【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
日付は変わって次の日。
朝食は桜と藤ねえのいない中、パパッと食べ終えた。
その後の学校も特にこれといったイベントもなく下校の時間となった。
慌しかった昨日とは違い、ゆったりとした1日だ。
「他の奴らの動きも無しか……」
まだ正体の分からない学校に結界を張っていた未知の敵や、推定で魔術師だと思われる遠坂のこともそれとなく警戒していたが特に何かあるわけではなかった。
「そういや慎二のやつ、今日は学校休んでたな……桜が家の用事があるとか言ってたしその関係なのかな」
いつも騒がしいやつだが、いなければいないで寂しいものだ。
早く家の用事とやらが終われば良いのだが。
「……シロウ様はシンジさんと仲良くしたいのですか?」
「うおっ……キャスター、誰かに見られるとまずいって……」
そんなことを考えながら家への帰り道を歩いていると、今まで霊体化していたキャスターが急に姿を現した。
「良いじゃないですか、周りに誰もいませんし」
言われて辺りを見回す。
夕焼けに照らされたいつもの通学路……だが、確かに人の姿は見えない。
ここ結構でかい道路で人通りも多いはずなんだけど……
なんとなく薄気味の悪いものを感じてキョロキョロと辺りを見るが、人の姿が見えないこと以外は特に異変はない。
俺の気にしすぎか……?
「それで……シンジさんのことですが、昨日は随分と不躾な態度を受けていましたが、それでもシロウ様はあのお方と仲良くしたいのですか?」
「え?あぁ?まぁ一応は友達だしな、昔は割と良く遊んだりしてたんだけど最近は疎遠になっちゃって……桜のこともあるし仲良くできるならそれに越したことはないんだけど……」
「ふぅん、そうです……か、確かにお友達とは仲良しが一番ですからね」
「といっても人間関係ってのは複雑だしな、まぁまたタイミングがあれば慎二とも話をしてみるよ」
慎二との交友関係は考えなければならないが、それは俺のプライベートであって聖杯戦争とは関係がない。キャスターにあまり話をしても仕方がないだろうし、適当なところで話を打ち切る。
「キャスターの方は霊脈の調整とかは終わったのか?」
「はい、諸々の下準備や小細工は終わりました。シロウ様のおウチに魔力が流れるようにラインも作りましたし後は貯まるのを待つだけですね」
「そうか、新しいサーヴァントはいつ召喚するんだ?」
「霊脈の流れが変わったことに勘づく敵もいるかもしれないので早めに召喚しておきたいですが、魔力の余裕もまだありませんからね……明後日、いえ、明日の夜にしましょう」
「明日か……」
もう1人サーヴァントを召喚することができれば、単純に考えて戦力は倍だ。
もっともそう素直に協力してくれるかは分からない……上手くやれたらいいのだが。
「普通、サーヴァントを召喚する際は縁があるものを触媒として英霊を呼び出します。しかし、今回は用意している暇がなかったので召喚者……シロウ様と近しい在り方のものが召喚されるはずです」
「俺に似たやつが召喚されるってことか?なんだかイマイチ頼りにならなそうな気も……」
そんな話をしながら歩いている時だった、ふと視線を感じて前を見ると俺たちの行く先に2人の人影があった。
立ち止まってこちらを向き、じっと俺たちを見つめている。
慌ててキャスターに霊体化するように言おうと思ったが、その前に何か妙なことに気がついた。
「…………あれ、慎二か?」
今日は学校を休んでいたはずの慎二がなぜか待ち構えるようにして立っており、よく見ればその左手には何か奇妙な本のようなものが握られている。
「それにあっちは……」
慎二の隣に立つ背の高い女性へと視線を移す。
紫色のボンテージを纏い、バイザーのような目隠しをした奇妙な出立ち。
最初は遠目で見ていたので分からなかったがこれは……
「まさか、サーヴァントか!?」
キャスター以外のサーヴァントを見たことはないが、明らかに現代のものではない装いからして間違いないだろう。
「ーーやれ、ライダー」
抑揚のない声で慎二が命令を下す。
ライダー……確か騎乗を得意として動物や乗り物なんかを使用することが多いクラスだ。真名は分からないが、やはりサーヴァント……それも俺たちの敵だ。
「うおっ……っと!」
ヒュンッ、と甲高い音を立ててライダーの手に持った鎖がムチのように振るわれ俺たちに向かう。
咄嗟に横に飛んで避けたが、先ほどまで俺が立っていたコンクリートに鋭い傷跡が残る。
「シッーー!」
10メートルほどの距離をライダーはたった数歩で駆け抜けて、その勢いのままこちらに蹴りを入れてくる。
早い…‥早いが対応できないレベルではない。
サーヴァントとは過去の英雄の写し身で人智を超えた存在だと聞いていた。
だか、これなら回避や防御に徹するくらいならできそうだ。
ゴロゴロと転がるようにして、蹴りを避けてそのまま距離を取る。
「素手じゃ厳しいか……」
あのムチのように振り回される鎖が厄介だ、こちらもせめてもう少しリーチが欲しい。
辺りをサッと見回して、偶然道路の隅に置かれていた三角コーンからコーンバーを取って構える。
