※この作品はR-18です。

霧の牢獄   作:宇藤百足

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◇久礼野 理衣(くれのりい)
 女性 15歳(1年生)
幼姫の抜けきらない天然ちゃん。
性に興味津々。

◇及川 蜜香(おいかわみつか)
 女性 15歳(1年生)
てんかんの障害を持つ霊感少女。
それで周囲から気味悪がられた経験があるためか、
卑屈な性格で強いものにつこうとするタイプ。

◇矢ケ瀬 真理恵(やがせまりえ)
 女性 17歳(3年生)
蜜香の先輩。
この学院で生活していく上での良きアドバイザー。

◇向井 大作(むかいだいさく)
 男性 29歳(用務員)
ずんぐりむっくり体形の温和な大男。

◇安村 新(やすむらあらた)
 男性 30歳(用務員)

やせぎす体形で軽薄な印象の男。



久礼野理衣①

 

「では、午前の授業はここまでだ。」

 

 

四時限目の授業終了を告げると、

男性教師が一年H組の教室を出てゆく。

 

新年度を迎えてから早二週間少々が経った聖リトリス女学院に

今日も昼休みの時間が訪れる。

 

だが昼休みという開放的な時間を

仲間と賑やかに過ごそうという者はおらず、

教室内はある種の緊張感に支配されていた。

 

 

「ねーねー、及川。

 お昼ごはんだけどさ、屋上行ってみない?」

 

 

久礼野 理衣(くれのりい)は教科書を机にしまうと、

二つ前の席に座る及川 蜜香(おいかわみつか)に声をかけつつ

鞄からピンク色の袋に入った弁当箱を取り出す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「フヒヒッ、いいっすよ。」

 

 

蜜香も軽い感じでこれを了承。

 

まだ中学生の抜けきらない可愛らしい女生徒二人が、

連れ立ってそそくさと教室を出ていった。

 

 

「あっ、及川。

 ちょっとだけ、これ持っててくれない?」

 

 

屋上に向かう途中、廊下を抜けて階段の手前までやって来ると、

そういって理衣は蜜香に弁当箱を手渡す。

 

 

「え、どうしたっすか?」

 

「おしょんしょんよ。

 おしょんしょんしたいの。」

 

 

股間を両手で押さえつつ、内股で足をパタパタとやる理衣に、

蜜香は少々呆れ気味の三白眼。

 

理衣の目的は階段手前にあるトイレのようだった。

 

 

「ご、ごゆっくりっす。」

 

「ごめんね。

 すぐに済ましてくるから。」

 

 

そう言って送り出す蜜香に一言残しつつ、

足早にトイレへと向かう理衣。

 

だが、蜜香の方を向いたまま慌てて動いたため、

ちょうど中から出てきた他の一年生女生徒に足を踏まれてしまう。

 

 

「おゎたっ!?」

 

「きゃっ!」

 

 

女生徒の足は予期せぬ段差を踏みつけたことで

一瞬だけおかしな方向に曲がる。

 

だが、特に怪我などはないらしく、

そのまま理衣を避けるように動いてバランスを取り直した。

 

互いに『ふー』と一つため息をつく。

 

 

「あっ、ごめんね?」

 

 

先に理衣が一言謝罪を挟む。

 

だが。

 

 

「なっ、なにするのよッ!!

 もし足をくじいて走れなくなったら、

 どうするつもりよーッ!!」

 

 

直後、ヒステリックな怒声が廊下中に響き渡った。

 

その様子はどこか、体の小さい動物が身を守るために

毛を逆立て、金切り声をあげて相手を威嚇するのに似ていた。

 

周囲がざわつき、視線が集まる。

 

 

「あッ……あんた何組よッ!?

 もしこれが原因で私が男に捕まったら、

 あんたの責任だからねッ!!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「あんたねぇ……!

