※この作品はR-18です。

【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話   作:ふりかけ@木三中

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2人の従者

 

「問おう、貴方が私のマスターか?」

 

 そう問いかけてくる少女の様子を観察する。

 

 陽の光を束ねたかのような眩い金髪に月の光を鈍く反射する銀の鎧、そしてエメラルドのような静かな輝きを持った瞳がこちらをジッと見据えている。

 

 まだ召喚の儀式をしていないのになぜ呼べたかは不明だが、状況からするに彼女は俺が召喚したサーヴァントで間違い無いだろう。

 

「っ……そうだ!俺がマスターだ!」

 

 俺の言葉に少女がコクリと小さく頷く。

 

「サーヴァント、セイバー……貴方の剣となることを誓いましょう」

 

 セイバー、確か『剣士』のクラスのサーヴァントだが……その手には剣どころか武器のようなものは見当たらない。

 

「マスター、ご指示を……どちらが敵ですか?」

 

 セイバーがキャスターとランサー、2人を睨みながら俺に指示を促す。

 そうだ、セイバーも召喚されたばかりで状況が分かっているはずがないのだから俺がしっかり指示を出さないと……

 

「キャスター……そっちの女の子は味方!槍を持った奴が敵だ!」

「なるほど……それでは……」

 

 セイバーはまずチラリとキャスターを見る。

 その視線にビクリとキャスターは身を震わせたが、セイバーはそれを無視して照準を合わせるようにランサーを睨みつける。

 

 僅かに重心を落として片足を踏み込むセイバー、その一挙一動をキャスターとランサーも見つめている。

 

 そしてーー次の瞬間、セイバーの姿がかき消えた。

 

 目にも止まらないスピード、なんて表現をスポーツの実況なんかで聞くことがある。だが、人間1人の大きさが見えなくなるなんてことはまず無いわけで、それはあくまで速さを表す比喩にすぎない。

 

 けれど、今のセイバーは違う。

 比喩ではなく本当に目で追うことができなかった。

 

 セイバーがランサーに襲い掛かったのだと認識できたのは、ギャギリと甲高い金属音が響いてからだ。

 

「っと……!飛び入りで参加してきた割にはいきなりご挨拶じゃねえか!」

 

 槍の柄でセイバーの攻撃を受けるランサー、涼しげな顔とは裏腹にセイバーの攻撃をガードするのにかなりの力を使っているのが力んだその姿勢から見て取れる。

 

 セイバーの方は相変わらず素手のように見えるが、その素振りからするに透明な何かをランサーに向けて振り下ろしたという感じだ。

 おそらく、あれが彼女の宝具であり、セイバークラスの象徴たる剣なのだろう。

 

「不可視の剣か……どこからか剣を取り出すアーチャーに魔術を扱うキャスターと手品師みたいな奴が続くが……オマエは腕っぷしも立ちそうだな」

 

 ニヤリと獰猛な笑いを浮かべてセイバーを睨むランサー。

 そんなランサーに応じることはなくセイバーはニ撃、三撃と攻撃を加えていく。

 

 ギン、ギン、と響く金属音。

 その度に空気が揺れるような衝撃が肌を揺らし、その威力の凄まじさを物語っている。

 

 例えセイバーの剣が不可視でなかったとしても、この速度では目で追うことはできなかっただろう。そんなセイバーの猛攻をランサーは難なく防いでいる。

 

 力も技術も完全に人智を超えた者同士の戦闘。

 俺なんかの常識ではとても測りきれない光景がそこにあった。

 

「これが……サーヴァント同士の戦い……」

 

 冷や汗が頬をつたい、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 ライダーを倒して……サーヴァントといってもこんなものかと甘く認識している自分がいた。

 サーヴァントは英雄と呼ばれる存在で人類の最高峰に位置する者達だ。

 しかし、そんなサーヴァント相手にも工夫次第では十分にやり合っていけると思っていた。

 