少し長くて取り回しがしづらいし、プラスチック製の頼りない感触だが何もないよりはマシだろう。
「ハッ……!」
短く息を吐きながら大地を蹴って、そのままコーンバーを槍のように突き出す。
ライダーはぐるぐると自らの腕に鎖を巻きつけて小手のようにし、ジャリっと金属音を立ててそれを防ぐ。有効打にはならなかったか……だか押し合う感覚からは力負けしていると言うほどではない。
大丈夫、サーヴァントとも十分にやり合えている。
「…………」
ライダーを牽制しつつチラリと慎二の様子を伺うが、ただ俺とライダーの戦闘をジッと見ているだけだ。
何か口出しをするわけでもライダーのアシストをしてくるわけでもない。
アイツの性格ならもっと口うるさくライダーに対して命令したりしそうなものだが……
「シロウ様!」
キャスターが杖の先に魔法陣を展開してそこから発射された光弾がライダーを襲う。
何か策があるのか知らないが慎二が動かないと言うならちょうどいい、こちらは2人でさっさとライダーを制圧してしまおう。
「はあっーー!」
キャスターの攻撃で怯んだライダーにブンッと力一杯コーンバーを振り下ろす。
だが、渾身の力をこめた一撃はあっさりライダーの左手で受け止められてしまった。
くそっ、やっぱりこんな棒切れを振り回したところで大したダメージにはならないか。
「シロウ様!強化魔術を!」
キャスターの声が響く。
強化ーー物質の強度を上げるその魔術ならプラスチックのコーンバーをライダーに傷をつけられる『武器』へと変えることができるかもしれない。
「強化ーーーー開始」
精神を集中させる。
構造を解析し、その僅かな隙間へと魔力の糸を通すイメージ
幸い、構造は大して複雑なものではない。
あっさりと解析を終え、魔力を通していく。
血管に針金を通すような、繊細さと慎重さが求められる作業。
肉眼では見えず、実態的にはそこには存在しえない空白へと魔力を浸透させていく。
そうしてコーンバーを鉄の如き強度へと……
「あっ…………」
気が緩んだのか、何かミスをしたのか、それすらも分からない。
いきなり魔力が霧散し、強化しかけていたコーンバーも元の硬さへと戻る。
練習でまともに成功しなかったものが、実戦でたまたま成功する……そんな上手い話はなかったらしい。
「…………」
キャスターはそんな俺の様子を見て、目を伏せる。
「やはり、ダメですか…………」
ふぅ、と言うため息。
失望したかのような言葉に思わず体をビクリと揺らしてしまうが、キャスターはそんな俺の手をそっと手に取る。
「シロウさま、私の魔力に身を委ねて……」
添えられた手を通じて、ぽぅと何か温かなものが流れ込んでくるのを感じる。
これはきっとキャスターの魔力……
「◾️◾️◾️◾️」
キャスターが何らかの呪文を唱える。
だが、俺がその言葉を聞き取ることはできなかった。
それは単に聞き馴染みのない言葉だからというわけではなく、そもそもそれは人類のものではない。もっと古く原始的な神々の言葉。キャスターはそれを使っている。
「これなら……」
淡い紫色の光を帯びたコーンバーを握りしめてライダーを睨みつける。
そんな俺に対してライダーはググっと身を屈め……
「ッ…………!」
跳躍、全身をバネにして砲弾のようなスピードで突っ込んでくる。
これは……速い!
今までもトップアスリート並みの身体能力を発揮していたが、それとはレベルが違う。
明らかに人体の限界を超越した動きでこちらにつっこんでくる。
「くっ…………!」
俺はほとんど破れかぶれにコーンバーを振るって……
「あの魔女には気をつけなさい……」
「…………えっ?」
ライダーが俺に何か囁いたと認識したのは、振りかぶったコーンバーが彼女の体にめり込みその体を吹き飛ばした後だった。
彼女の長い肢体が宙を舞い、ガタンと鈍い音を立ててブロック塀に突っ込む。
「ッア…………」
額からダラリと血を流して、ライダーが苦悶の声を発する。
そんな彼女に向かって、キャスターが静かに杖を向ける。
「◾️◾️◾️◾️」
瞬きとと共にキャスターの錫杖から紫色の光弾が発射されて、矢のような勢いでライダーの胸へと突き刺さる。
「…………」
それがトドメになったのだろう。
今度こそ声すらあげることもなく、サラサラとライダーの体が光の粒となって消えて行く。
これがサーヴァントの消滅か……
「あっ……」
何か声をかけようとライダーに手を伸ばしたが、その間もなく彼女の体は完全に消えてしまった。
後には吹き飛んだ勢いで崩れた瓦礫だけが残る。
「やりましたね!シロウ様!わたしたちの勝利です♪」
キャスターがパチパチと手を叩き、ピョンピョンと飛び跳ねて見せる。
勝利か……確かに勝つには勝ったが、なんだかな……
「そうだ、慎二は……」
サーヴァントは消滅したが、そのマスターである慎二はまだ残っている。
アイツのことだから負けたとなれば癇癪でも起こして、何か面倒なことでもしでかすかしれない。
そう考えて慎二の方に視線を向けたのだが……
「…………」
そこには糸の切れた人形のように頭を下げて項垂れる慎二の姿があった。
その表情は下を向いているので分からないが……こいつがこんな姿を見せるとは、そこまで敗北がショックだったのか?
