【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「初めまして……お兄ちゃん」
俺たちの行く先に少女が待ち構えていたかのように立ち塞がる。
腰に手を当てて、挑発的な笑みをこちらに向けてるその姿からは自らが上位者であるという自信を感じさせる。
「……シロウ様のお知り合いですか?」
「いや、そんなことはないはずだが……」
キャスターの言葉に首を振って、改めて少女を観察する。
月の光を反射して煌めく銀の髪、どこか人間離れした赤い瞳
一度でも出会っているならまず忘れることのない容姿だ。
「…………」
少女は俺の言葉に一瞬ムッとした表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべる。
そうして、スカートの端をつまみ優雅にカーテシーの姿勢を取ってみせる。
「自己紹介は大事だものね。私の名前はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルン家の現当主にして……バーサーカーのマスターよ」
バーサーカーのマスター
その言葉にイリヤと名乗った少女の後ろ、その背後に立つ存在に視線を向ける。
2メートルはあろうかという巨漢がそこにいた。
鈍色の肌と膨れ上がった筋肉は鋼鉄のような頑強さを連想させる。向けられた赤い瞳は今にもこちらに襲いかからんとばかりに襲いかからんとばかりに血走っており、『狂戦士』のクラス名の通りに殺意を全身から撒き散らしている。
「……ヘラクレス」
キャスターがポツリと呟く、おそらくあの巨人の名だろう。
ヘラクレス……魔術だ神話だのには疎い俺でもその名前は知っている、神々の王ゼウスの血をその身に引き、全てを捩じ伏せる怪力を持って様々な難行をなしたと言うギリシャ神話最大の英雄。
なぜキャスターが一目でその正体を看破できたのかという疑問が一瞬頭をよぎったが、そんなものは目の前の圧倒的な存在の前に消し飛んでしまった。
本能で分かる。
ここまで何人ものサーヴァントに出会ってきたが、このバーサーカーはその中でもぶっきちぎりに危険だ。
「さて、じゃあ……挨拶も終わったし……」
イリヤがニコリとこちらに楽しげな笑みを向ける。
可愛らしい容姿に愛らしい動作、だが……その視線にはどこか冷たさが含まれていた。
「そろそろ死のうか、お兄ちゃん」
言い放たれる死刑宣告、話し合いが通じる雰囲気ではない。
「シロウ!下がってください!」
セイバーの緊迫した声と同時にバーサーカーが動く。
巨大な岩の板とでも形容すべき大剣を持って奴がこちらに突っ込んできた。
「グッ…………!!」
バーサーカーの攻撃をセイバーが自らの剣で受け止める。
ズドンッと響く重苦しい音とセイバーの鬼気迫る表情がその攻撃の凄まじさを物語っている。
「◾️◾️◾️◾️!!」
「このっ……!」
バーサーカーが手に持った大剣を、その質量を感じさせない滅茶苦茶な軌道で振るって見せる。
セイバーはそれらを紙一重で避け、宙を切った斬撃が道路のアスファルトを粉々に打ち砕く。
「はぁっ!」
セイバーの方もバーサーカーの攻撃の隙間を縫って何度かカウンターのように剣を振るう。しかしバーサーカーの頑強な皮膚はそれらを弾き、その身を斬るに至っていない。
「収束……発射!」
キャスターがバーサーカーに向けて杖を振るう。
セイバーを援護するように放たれた紫の光弾がヒュンヒュンと矢のような鋭さでバーサーカーに突き刺さる。
だが……
「◾️◾️◾️◾️」
バーサーカーはキャスターの攻撃を受けても全く怯んだ様子もなくセイバーに攻撃を加え続けている。その肌には傷ひとつついておらず、全くダメージを与えられていない。
セイバーとキャスター、2人がかりでも敵わないのか。
くそっ、俺も見てるだけじゃなくて何か……
「シロウ様!そこから動かないでください!」
じり、とみじろきをした瞬間にキャスターの鋭い声が響く。