 ごめんなさいで済むと思ってんのッ!?」

 

 

見かねて仲裁に入ろうとする蜜香。

 

女生徒はそれを認識したことで、

周囲の悪い注目を集めてしまっていることに気づく。

 

 

「……あ、あんたの顔覚えたからね……」

 

 

捨て台詞を残して、女生徒が足早に場を離れると、

周囲には再び重い静寂が戻る。

 

理衣は居心地悪そうにさっとトイレを済ませ、

蜜香を伴って屋上へ向かうのだった。

 

 

「なーんか。

 皆ピリピリしてて、いやーな感じだよねー。」

 

 

昼休みの屋上。

 

そこはやはり深い霧に包まれているとはいえ、

息の詰まるような教室に比べれば開放的で

幾らかはましな空間だった。

 

周囲には同じ校舎を使う二年生たちの姿がちらほらあったが、

彼女たちの多くは既に聖水を使っているのだろう。

 

その雰囲気は穏やかなものだった。

 

 

「まあ、仕方ないんじゃないっすか?

 こんな状況じゃ、誰だって自分の身を守るだけで手一杯っすから。」

 

 

蜜香の昼飯は朝に女子寮エリアの購買で買ってきた

サンドウィッチ三つとお気に入りのトマトジュース。

 

一方、理衣は早くも寮の自室で簡単な料理を始めている。

 

パカッと開けた弁当箱の中からは、

いかにも子供が一生懸命手作りしたような

簡素ながら愛らしいおかずたちが顔を覗かせている。

 

 

「しかし、りーちゃんはいつもすごいっすね。

 お弁当を手作りできちゃうなんて。」

 

「えー、そんなことないよー。

 簡単だよ? これ。」

 

 

一見小者然としつつも何故か態度に余裕のある蜜香と、

ほんわかマイペースでどこか周囲とずれた印象の理衣。

 

二人はクラスでも少々浮いた存在同士ということもあり、

なにかとこうしてつるむことが多い。

 

 

「それより、理衣は及川の方がすごいと思うよ?

 だって、他の子と違って全然ピリピリしてないし、

 『ぬるぽ』って感じだもん。」

 

「フヒ? なんて?」

 

「だから~、『ぬるぽ』って感じだってば。」

 

「???」

 

 

時々、理衣はよくわからないことを言う。

 

 

「とにかく、他の人より余裕があるってこと!」

 

「あー……

 それには、実はわけがあるんすよ。」

 

「えっ?

 まさか、聖水じゃないよね……?」

 

「違うっすよ。」

 

「えっ、じゃあなになにー?

 教えてー?」

 

「えーとっすね……」

 

 

『おつとめ』という名のレイプの危険と背中合わせの日々。

 

そんな中で蜜香が落ち着いていられるのには理由があった。

 

蜜香には矢ケ瀬 真理恵(やがせまりえ)という三年生の後ろ盾がおり、

この霧の牢獄と揶揄される学園内で生活するための

よきアドバイザーとなってくれているのだ。

 

またこの二人は百合姫の番でもあり、

既に何度か体を重ねて深い仲となっていた。

 

 

「えっ、嘘!?

 及川って、仔猫なの!?」

 

「そっすよ。

 真理恵お姉さまって人に仔猫にしてもらったっす。」

 

「あーっ!

 それって時々教室に来てる三年生の人?

 いーなー! 理衣も可愛がってくれる先輩が欲しー!」

 

「フヒヒッ。

 幾らりーちゃんでも、お姉さまはあげないっすよ。」

 

「うー、及川おねがーい。

 タコさんウィンナーあげるからー。」

 

「断固ノゥ!」

 

「うーっっ!」

 

 

ひとしきり二人で騒いだあと、

互いに口にものを入れてひと休憩。

 

租借したものをゴクンと飲み下すと、

ヒソヒソ話で顔を寄せて改めて理衣が切り出す。

 

 

「ね、ねえ、及川。

 その先輩とはもう……踊ったの?」

 

「ま、まあ……

 そりゃ~、番っすからね……」

 

「え? え?

 それって、どんな感じどんな感じ?