「お、おい、大丈夫かよ慎二」
慎二はライダーをけしかけてきた敵マスターなわけだか、項垂れるその姿に思わず手を差し伸べてしまう。
「……ありがとう、衛宮」
そうして、差し伸べられた手を慎二はギュッと握ってくる。
こちらを向いたその顔は不気味なまでに透き通った瞳をしていた。
「……僕は魔術師の家系に産まれて、色々と重圧があったんだけどお前に負けてスッキリしたよ。これで魔術だの聖杯だののことは忘れて前向きに生きていける」
困惑する俺をよそにシンジはとつとつと自分の生い立ちを語り始める。
こいつにも色々あったんだな……しかし、それにしてもプライドの高いこいつが自分の弱音をこうも曝け出すだなんて意外だ。
「桜は……大丈夫なのか?」
「……問題ないさ、あいつは魔術のことにはまるで関わっていない。しばらく家がゴタゴタするだろうから学校には顔を出せないかもしれないが、見かけたらまた仲良くしてやってくれよ」
「あ、あぁ……」
あまり人の家庭事情に口を出すつもりはないが慎二は桜のことを邪険にしている節があった。
なのに、こんな桜を気遣うようなことを言うだなんて……それほど敗北が堪えたのか。
「今回はありがとう、衛宮。よければこれからもまた僕と友達でいてくれるかい?」
「それは……当然だろう」
「ありがとう、衛宮……お前は僕の恩人だ。ありがとう、ありがとう、まるで正義の味方だよ、ありがとう」
何度も何度も慎二はありがとうと縋るようにお礼を言ってくる。
その姿にまるで壊れたラジオのようだな、なんてことを少し思いながら宥めると、アイツはすごすごと自らの家へと帰っていった。
去って行く慎二を呆然とした気持ちで見送る。
なんだかな……展開が早すぎると言うか、とんとん拍子で物事が進んで心の整理が追いつかない。
「先ほどライダーを吹き飛ばしてみせたシロウ様のご活躍お見事です!まさに英雄譚の1ページを見ているかのようでした」
釈然としない気持ちでいる俺に対して、キャスターは嬉しそうにニコニコと笑っている。
「あ、あぁ、ありがとう……」
そんな強烈な一撃って手応えもなかったんだけどな……まるでライダー自身が派手に後ろに飛んでみせたような……たまたま上手いことクリーンヒットしてたのか?
「悪しきサーヴァントを打ち滅ぼし旧友と手を取り合う……まさに英雄、正義の味方と言っていいでしょう」
正義の味方……確かに敵サーヴァントを打ち倒し、最近疎遠になっていた慎二とも和解することができた。
これ以上ないほど最良の結末といっていいだろう。
だが……あれが俺の求めていたものだろうか?
俺の求めていた正義の味方はもっとーー
「……シロウ様?」
「あ、いや、なんでもない。キャスターもありがとな、援護してくれて」
……とにかく犠牲者を出さずに敵サーヴァントを倒せたのだ。
今はそれでヨシとしよう。
「そういえば……最期の瞬間にライダーがなにかシロウ様に囁いたように見えたのですが」
「あぁ、あれは…………いや、なんでもないよ。死に際に捨て台詞を吐いていっただけだ」
ライダーの最期の言葉を思い返す。
『あの魔女には気をつけなさい……』
魔女ってのは普通に考えたらキャスターのことだが……
「っ…………」
かぶりを振って、先ほどのまとわりつくようなライダーの遺言を忘れようとする。
負けそうだから適当なことを言って、せめてこちらのコンビネーションにヒビを入れようって嫌がらせだったのかもしれない。
キャスターにわざわざ伝える必要はないだろうし、俺もあまり意識し過ぎるのはよすとしよう。
そう考えながらも、何か言い知れぬ違和感が俺の心の奥底に重い影を落とすのであった。
FGOでメディアリリィの幕間は2個あってパンケーキ魔神柱の方は有名なんですが、「仲良しの魔女」の方も好きなんですよね。