日曜の深夜。
小田切の部屋は静まり返っていた。
彼はパソコンの前に座り、スマートフォンの画面を眺めている。
画面に映し出されているのは、彼のタクシーに乗せた二人の女、星野翼と藤井静香の姿だ。
薬によって無防備に意識を奪われ、ぐったりと眠りこける様が、彼の指の動きに合わせて何枚も、何枚もスライドされていく。
あどけない寝顔、わずかにはだけた胸元、そして屈辱的に湿った下半身。
それらは完璧な被写体であり、完璧な戦利品のはずだった。
「…………」
小田切は無言でスマホを置くと、今度はパソコンの画面に向き合った。
マウスをクリックする乾いた音が、部屋の静寂に響く。
再生されたのはダッシュボードに設置されたドライブレコーダーの映像だ。
最初に映し出されたのは星野翼の映像だ。
薬が効き始め、呂律が回らなくなり、抵抗むなしく意識を失っていく様。
そしてシートの上で意思とは無関係に尊厳を垂れ流してしまう瞬間。
彼はその場面を何度も、何度も、繰り返し再生した。
次に再生したのは教師である藤井静香の映像。
毅然とした態度で乗り込んできた女が、同じように薬の力に屈し、眠りの中で己の醜態を晒す一部始終。
映像の中の女たちは、なすすべもなく汚されていく。
その光景を前に小田切の中に鈍い興奮が込み上げてくるのを感じた。
生理的な衝動に突き動かされるように彼はズボンのベルトに手をかけ、ゆっくりと下ろした。
だが、その行為を完遂する直前、彼の動きはぴたりと止まった。
「ちっ」
小さく、しかし鋭い舌打ちが漏れた。
まるで精密機械が不具合を起こしたかのように、込み上げていたはずの興奮が急速に萎んでいく。
彼は苛立たしげにパソコンの電源ボタンを押し、強制的にシャットダウンさせた。
青白い光が消え、部屋は一瞬、深い闇に包まれる。
欠けている。何かが決定的に欠けているのだ。
再び手元で光ったのはスマートフォンの画面だった。
小田切は今度は写真フォルダの奥深くに保存していた別の画像を開いた。
そこに映し出されていたのは星野翼の保険証と、藤井静香の運転免許証。
彼が女たちの意識を奪っている間に、その鞄の中から盗撮した個人情報の数々だ。
顔写真、名前、生年月日、そして住所。
藤井静香に至っては勤務先の学校名までがはっきりと記されている。
「藤井、静香…」
彼はその文字の羅列を、まるで恋人の肌を撫でるかのように、ざらついた指先でゆっくりとなぞった。
この女たちの全てを俺は知っている。
彼女たちがどこに住み、どこで働いているのか。
職場に電話一本かけることだって造作もない。
彼女たちの人生はもう、俺という消えない影に絡め取られているのだ。
彼女たちが自分の手にかかって恥ずかしく失禁したという真実は、この世で俺だけが知っている。
その秘密の共有者であるという事実だけで、じわじわと腹の底から歓喜が湧き上がってくるのを感じた。
だが、その高まりもまた、頂点に達する前に霧散した。
一過性の興奮は、すぐに退屈な日常へと溶けて消えていく。
違う。これでもない。
睡眠薬で眠らされた女の無防備な肉体には、抵抗という最も重要なスパイスが足りなかった。
意識のない人形をいくら汚したところで、そこに生まれるのは一方的な陵辱でしかなく、彼が本当に求めている双方向の絶望劇にはなり得ないのだ。
その瞬間、小田切の脳裏で二つの欠けたピースが音を立ててはまった。
無力な肉体と恐怖に歪む意識。その両方を同時に手に入れる方法。
彼はまるで啓示を受けたかのように、ゆっくりと立ち上がった。
部屋の隅にある戸棚の引き出しを静かに開け、中から睡眠薬の錠剤と、利尿剤の錠剤を数錠ずつ取り出す。
それを白い乳鉢に入れると、まるで熟練の職人が秘薬を調合するかのように無心ですりこぎを動かし始めた。
均一な白い粉末へと姿を変えた二種類の薬物。
彼はそれを慎重に薬包紙へと移すと、今度は冷蔵庫から冷えた栄養ドリンクの小瓶を一本、取り出した。
キャップの縁に爪をかけ、封が切れていないように見せかけながら巧みに開栓すると、白い粉末をその中にさらさらと流し込んだ。
液体が、わずかに白く濁る。
小田切はその小瓶を電灯にかざし、濁りがゆっくりと溶けていく様を満足げに眺めた。
そして目を閉じる。
彼の歪んだ妄想が鮮やかな色彩をもって脳内で再生され始めた。
次にこのドリンクを飲む、まだ見ぬ女の姿。
最初は抗いがたい眠気に襲われ、浅い眠りの底へと沈んでいくだろう。
そして無意識の中で、膀胱が限界を迎え、じわりと熱いものが流れ出す。
だが今回はそこで終わりじゃない。薬の効果は絶妙に調整されている。
失禁の不快な感覚の途中で女は目を覚ますのだ。
ぼんやりと混濁した意識の中で、自分の身に何が起きているのかを理解する。
止めたいのに体は言うことを聞かない。
熱い液体が自分の意思とは無関係に流れ出し、衣服とシートを汚していく。
その止められない屈辱。
混乱と恐怖と羞恥。そのすべてがぐちゃぐちゃに混じり合った最高の表情。
その光景を想像し、小田切の口元が、ようやく醜く、満足げな笑みに歪んだ。
彼は目を開けると、完成した「作品」を仕事で使うためのクーラーボックスの奥深くに、宝物を隠すようにそっとしまった。