 やっぱ、その……気持ちいいの?」

 

「フヒッ!?」

 

 

伏せまつ毛で頬を真っ赤に染めつつも

かなりグイグイとくる理衣に蜜香はタジタジだ。

 

魔都の姫君の持つ特徴の一つに

性への関心の強さ、適応力の高さがあげられるが、

理衣は特にその色が強いタイプ。

 

もはや隠しようもないほどに興味津々だった。

 

 

「やー、そりゃまあ……

 大好きなお姉さまに愛してもらえるのは、幸せっすよ?」

 

「うー……

 やっぱ、及川ってスゴイ……」

 

「フヒヒ……

 じゃあまあ、スゴイついでにもう一つ言っておくと……

 蜜香、実はもう用務員のお兄さまとも踊ったっす。」

 

「え……

 えぇ~っ!?!?」

 

 

現在、蜜香は真理恵の指導のもと、

霧の牢獄での三年間を生き延びるため、

聖水に頼ることなくここでの生活に適応することを目指している。

 

その肝となるのが“おつとめを辛いと感じないようにすること”だ。

 

その一環から、真理恵のよく知る人格的にも信頼のおける用務員と

無人寮でおうちデートのような愉しい時間を過ごしつつおつとめをする

ということを何度か経験していたのだ。

 

 

「じゃあもう……

 男の人におまんこパンパンもしてもらったの~!?」

 

「シーッ!

 声がでかいっすー!」

 

 

先程の『おしょんしょん』に続いて、

また乙女の口から出てはいけないキーワードが飛び出す。

 

『ギャーッ!』顔で蜜香が慌てて宥めるが既に手遅れ。

 

辺りの二年生たちからはクスクスと失笑が漏れる。

 

 

「……あっ。」

 

「あーもー、大ひんしゅくっすよ……」

 

 

それで一応は静かになる理衣。

 

だが、それはただ声のトーンを落としただけに過ぎない。

 

 

「えっ? えっ? で?

 おまんこパンパンは気持ちよかった?

 おしおきミルク、ピュッピュしてもらったの?」

 

「……。

 こ、このムスメは……」

 

「ねーっ。

 どーだったのよー?」

 

「や、まあ……そっすね。

 ……あれは、うん……

 ……気持ち、いいっすよ?」

 

「うわぁ……❤」

 

「……ハァ……」

 

 

こうして。

 

理衣の飽くなき突進攻撃に白旗を上げる蜜香。

 

しかし、そんな白旗すらも空しく

その後も無垢な突進攻撃は繰り返され、

周囲の二年生たちからはまた何度かの失笑が巻き起こるのだった。

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

それからしばらく経った、ある日の放課後。

 

太っちょ用務員の向井 大作(むかいだいさく)は

今日も用務員寮エリアの出口である南門前で

狩りの開始の合図となる獣のチャイムを待っている。

 

周囲には新一年生という

魅惑の柔肉にありつきたい用務員たちでごった返し、

まるでよだれを垂らす肉食獣の群れといった様相を形成している。

 

これは新一年生が大量に入ってくる

聖リトリス女学院・四月の風物詩とも言える光景。

 

ここでの生活ももう五年目となる大作には、

もう見慣れてきたものだった。

 

 

「よう、向井じゃねーか。」

 

 

ふと背後から肩を叩いてくる者がある。

 

大作が振り向くと、そこには同期の用務員である

安村 新(やすむらあらた)の姿があった。

 

まるまる太った大作とは対照的に細身で長身、

またわかりやすく軽薄そうな雰囲気の男だ。

 

 

「ああ、安村くんか。

 四月に入ってから見てなかったな。

 調子はどうだい?」

 

 

大作がそう返すと、

新は『よくぞ聞いてくれた』とばかりに鼻息を荒げる。

 

大作の大きな背中を痛いほどにバンバンと叩いた。

 

 

「ヒヒッ、それが聞いてくれよ、向井!

 俺っち、昨日、早くも新物食っちまってさァ!」

 

「さすが安村くんだね。

 もう一年生の子を捕まえたんだ?」

 

「やー、ちょっと遊歩道のメインコースを外れて

 林の中を進んでたらさ、茂みに一人こっそり隠れてたんだよ。」

 

「へぇー。」

 

「そいで、ジェントルな俺っちはこう言ってやったわけよ。

 『お嬢さん、何かお困りですか?』ってな。

 いやまァ、その俺っちこそが困らせる役なんだけどなァ!」

 

 

大きな声をあげて品なく笑うと、

また大作の背中をバンバンとやる新。

 

 

「あの時に俺っちを見上げた彼女の怯え切った涙目!

 本当は死ぬほど嫌なのを押し殺して男に服従する顔!

