【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
かつてのわたしは幸せだった。
それはまだ、故郷の家族と共に暮らしていた頃の記憶。
コルキスの姫として優しく大切に育てられていた頃のお話。
王として少し頼りないところがあったけれど私の頭を優しく撫でてくれた父。
時に厳しく行儀作法を私に教えながらも、夜に眠るときは穏やかな子守唄を歌ってくれた母。
私の後をちょこちょことついて回ってお姉さまと慕ってきた弟。
民たちには美しい姫だともてはやされて、時折風変わりな叔母に魔術を習ったりしながら幸せで穏やかな日々を幼い頃のわたしは送っていた。
劇的な刺激もないが優しさに満ちた幸せな時間だった。
そんな幸せが崩れたきっかけは海の向こうからやって来た1隻の船だった。
アルゴノーツ……船に乗る戦士たちの集団はそう名乗った。異国より我が国の宝である金羊の皮を求めてやってきたのだという。
船長であるイアソンという男が王位を継ぐために必要な試練らしいが、私たちにしてみれば彼らは宝を狙う盗人と大差なかった。
「彼らは異国において英雄と呼ばれる強者達らしい、正面から事を荒立てるわけにはいかない。無理難題を押し付けてなんとか彼らには諦めてもらうから、お前達は出てきてはいけないよ」
お父様はそう言って、わたしと弟を彼らから隠すように城の奥深くの部屋へと連れていった。
けれど、わたしはそんなお父様の言いつけを破ってこっそりと部屋から抜け出してアルゴノーツと呼ばれる彼らを盗み見た。
それはお父様のことが心配なのもあったし、あるいは今までこの国の中だけで育ったわたしの外の世界への憧れがそうさせたのかもしれない。
そんな軽はずみな行動が……わたしの運命を捻じ曲げるとも知らずに。
「っ…………!」
彼らのリーダーであるイアソンという男を一目見て、体に稲妻が撃たれたかのような衝撃が走った。
流れるような金の髪にエメラルドのような緑の瞳。
体と頭が燃えるような熱に支配される。
それからのことは……よく覚えていない。
ただ熱にうなされるように彼のことだけを考えていた。
その熱が……恋と呼ばれる感情だと知ったのは後になってからだった。
その恋が……神々によって仕込まれた感情だと知ったのは全てが終わってからだった。
そうしてわたしは気がつくと、異国の地に立っていた。
父を裏切って彼が金羊の皮を手に入るように手を貸したこと。
追手から逃れるためにまだ小さかった弟を手にかけたこと。
王位を得られず癇癪を起こした彼がこの地の王の殺害をわたしに命じたこと。
そしてどうやら、手にかけたそのタイミングで呪いが解けたらしいこと。
そんな記憶をぼんやりと他人事のように認識する。
あぁ、どうにもわたしは取り返しのつかないことをしてしまったらしい。
隣で彼が何か喚いている、あれほど愛していたはずの彼の言葉がわたしの体をすり抜ける。
祖国も家族も、全てを捨ててまで選びとったはずの恋はすっかり価値のないゴミに成り下がっていた。
それからは……ただひたすらに逃げ続ける人生だった。
祖国を捨てた愚かな王女。
魔術で人を謀る血濡れた悪女。
そんな言葉がわたしの心を突き刺した。
そうして幾年かの時がたった。
かつてはわたしに愛を囁き、自らが王になって平和な国を築くのだと目を輝かせて理想を説いた彼さえも裏切りの魔女だとわたしを罵るようになった。
そうしてその言葉を聞いた時にわたしの中でなにかが切れた。
箱庭の中で大事に大事に育てられた白百合は、その棘で人を傷つける黒薔薇へと生まれ変わる。
いいだろう。
お前達が私をそう呼ぶのなら、そう振る舞ってやろう。
裏切りの魔女としてこの世に災厄を振り撒いてやろう。
そんなふうに『私』は考えたらしかった。
そうして『大人』の私は魔女へと変わったらしかった。
けれど……『わたし』は違った。
幼い頃のままの『少女』としてのわたしは違った。