分かってる、こんなバトルに俺が混じったところで何もできずに死ぬだけだ。それ以前に戦闘のちょっとした余波でも死んでしまうかもしれない。
ここはセイバー達が俺を守りやすいようにじっとしておく……それが最善手のはずだ……
「このままでは埒が明かない……致し方ありませんね」
攻撃を寄せ付けないバーサーカーを前にして、チラリとセイバーがキャスターに視線を向ける。そうして手にした不可視の剣をあらためて構え直すと、シュルシュルと透明な膜が解けるようにしてその刀身が顕わとなる。
「黄金の……剣……」
思わずその美しい剣に見惚れる。
どんな黄金よりも眩く光る剣……これがセイバーの剣の本来の姿なのだろう。
「風の鞘に黄金の聖剣……なるほどセイバーさんの真名は……」
キャスターもじっとその剣を見て、目を細めている。
「ハァーー!」
セイバーが剣を頭上高くにかかげ、その勢いのままバーサーカーに向けて振り下ろす。
「◾️◾️◾️◾️ーー!」
バーサーカーは顔を覆うように左腕の前腕部で斬撃をガードする。
その左腕をセイバーの剣が切り裂いて、抉れた表皮から鮮血が噴き出た。
流石に腕を切り落とすとまではいかなかったが、初めてバーサーカーにダメージらしいダメージが通った。
「ぐっ……!」
だが、それでもバーサーカーの猛攻は止まらない、クラス名の通りの凶暴性だ。
抉れて骨が見えた左腕でそのまま殴りつけると、その威力にセイバーの体がひらりと宙に舞った。転がるようにしてセイバーはなんとか受け身を取ったが、攻撃がもろに入ったのか苦悶の表情を浮かべて片膝をついている。
「逃げ回られたら面倒だし、捕まえてグチャグチャにしちゃいなさい!」
イリヤの指示が飛び、倒れこむセイバーを掴もうとバーサーカーがその大きな手のひらを伸ばす。
あの怪力で掴まれてしまえば逃げ出すことは困難だろう。
「耐久もかなりのモノのようですが、それよりも本命は一定以下のランクの攻撃を無効にする権能ですか……それならば……」
冷や汗を垂らして慌てる俺をよそにキャスターは冷静にバーサーカーを見据えると、杖をチャキリと構える。
「付与術式構築……属性指定……セイバーさん!!」
ゴウッと音を立ててキャスターの杖から炎が放出される。
セイバーに向けられた火炎放射器のようなその威力に何事かと焦ったがこれは攻撃ではない。
炎は蛇のようにゆらめくと、ぐるりとセイバーの剣に巻き付く。
「支援魔術ですか……これならば!」
セイバーは炎を纏い煌々と輝く剣を見つめて軽く頷くと、バーサーカーに向けて振るう。
「ハアァァァ!!」
「◾️◾️◾️◾️!!」
伸ばされたバーサーカーの手に、炎を纏った剣が触れる。
炎の熱量からかドロドロと奴の皮膚が溶け、さらにその上からバターでも切るかのように剣の切先がスッと走る。
「すげぇ……」
切断されてポトリと落ちたバーサーカーの腕を見て思わず言葉がこぼれる。
先ほどのセイバーの攻撃ではダメージ自体はあったとはいえ決定打に至るほどではなかった、そこにキャスターの魔術を足せばこれほど威力が上がるとは……
「シッーーーー!」
思わず呆けてしまった俺をよそに、セイバーはさらに一歩踏み込むとバーサーカーの右肩から左腰にかけてザンっと斜めに一刀両断にする。
見事なまでの袈裟斬り、バーサーカーの巨大な肉体を完全に切り裂いている。
「…………」
無言のままバーサーカーの上半身がぐらりと揺れ、下半身との繋がりが切れたそれは重力に従いずるりと落下した。
真っ二つに両断されたバーサーカー
切断面はジュウジュウと焼けこげており、落ちた上半身を見ると焦点の合っていない奴の瞳と目が合った。
「や、やったのか……?」
目の前の凄惨な光景に思わず言葉が漏れる。
どう見たって完全に絶命している。
だというのに、セイバーもキャスターも険しい顔をしてそれぞれの武器を握りしめている。
俺自身もゾワゾワとした嫌な予感が体から離れない。
「あは、凄い凄い!バーサーカーを殺しちゃうだなんて」
パチパチと音が響く。
見ればイリヤが俺たちを讃えるように拍手をしていた、その口元には薄い笑みが浮かべられている。