 だが……それはとんでもない思い違いだった。

 英雄とは人類の最高峰に位置する者……などではない。

 そのさらに限界を超えた果てにいる者達のことだ。

 

 万の軍勢をたった1人で打ち滅ぼす者。

 世界を滅ぼす怪物を打破しえる者。

 抗いようのない運命を覆してみせる者。

 

 そんな者達だからこそ、英雄と崇め称えられるのだ。

 

 俺のような取るに足らないガキが何をしたところで敵うはずのない存在、そんな事実をランサーとセイバーの斬り合いを見ているだけでヒシヒシと実感させられる。

 

 ライダーの時はたまたま手を抜いていたのか、本調子ではなかったのか?

 

 他のサーヴァントもセイバーやランサーのような強さだというなら、こんな超常の戦闘に俺が踏み入る余地なんて……

 

「…………」

 

 目の前の戦闘から視線を逸らすように地面を見つめ、僅かに後退りする。

 

 キャスターは俺の正義の味方になるという夢を応援してくれるといった、だがこんな光景を目の前にしては……

 

「シロウさま」

 

 スッとキャスターの白い手が俺の手にそっと添えられる。

 釣られて顔を上げてみれば、キャスターの青い瞳が俺のことをジッと捉えていた。

 

「アナタはいずれ正義の味方になるお方……今はまだ未熟な部分もあるけれど、わたしを信じてくださればきっと望むだけの力を得られます」

 

 握られた手に僅かな力が込められてキャスターの温かな体温が伝わってくる。

 

「ですから、今は焦らず、シロウ様自身の可能性を……そしてアナタを支える私のことを信じてください」

 

 諭すようにゆっくりとした言葉に少し黒い影が差していた俺の心もどこか安堵した気持ちになる。

 

「それに……セイバーさんを儀式無しで召喚できたのも、きっとシロウ様の強い想いのおかげでしょう。シロウさまがわたしを助けようと願った強い想いが召喚の呼び水となった」

 

 そう言って、キャスターはにっこりと微笑むと囁くように続きの言葉を口にする。

 

「シロウ様……アナタのおかげで私は救われました。ありがとう」

 

 ありがとう、その言葉が胸にストンと落ちてくる。

 

 目の前であんまりにも凄まじいバトルをされたもんだから弱気になってしまったがそんな俺にキャスターはありがとうと言ってくれた。

 

 ここから先も足手纏いにならないためにしっかりしなくては。

 

「…………」

 

 キャスターの手をゆっくりとほどき、ふっと軽く息を吐いて、自らの左手の甲を見る。

 

 三画からなる赤い刻印……セイバーを召喚した瞬間に浮かび上がったこれが話に聞いていた令呪という奴なのだろう。

 

 鋭利なその形はどことなく剣を連想させる模様をしている。

 

 マスターの証、サーヴァントへの命令権。

 

 その意味の重さを確かめるようにギュッと手を握る。

 

 今はまだサーヴァントに真正面から打ち勝つことはできなくとも、魔術や令呪でサポートすることは十分に可能なはずだ。

 

 マスターとして戦いをよく見て、アシストしなければ……。

 

「…………」

 

 キッと睨みつけるようにランサーの一挙一動を観察する。

 槍の動き、重心の運び、僅かな攻撃の癖を……

 

 もちろん奴のめぐるましい動き全てを目で追える訳ではない。

 

 それでも必死に目を凝らして、睨みつけるかのようにランサーに視線を集中させる。

 

「へぇ…………」

 

 俺の視線にランサーも気づいたのだろう、今まで俺に対して関心を払ってこなかった奴がニヤリと笑って僅かに視線を返してきた。

 

 その刹那の隙をついてセイバーがブンッと風を斬って大きく剣を振るったが、ランサーは大きくひらりと飛んでそれを避ける。そして、そのまま戦いから離脱するように塀の上へと身を踊らせた。

 

「ようやく面白くなってきたところだが……新たなサーヴァントが召喚された以上、報告しなきゃならねぇからな。残念だが今日はここらでお開きだ……」

 

