◇名村 真吾(なむらしんご)
男性 二十五歳(用務員)
バイタリティ溢れる若い用務員。
◇佐野 加里奈(さのかりな)
女性 十七歳(二年生)
おっとりとした妊娠中の女生徒。聖水常用者。
◇レイラ
女性 三十歳(執行部)
慎吾と知り合いの執行部メンバー。
「では、帰りのHRはここまでです。
皆さん、明日の提出物はくれぐれも忘れないように。」
帰りのHR終了を告げる担任教師の言葉。
それはこの学院においては『お嬢さん、お逃げなさい』の合図だ。
二十分後の『獣のチャイム』と共に狩人たちが雪崩れ込む前に、
出来る限り危険地帯から逃れようと多くの女生徒たちが
我先にと駆け出してゆく時間なのだから。
とはいえ、それは主に一年生たちの話。
二年生、三年生の教室は悍ましい危険が差し迫るこの時間も
落ち着いたものだ。
何故なら、彼女たちの多くは聖水の魔力により既に心を手放した
虚ろなる人形たちなのだから。
「あれ?
加里奈はまだ帰らないの?」
二年A組、教室。
帰り支度を整えたクラスメートから話しかけられているのは、
この時間になってなお机に居座り、優雅に小説など読んでいる女生徒だ。
しっとりと濡れたような長髪に穏やかな眼差し、
この年にしてはだいぶ立派で母性すら感じさせる豊満な肉体。
そして何より、歪な形に膨らんだ下腹部が目を引く。
首元に光る銀のロザリオがよく似合う彼女は、
名を佐野 加里奈(さのかりな)といった。
「はい、加里奈はお迎えが来るまでここにいます。」
「あー、そっか、そうだったね。
ってことは、お迎えってのはいつものお兄さまかな?」
「はい、外で待っていて、
もし他のお兄さまに声をかけられてはいけないと、
真吾お兄さまより言いつかっておりまして。」
「ふふっ、いいなあ。
ねえ、加里奈。
そういうお兄さまがいるのって、やっぱり幸せ?」
「ふふ…
全ては天なるリトリスのお導きです。」
彼女は聖水常用者特有の穏やかすぎる笑みでクラスメートを送り出すと
再び机の上の読みかけの小説に視線を落とす。
やがて耳障りな獣のチャイムが鳴り響くと、
ほどなくして教室の入り口から大きな声がかかる。
「お待たせ、マイプリンセス!
俺の可愛い加里奈!」
まるでショーを盛り上げるエンターテイナーのような口ぶりのこの男は
去年から用務員として勤務している名村 真吾(なむらしんご)だ。
今年二十五歳。
バイタリティに溢れた力強い笑顔に浮かぶ汗の雫と乱れた呼吸は、
獣のチャイムが鳴るや全速力で一直線にここまで駆けてきた証だ。
「くすっ」
そんな真吾の姿に柔らかな物腰で笑みをこぼすと、
ぱたんと小説を閉じて立ち上がる加里奈。
用務員たちが踏み込むことのできない教室を出ると、
すっと真吾の前に立つ。
「はいはい。
貴方の可愛い加里奈ですよ。
真吾お兄さま……❤」
「ああ、愛しい我が姫よ!