「ランクの低いキャスターの魔術攻撃をセイバーの支援に使うことでバーサーカーの防御を破ったのね。もっと高ランクの大魔術ならキャスター単体でもいけたかもしれないけど、こちらの方が効率的だし……流石にセイバークラスとキャスタークラスのサーヴァントがタッグを組んでるとなると中々に厄介ね」
敗北を素直に受け入れての俺たちへの賛辞を口にしている……というわけではないだろう。
イリヤのあの表情は勝利を確信しているが故の笑みだ。
なんだ……自らのサーヴァントがやられたはずなのに、なんであんな余裕の表情をしているんだ……
「さて、じゃあ……第二ラウンドといきましょうか!」
第二ラウンド……その言葉に嫌な予感を覚えて斬られたはずのバーサーカーにバッと視線を向ける。
果たして予感は当たっていたようで斬られたはずのバーサーカーの肉体が巻き戻しでもしたかのように再生されていく。
そうして数秒後には相変わらず理性の伺えない獣じみた表情でそこに立つバーサーカーの姿があった。
先ほど斬られたはずの傷跡も完全に修復されてしまっている。
完全に死んでたはずなのに……なんだよそれ、そんなのありか……
「っ…………」
セイバーは再度バーサーカーにむけて剣を構えるがその表情は険しい。
先ほどアイツに殴られたダメージも完全に抜けきったわけではないのだろう。
「……ヘラクレスは12の試練を乗り越えて、その報酬として神々の末席に迎えられ不死となったと聞きます。おそらく、あの宝具はその再現なのでしょう。流石にサーヴァントの肉体で完全なる不死性の再現はできないと思いますが、1回や2回では死にきらないかもしれませんね」
キャスターがバーサーカーの再生能力についてそう解説してくる。
生半可な攻撃を寄せ付けない鉄壁の防御力すらあくまで副産物、バーサーカーの真の宝具は死すらも覆す、この圧倒的な再生力だと言う。
どれほど致命傷を与えればバーサーカーが完全に死にきるのかは分からないが、あちらの攻撃だってまともに喰らえばそれだけで吹き飛びかねない威力があるのだ。
このままでは、おそらくバーサーカーを倒し切るよりも先にこちらがやられてしまう。
「やはり、ヘラクレス相手に正面戦闘は厳しいですね。それならば……」
ふぅとため息を一つ吐いてキャスターが手に持った杖の穂先をイリヤに向ける。キィンと音を立てて展開される魔法陣、まさか……イリヤを狙うつもりなのか?
「ちょっと待て、キャスター!」
そんな俺の静止の呼び声は……
「◾️◾️◾️◾️ーー!!」
バーサーカーの咆哮によって掻き消された。
怒りに満ちた雄叫びと共に、奴の大剣が俺たちを襲う。
「あぐっーー!」
まず、バーサーカーの1番近くに立っていたセイバーがその餌食となった。
セイバーは剣でしっかりとガードしたが、その防御すら撃ち抜いてバーサーカーの怪力がセイバーの小柄な体を吹き飛ばす。
その攻撃の威力は明らかに今までよりも一段上だ。
こいつ……理性のない様子から今までも全力で戦っていると思っていたが、まさかまだ強くなるとは……
「…………」
そしてバーサーカーの瞳が俺たちを……正確にはイリヤに魔術を放とうとしているキャスターを射抜く。
「◾️◾️◾️◾️ーー!!」
バーサーカーと俺たちの位置は少し距離がある。
ここから俺たちに向かってきても、キャスターのイリヤへの攻撃を阻止できないと考えたのだろう。
バーサーカーは足下の道路を思い切り叩きつけると、そこから取り出した1メートルほどの瓦礫を俺たちに向かって投げつける。
「うわっ!」
粉々になって砕け、バスケットボールほどの大きさとなった破片が弾丸ほどのスピードで俺たちに迫る。
こんなモノが当たれば人間の肉体なんてたちまちミンチだ。
「っーー障壁展開!」
キャスターはイリヤへの攻撃を打ち切って自身の周りに薄い紫の壁のようなものを展開させる。
だが、咄嗟のことだったので俺への防御までは手が回らなかったのだろう、しまったというような視線で俺を見つめる。