 あれこそ新物の真骨頂だよな、最高にそそったぜェ!」

 

「で、その子には何発撃ち込んだの?」

 

「ヒヒッ、六発さ。

 綺麗な新物まんこを俺っちのラヴエキスで満タンにしてやったぜ!

 ま、最後はワンワン泣いちゃって、ちっとだけ心が痛んだけどな。」

 

 

こういった武勇伝や自慢話を親しい仲間同士で語り合うのも、

用務員たちにとっては娯楽の一つなのだ。

 

 

「しかし、その様子だとお前の方はまだっぽいな。

 逃げ回る子ウサギちゃんたちに苦戦してる感じか?」

 

「え……いや、僕は一年生は狙ってないんだ。

 二~三年生の聖水組の子たちに相手してもらってるから。」

 

「おいおい、なんだよ、シケてんなァ!?

 聖水組の二~三年生だァ?

 この季節に養殖モノなんかで日和ってんじゃねえよ。」

 

 

新一年生が入ってくるこの季節は、

用務員たちの間で二~三年生の需要は目に見えて落ち込む。

 

何故なら彼女たちの多くが尊厳の喪失や妊娠の不安など

おつとめに伴う精神的苦痛から逃れるため聖水を使っており、

結果、おつとめを何とも思わないダッチワイフになり果てているからだ。

 

“男たちの欲望を文句も言わず受け止めてくれる”という意味では

用務員たちにとって理想の存在となっているにもかかわらず、

『それはそれでつまらない』とそっぽを向く者も多い。

 

全く以て、彼らの傲慢さの成せる業だった。

 

 

――キィ~ンコォ~ン……キィ~ンコォ~ン……

 

 

そこで獣のチャイム。

 

今日もついに狩りの時間がやってくる。

 

場に集った無数の用務員たちにはある種の緊張が張り詰め、

そんな彼らを見てクスクスと笑う修道女たちが

重い門をゆっくりと開いてゆく。

 

猛獣の檻が開け放たれる。

 

 

「ヒヒッ、じゃあなァ、向井!

 俺っちは今日も新物狙い一本だぜェ!」

 

 

『者ども!かかれえ!』とばかりに魅惑の獲物を求めて

一斉に門の先へと雪崩れ込んでゆく用務員たち。

 

学院エリアには入らず校門前を素通りし、

一直線に北の遊歩道へと向かう者が目立つ。

 

彼らの狙いはもちろん全速力で逃げているであろう新一年生。

 

何らかの理由で逃げ遅れた獲物がいないか、

これから霧の中を血眼になって探すのだ。

 

 

「さて。

 僕もそろそろ行くかな。」

 

 

一方で大作はその大きく荒々しい流れには乗らず、

ずんぐりむっくりとしたその体躯に見合った緩いスタートを切る。

 

皆同じ服装と背格好と存在感でほとんど見分けのつかない

修道女たちに挨拶しつつ門を抜けると、

校門前のロータリーで方向転換。

 

校門を抜けて学院エリアへと入ってゆく。

 

すると、そこにちらほらと残っているのは

聖水の魔力により狩られる恐怖を麻痺させた二~三年生たち。

 

その中から好みの女生徒を一人探し出し、

友好的におつとめをお願いするだけ。

 

大作がしようとしているのは、実にイージーな狩りだった。

 

 

(ぐふふ……♪

 今日も皆、綺麗だなぁ、可愛いなぁ。

 どの子に踊ってもらおうかな~?)

 

 

至福の時。

 

『♪』マークをふよふよと飛ばしながら、

のっそのっそとエリア内を見て回る大作。

 

時折すれ違う女生徒たちからは、

どの子も少しずつ異なる良い香りがし、

食欲ではなく性欲的な意味で鼻腔をくすぐる。

 

また、中には『ごきげんようお兄さま』と

優雅に挨拶をしてくれる女生徒もいる。

 

新一年生に人気が集中することで学院エリアでの狩りが減るこの時期は、

大作には美しき獲物たちをゆっくりと見て回れる好都合な時期とも言えた。

 

だが、溜まるような濃い霧が視界を遮ると、

その一面真っ白な世界は人の精神にふと

不安や恐怖、虚無感などをもたらすことがある。

 

そんな時、人はナーバスになるものだ。

 