 ランサーはそれだけ言うと、タンっ……と塀から落ちるように飛び降りてその青い色彩は夜の深い闇へと消えてしまった。

 

「……追跡しますか?」

「いや……深入りはよそう、まずはセイバーと色々話しもしたいしな」

 

 セイバーはしばらくの間ランサーの消えた方向を睨んでいたが、俺がそう言うとやっと剣を下ろした、同時に先程まで緊張していた場の空気が和らぐのを感じる。

 

「ふぅ……なんかゴタゴタした召喚になっちゃったけど……改めて、俺の名前は衛宮士郎だ。一応、君のマスターってことになるのかな。よろしく頼む」

「エミヤ……」

 

 セイバーは俺の名前が何か引っかかったのかエミヤという言葉をぽつりと復唱する。まぁ見た目的にセイバーは明らかに日本人じゃないしな、彼女からしたら聞き馴染みのない名前なのかもしれない。

 

「それでは、シロウとお呼びして良いでしょうか?」

「あぁ、なんでも好きな呼び方をしてくれ」

 

 衛宮という名前は言いにくかったのか下の名前をセイバーは使うようだ。俺としては別になんでも良いのだが、キャスターがいきなり呼び捨てだなんて……と小声でボソリと呟いている。

 キャスターのシロウ様と言う呼び方の方が個人的には少しくすぐったい感じがするのだが。

 

「それで……そちらの少女、キャスターでしたか?彼女は同盟相手という認識でよろしいですか?」

「あぁ……味方なのはそうなんだけど、同盟というかキャスターも俺のサーヴァントなんだ」

「…………二重契約、ということですか」

 

 俺の答えにセイバーが少し顔を険しくさせる。

 聖杯は最後に残ったマスターとサーヴァントの一組にのみ与えられるものらしいので、そのあたりが気にかかるのだろう。

 

「安心してくださいセイバーさん、わたしは聖杯を求めるつもりはありませんから」

「聖杯を求めるつもりがない?ならば、なぜこの戦争に……」

 

 会話の途中で不意にセイバーが言葉を切り、宙を睨みつける。

 

「どうした、セイバー?」

「……………サーヴァントです、先程のランサーとは別の……それもこちらに向かってきています」

「ランサーとの戦いでこの辺りの魔力が乱れてしまいましたからね。ある程度、腕の立つ魔術師なら不審に思って様子を見にきても不思議ではありません」

 

 セイバーの言葉に付け足すようにキャスターがそう説明する。

 くそっ、ランサーはなんとか退けたと思ったのに落ち着く間も無く次の戦闘か……

 

「………ん?シロウさま、おそらくこの魔力は……ガッコウで出会ったトオサカさまのものですね」

 

 気配を探るようにしていたキャスターが、そう追加で報告してくる。

遠坂凛……彼女も魔術師であり、おそらく聖杯戦争に関わってくると前もって聞かされていたが……もうサーヴァントを召喚しているのか。

 ランサーがここに来る前にアーチャーと戦ったと言っていたので、もしかしたらそいつのことなのかもしれない。

 

「……とりあえず遠坂のところに行くが、まずは少し話をしたい。こちらから話しかけてもなおあちらが攻撃してきたら仕方ないが……できるだけ戦闘は避けて欲しい。2人ともそれでいいか」

 

 キャスターはもちろんという言うように大きく頷いてくれたが、セイバーは少し考えるそぶりをしてからゆっくりと口を開いた。

 

「私には……聖杯を手にして叶えなければならない願いがある。それを反故にされない限りはマスターの方針に従います」

 

 聖杯……か、まぁ聖杯戦争の名前の通り、この戦いは聖杯を目的として行われている。最終的にそれを貰えさえすればいいというのは当然だ。

 

 セイバーの願いとやらも気になるが、今はまず遠坂とそのサーヴァントたるアーチャーの元へと向かうとしよう。

 

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