「くっーーーー!」
キャスターやセイバーが防御してくれることは期待できない。
俺自身がなんとかして投げつけられた瓦礫を回避しなくてはならない。
投影による迎撃、強化による防御などが頭の中に選択肢として浮かんだが俺の選んだ選択肢はそのどれでもない。
ただ『見る』ことだった。
スローモーションのように流れる視界の中で、飛来する瓦礫を凝視する。
こう見えて元弓道部だったんだ、視力には自信がある。
見る、見る、見る
歪な形の瓦礫は真っ直ぐには飛ばない。
その空気抵抗を、回転によるブレを、重心の僅かな傾きを、ただ見ることでその軌道を予測する。
「う、お、おおおおおお!」
そうして腰を逸らし、体を無理な体勢に曲げて迫り来る瓦礫を回避する。
掠った瓦礫が耳元でチッ!と凄まじい音を立てて後方に飛んでいったがなんとか無傷で回避することに成功した。
「はぁはぁ、危ね……」
「大丈夫ですか!シロウ様!」
避けた勢いのまま倒れた俺にキャスターが慌てて駆け寄ってくる。
大丈夫だ……と返そうとして俺の視線はある一点に釘付けになった。
「っ…………セイバー!」
いまだ倒れたままのセイバーにヘラクレスが視線を向けて、トドメをさすようにゆっくりと近づいている。
まずい……セイバーはまだダメージが残っているのか地面に倒れたままピクリとも動かない、そんなところにまともに攻撃を喰らったら本当にセイバーが死んでしまう!
「シロウ様は私の後ろに控えていてください、バーサーカー相手には近寄ることすら危険です!」
キャスターが何か言っているが俺の耳にはもはや入ってこない。
考えるよりも先に体が動いた、何が最善だとかは関係ない、ただ衛宮士郎にとって目の前で誰かが傷つくのを見てるだけなんてことは許されない。
ダッと地面を蹴って、セイバーの元に駆け寄ろうとした時だった。
「なっ…………!?」
不意に足をグイッと引っ張られるような感覚、見れば奇妙な紫色のモヤのようなものが足にまとわりついていて、それのせいで足を動かすことができない。
なんだこれ、なんらかの魔術か?
だが暴れ狂うバーサーカーにこんな搦手を使いそうな知性は見えない。
傷つき倒れているセイバーにもそんな余力はないだろう。
1番怪しいのは敵マスターであるイリヤだが……
「…………?」
しかし、予想に反して彼女も訝しげな視線を俺の足元に向けている。いったい何をしているんだといったその表情から彼女が魔術を使ったのではないことを悟る。
ならば、この魔術を使ったのはーー
そう考えた瞬間、目が合った。
冷たい瞳、何かにうんざりしたような何かを軽蔑するようなそんな瞳だ。
キャスターの……いつも優しげでどこか熱を帯びた視線で俺のことを見ていたその瞳が、冷たく俺を睨んでいた。
だが、それも一瞬でいつも通りの柔らかな笑顔と暖かな視線に戻ると俺に優しく声をかけてくる。
「危ないですから……ね、シロウ様はここで大人しく見ていてください」
「あ……あぁ、ごめん。少し逸りすぎたかもしれん」
見間違い……だったのだろうか?
先ほどの冷たい視線が幻だったと思えるほどのキャスターの優しい声音が響く。そうだな……危険を犯そうとした俺を見て少し険しい顔をしただけだったのだろう。
彼女が魔術で俺の足を止めてくれたおかげでかえって冷静になれた。だが、事態は好転した訳じゃない。
なんとかしてバーサーカーを止めないとセイバーがやられる……
「ヘラクレス、小さき命を守ろうとする気高さはアナタらしいですが……これではマスター狙いも難しいですね」
スッとキャスターは改めて杖を構える。
落ち着いた調子で状況を分析するその様子は緊迫した現在の状況からはどこか不自然に感じられた。
「……できれば、コレは切り札として隠しておきたかったのですが」
カンッ、と音を立ててキャスターが地面を杖の先端で叩く。
「あっ…………?」
同時に襲うふわりとした浮遊感、まるで体から一気に力が抜けたのかのようだ。倒れそうになった体をなんとか踏ん張って堪える。
今のは、キャスターが何かしたのか?
