませ、女としての、人間としてのプライドを粉々に打ち砕かれたあの瞬間。
羞恥と苦悶に濡れた瞳、懇願する声、そして、この器の中に汚物をぶちまけるしかなかった無力な姿。
その記憶を嗅覚で呼び覚ますたび、彼の体の芯が鈍く熱を持った。
しばらくその倒錯的な儀式に没頭した後、彼はようやく現実に引き戻されたかのように目を開き、無言でタワシを手に取った。
ゴシ、ゴシ、と硬いナイロンの毛がプラスチックを擦る無機質な音だけが響く。
彼は何の感情も見せず、ただ黙々と、こびりついた屈辱の痕跡を洗い流していく。
その作業は次の獲物を迎えるための神聖な準備のように淡々と進められた。
綺麗になった洗面器を棚に戻すと、小田切は湿ったバスルームを出て、部屋に置かれた安物のパソコンデスクの前に座り、埃っぽいヘッドホンを装着した。
モニターに映し出されたのはドライブレコーダーの映像データを保存したフォルダだ。
彼は慣れた手つきでファイルをクリックする。
最初に再生されたのは、金曜の夜に乗せた若い女の映像だった。
幸せそうだった彼女が次第に苦悶に顔を歪め、最終的にシートの上で全てを失う瞬間。
次に、八王子まで乗せた女の映像。
『お願いです! もう、もう我慢できなくて…!』
涙声で懇願する女の声がヘッドホンから響き渡る。
小田切は満足げな薄ら笑いを浮かべ、その場面を執拗に、何度も、何度もループ再生させた。
女が震える手で洗面器を受け取り、自らのスカートをまくり上げ、屈辱に顔を歪ませながら用を足す場面。
びちびち、という生々しい音と嗚咽。
先ほど鼻腔の奥に焼き付けた匂いが映像と音によって完璧に補完され、彼の脳内で立体的に再構築される。
完璧な支配。完璧な屈辱。
彼の呼吸は次第に荒くなり、モニターの冷たい光に照らされたまま、緩んだスウェットパンツのジッパーに手をかけ、ゆっくりと腰を動かし始めた。
行為を終えた後、小田切は賢者タイムもそこそこに、どこか物足りなげな、不満足な表情を浮かべていた。
射精の瞬間の昂りは、すぐに色褪せ、より深い渇望だけが残る。
彼はパソコンの横にある年季の入った木製の引き出しを、ぎしりと音を立てて開けた。
次の獲物を、より深く、より完璧に貶めるための準備を始めるためだ。
引き出しの中には使いかけの下剤の小瓶が転がっている。
彼はそれを一瞥したが、すぐに興味を失ったかのように指先で奥へと押しやった。
もはや、あれでは生温い。
女が意識を保ったまま抵抗し、懇願する姿には飽きが来ていた。
その代わりに彼が手に取ったのは小さな錠剤の箱だった。
睡眠導入剤。これならば抵抗すら許さない、完全な無力化が可能だろう。
箱から一錠を取り出し、それを乳鉢に入れると、すりこぎ棒でゆっくりと丁寧に、白い粉末へと変えていく。
その動きは、まるで職人のように無駄がなく正確だった。
出来上がった粉を薬包紙に慎重に移す。
次に、彼は戸棚から、まだ封の切られていないペットボトルのお茶を取り出した。
キャップを、その構造を壊さないように、巧みに捻って開ける。
そして、薬包紙の粉末を静かにボトルの中へと流し込んだ。
粉はさっと液体に溶け、跡形もなく消える。
彼は再び、キャップを元通りに、まるで誰も開けていないかのように見える状態にまで戻した。
作業を終えた小田切は、そのペットボトルを両手で包むように持った。
そして、ゆっくりと目を閉じる。
これからこのお茶を飲むであろう、まだ見ぬ女の姿を妄想しているのだ。
意識を失い、無防備に体を弛緩させ、尊厳を垂れ流す様を。
その恥辱にまみれる姿を想像し、彼の口元が悦に入ったように、ゆっくりと醜く歪んでいく。
しばらくその倒錯的な快楽に浸った後、彼は目を開けた。
そして、そのペットボトルを仕事で使うための小さなクーラーボックスに、そっとしまった。