今日もなんと美しい……」
恭しく傅くと、騎士が姫君にやるように手の甲にキス。
いちいち演技がかった動きが目に付く真吾だが、
それは決して軽薄な冗談や悪意の見て取れるような態度ではない。
彼が彼なりに加里奈に対して真剣である証だった。
「うふふっ、では本日も二人で愛を語らいましょう。
エスコートの方、よろしくお願いしますね。
真吾お兄さま。」
「……お任せあれ。」
また演技がかった一礼を挟むと、
真吾は加里奈を引き連れて場を離れてゆく。
聖リトリス女学院の放課後に身を寄せ合う用務員の男と女生徒。
もちろん真吾と加里奈の目的も、その他大勢と同一のものだ。
◆
学院の敷地と女子寮エリアを結ぶ霧の遊歩道。
そこから伸びる枝分かれした道を進んでいくと、
透明な水を湛えた池を臨む休憩所がある。
最近、二人はよくここを利用していた。
――ぱんッ、ぱんッ、ぱんッ、ぱんッ❤
今日も深く溜まった霧の中、牡と牝が求めあう音色が響く。
休憩所のベンチの両手を置き、尻を突き出す加里奈。
そこに後ろから深く繋がる真吾が
先客のいる子宮目掛けて屹立した男根を突き立てているのだ。
決して乱暴にはならないように、
しかし力強く打ち付けられる逞しい牡の腰。
その衝撃が安産型の大きな尻を叩くたび、
加里奈の胸元ではたわわな二つの果実が、
そしてその下腹部では牝の揺りかごが揺れる。
「あ……あッ❤
おっ、お兄さまっ……お兄さまぁ……っ❤」
「ハァーッ……ハァーッ……
お、俺の加里奈……ッッ!!」
甘い快楽に濡れた声でお互いを呼び合い、
そこに結ばれた危うい絆を確かめ合う。
そう。
それは聖水の魔力で結ばれたアンバランスなモノ。
いつどんな形で消えてしまうかわからない危うい絆だった。
真吾がどれだけ熱く加里奈を求めても、
手に入るのは心を手放した人形としての彼女だけ。
絡めあう眼差しも、交わし合う言葉も、子宮にデキた生命さえも、
全てが仮初のものなのだ。
だが、だからこそ真吾は全身全霊でひたすらもがき足掻くように、
激しく無様に加里奈を求めた。
「ハッ、ハッ、ハッ……!
でっ、出る……加里奈ッ、もう……ッ!」
「はっ、はいぃ……っ!
加里奈へのお射精……
どうぞっ、お愉しみくださいませっ❤」
「ハ、ハーッ……!
加里奈ッ……好きだッ!
加里奈……加里奈ァァーーッッ!!」
――ズビュゥッ!!
――ドプンッ!……コプコプコプコプ……ッッ!!
「あっ、あぁ……っ。
お兄さまっ……あーーーーーーっっ❤」
既にたわわに実っている生命の果実に、
更なる大量の生命の種を蒔き散らす。
ブルブルッと腰を震わせながら、
断続的に最後の一滴まで注ぎ込む。
そんな長く熱い射精が終わる。
場に一陣の風が吹き抜けて視界を晴らすが、
まるで生きているかのように濃厚な霧はすぐに溜まり、
また繋がる二人の姿を隠してしまった。
◆
やがて周囲には夜の帳が降り、
休憩所の周辺にも街灯が灯る時間。
ベンチには激しい行為を終え、
互いに頭を預け合うようにして座る二人の姿があった。
そんなほどよく疲労した牡と牝の肉体からは今、
目には見えないオーラのようなものが立ち上っている。
それは生殖行為に向き合うために牡と牝とが
それぞれに激しく燃え上がらせた生命のマナ。
――その残り火だ。
「今日もたくさん幸せにしてくれてありがとう。
……愛してる、加里奈。」
行為のあと。
いつも真吾は決まって加里奈に愛の言葉を囁く。
射精後のクールダウンなどありもしないかのように、
弾切れになれば次はすかさず愛の言葉を注ぎ込むのだ。
しかし、それは一番大切なものがいつ失われるかわからないという
深く底の見えない不安の裏返しでもあった。
「……。
真吾お兄さま?
なぜ、いつもそんなに怯えていらっしゃるの?」
そんな真吾の頭を抱き寄せるようにして加里奈の手が撫でる。
人間の不安など理解できない悲しい人形の手が、優しく撫でる。
「真吾お兄さま?
何か大きな不安があるようでしたら、加里奈と一緒に祈りましょう。
天なるリトリスは全てをご覧になっておいでですよ。」
「いや、いいんだ。
俺は大丈夫だよ。」
「リトリスの愛は万人に等しく施されます。
全てを受け入れて許してくださいますよ?」
「大丈夫。
……大丈夫だ。
ありがとうな、心配してくれて。」
真吾はいつもそこで話題を切り上げる。
どれだけ救いを求めようと、
自分は決して報われることがないことを知っているから。
報われる、資格すらないことを。