だがバーサーカーを見ても特にダメージが入った様子はない。
一体、キャスターは何を…………
「っ…………!」
瞬間、悪寒が走った。
かつて見た地獄
炎に撒かれた街の風景が、人の焼け焦げる匂い、怨嗟と悲鳴の声が俺の中でフラッシュバックする。
俺は……この気配を知っている。
10年前、あの火災の中で嫌というほど感じた濃密な『死』の空気。
「なんだ、それは……」
キャスターの足元からゴボリと黒い泥が溢れる。
深い夜の闇よりも、燃え尽きた黒い炭よりも、この世のあらゆる黒よりもドス黒い黒……そんな色をした禍々しい泥だ。
「そんな……!その力は……!」
ここまでヘラクレスがどれほど攻撃を受けても余裕の表情を保っていたイリヤが、その泥を見て初めて驚愕に顔を歪ませた。
「声は遥かに、私の檻は世界を縮める……」
キャスターが言葉を口にする。
それは呪文だったのだろう。
今までキャスターが使っていた簡潔なものとは違う、詩を口ずさむかのような呪文。
ドロドロとした黒い泥がその呪文に呼応するかのように形を変える。
平面的な黒い影のように薄く広く伸びていき、それらは新体操のリボンのような形をとってシュルシュルと触手のようにキャスターの足元から生える。
「ッーー避けなさい、バーサーカー!」
イリヤの声が響くが、それよりも早く触手がバーサーカーに襲いかかる。
重さなどまるで感じさせない布のような触手がその巨体に巻き付く。
頑強なはずのバーサーカーの表皮、だが黒い触手はそれに触れるとズブズブと侵食するかのようにその体を黒く染めていく。
「◾️◾️◾️◾️ーー!!」
バーサーカーが触手を引きちぎろうと手を伸ばすが、その手すら触手に飲み込まれて体全体に触手が巻きついていく。どれほどの怪力があろうとも質量のない影の触手を掴むことはできない。
「悪念凝縮……発射」
身動きの取れなくなったバーサーカーに対して、キャスターが光線を放つ。
今までもキャスターは何度か光線や光弾の魔術を使用することがあったが、それらはアメジストの輝きを思わせる綺麗な紫色の光だった。
だが、今回のは違う。この世のありとあらゆる黒を集めて煮詰めたようなドス黒い光だ。
「…………ッ!」
漆黒の光に呑まれて、バーサーカーの声のない悲鳴が響く。
そうして光が止んだ時、そこには両足で立つバーサーカーの下半身のみがあった。あれほどの頑強さを誇っていたバーサーカー……その上半身はあっさりと消し飛んだのだ。
その断面は綺麗にパックリと抉れており光線の熱量による焼失やなにか魔術の効果による腐食といった感じではない、光線に触れた部分が消滅した……と形容すべきやられ方だった。
「今の魔術はマキリの……けど、聖杯としての権限がなければこんなことは……あぁなるほど、ふぅん、マキリの杯を使ったってこと。忌々しい……」
ギリっ…と音が鳴りそうなほど歯を食いしばりイリヤがキャスターを睨む。
威圧的な視線はしかし、どこか恐れの感情が混じっているように感じられた。
「◾️◾️◾️◾️」
そうしている内に宝具の効果によって復活したバーサーカーだが、再び影の触手がその体を覆う。このままではまた、先ほどの二の舞となるだろう。
「っ……バーサーカー!私の元へ来なさい!」
その様子を見て慌ててイリヤが叫ぶ。
おそらく令呪を使ったのだろう、バーサーカーの巨体が一瞬で消えて次の瞬間にはイリヤの背後に移動していた。
「…………」
そうして、しばらくイリヤは無言でキャスターのことを睨んでいたがフッと踵を返すとその場から離れていった。
バーサーカー……今まで出会ったサーヴァントの中で1番の強敵だったが、なんとかこの局面を切り抜けることができたらしい。
「うっ…………」
そう認識した瞬間に体から力が抜けて思わず地面に倒れ込む。
張り詰めていた緊張の糸が切れたせいだろうか、思考も急速にぼやけて瞼が重くなってくる。
「…………」
意識がブラックアウトする直前、キャスターがこちらを見ていた気がしたがその表情を窺うことはできなかった。