 

(……。

 僕がここに来てから、もう五年か。)

 

 

ふと胸の奥で独り言ちると、大作は見通せない空を仰いだ。

 

ここ聖リトリス女学院は

外部とは完全に隔絶された異世界とも言える空間だ。

 

その異常とも言える隔絶っぷりは有名であり、

在籍する女生徒たちは卒業を迎えるまでの三年間、

いかなることがあってもここを出ることが許されない。

 

だが、更に隔絶が徹底されているのが

用務員や教師といった男性従業員たちだ。

 

彼らは採用面接の際、

『この職場は永久就職であり、二度と現世に戻ることはできない』

旨の説明を受け、極めて厳重な意思確認を取られる。

 

そのため、彼らは全員が現世に望みを持てなかった世捨て人であり、

大作も当然その一人だった。

 

 

(お父さんとお母さんは元気にしているかな。

 元気にしているといいな。

 ごめんね、黙って姿を消して……)

 

 

生まれついての肥満体質と機転の悪さ。

 

幼少の頃から何をやらせてものろまで、

一人周囲に遅れ続けてきた大作の人生は

哀れなまでに全く見るところのないものだった。

 

ただただ低く平坦であり、親しい仲間も愛しい誰かもいない。

 

両親だけは大作を可愛がってくれたが、

共にブクブクと太っている二人の姿には

子供としてどうしても思うところがあった。

 

いつまで経っても何の素質も芽吹かなかった学生時代。

 

仕事も人間関係に恵まれず長続きしなかった。

 

転職もうまくいかず、次第に部屋に閉じこもるようになった頃、

大作がふと魔都ネット上で見つけたのが奇妙な求人広告だった。

 

 

『聖リトリス女学院 用務員募集』

 

 

その募集は魔都ネットのオカルト界隈では有名で、

恐ろしくも淫靡な噂と共に囁かれ続けてきた都市伝説だ。

 

それは進むべき道を完全に見失っていた大作の瞳には

全てを捨てて人生を希望あるものに変える千載一遇の好機に映った。

 

そして。

 

大作が忽然と現世から姿を消したのは、

それからしばらくしてのことだった。

 

 

(お父さん、お母さん。

 僕はこの霧の世界で元気にやっているよ。)

 

(この聖リトリス女学院はね、すごいんだよ。

 ここでは可愛い女子高生の子たちが、

 僕なんかと仲良くしてくれたりもするんだ。)

 

(おかげでずっと憧れてたダンスも、たくさん経験しちゃったよ。

 どの子と繋がっても、すごく気持ちいいんだ、幸せになれるんだ。

 ここはね、とても幸せな世界なんだよ――)

 

 

――ガンッ!

 

 

「……ッ!?」

 

 

突如、激痛が大作を襲う。

 

目の前に散る火花。

 

視界を覆い尽くす霧の中を考え事までしながら歩いていれば、

こうなるのも仕方がなかった。

 

校舎の壁に頭から激突したのだ。

 

 

「~~~~ッッ!!」

 

 

時間差でジーンとやってくる激痛の第二波に、

大作は強打した額を押さえて、その場にうずくまる。

 

下を向いた視界。

 

その隅、ちょうど植え込みの死角となっている部分にしゃがみ込む、

何か動くものが捕捉されていた。

 

 

「……あっ。」

 

「……あっ。」

 

 

それは一目見てわかるほど小柄な女生徒だった。

 

名札には赤いライン。

 

一年生であることを示すカラーが引かれている。

 

見上げてくるのは緊張と困惑でカチコチに固まった顔。

 

大作はすぐに凡その状況を理解した。

 

先程の新の言葉を借りて言うならば、

彼女は“逃げ遅れた子ウサギちゃん”なのだろう。

 

何らかの理由でチャイム&ダッシュができなくなってしまい、

肉食獣たちのうろつく恐ろしい狩り場となった下校ルートを

必死に身を隠しながら一人進んでいたのだろう、と。

 

 

「……」

 

 

未だ、石化したように動けなくなっている女生徒に

大作は大きな手をヌッと伸ばした。

 

 

「おいで。

 おつとめはしないでいいよ。

 僕が女子寮まで送って行ってあげる。」

 

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