彼に恋をしたあの日から故郷に置き去りにされたように心の奥底で眠る『わたし』は違った。
つまらない、くだらない、そんなことに意味はない……そう冷めた思考で大人の私を見ていた。
わたしが全てを捧げた恋も彼が目を輝かせて語った理想も結局は意味のないモノへと成り果てた。
神々によって捻じ曲げられた意思で彼と契りを結び、祖国を裏切って……そうしてまた自分の意思で彼を切り捨てた。
かつての幸せだった過去もこれから破滅だけが待つ未来もわたしにとってはどうでも良かった。
意味がない、意思がない、意義がない。
恋と理想、約束と裏切り、過去と未来。
全部、全部、それらは私にとって価値のないモノだった。
そうして、そんな考えはサーヴァントとして聖杯戦争に召喚されて何故か幼い姿になった後も変わることはなかった。
高慢ちきなマスターを殺したことも、その後にランサーの襲撃に遭ってこうして藪の中で死にかけていることも、わたしにとってはどうでも良かった。
ただ体を打ちつける激しい雨が冷たいなぁとぼんやりとそんなことを考えていた。
もう魔力はほとんど残っていなくて、ゆっくりと目を閉じ消滅の時を待つ。
「…………」
薄れゆく意識の中で走馬灯のようにかつて幸せだった頃の光景を見た。
青い海と広い空が一面に見える懐かしの故郷。
わたしと弟が走り回る姿を遠くからお父様とお母様が微笑みを浮かべて眺めている。
そんな幸せな光景も……わたしにとってはもう意味のないものだった。
あぁ、それにしても体が寒い。
雨はますます酷くなって容赦なくわたしの体から熱を奪う。
寒い、寒い、寒い。
誰かわたしの体を温めて欲しいだなんて都合のいいことを思ったけれど、周りには誰もいるわけはない。
わたしを愛してくれた家族も。
わたしを慕ってくれた民も。
わたしが愛したはずの彼も。
誰もいない。
わたしは1人だった。
「ーー1人に……1人にしないで」
思わず、そんな言葉が漏れた。
けれども、その呟きは誰にも聞かれずに夜の闇に消える。
そのはずだった。
そのはずだったのに……
「…………」
誰かが、わたしの手を握った気がした。
◇
「うっ……んっ……」
ゆっくりと目を開ける、どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。
何か……とても哀しい夢を見ていた気がする。
その夢の内容を思い出そうとして……。
「んっ!?えっ?なんだこれ!」
自分の置かれている異常な状況に気がついた。
木製の固い木の椅子に座らされて、両手と両足を縛られていたのだ。
ぐるりと辺りを見回す。
畳の敷かれたこじんまりとした和室、部屋の隅にタンスがいくつか並んでいるだけでそれ以外には何も置かれていない。
おそらく柳洞寺のどこかの部屋なのだろうが……なぜ、俺はこんな監禁でもされるような真似にあっているんだ?
「このっ!くそっ……んぎぎっ……」
ガタガタと椅子を揺らしながら拘束を解こうと手足を縛る縄を力任せに引っ張るが……びくともしない。
「くっ……だめか」
紫色に光りグニョグニョとした奇妙な質感の縄……おそらく魔術によって生み出されたものなのだろう。どれだけ力を込めても千切ることはおろか、締め付けが緩むこともない。
「あら、シロウ様。もう目覚めていたのですね」
そうしてしばらく縄に対して悪戦苦闘しているとガラリと襖を開けてキャスターが部屋に入ってきた。俺のこの現状を見ても驚くこともしない。
「……これはキャスターがやったのか?」
この状態で他に下手人がいるとも思えないが、念のために聞いてみる。
「はい、シロウ様には聖杯戦争が終わるまでここで過ごしていただこうと思いまして。あっ、食事や排泄のお世話は全部わたしがやるつもりなのでその辺は安心していただいて構いませんよ」
ニコリと笑いながらキャスターはそんな恐ろしいことを告げる。
「……なんでこんなことを、俺が邪魔なら他にもっと良い方法があるだろう?」
「邪魔だなんて……ただ、わたしはシロウ様を守りたいだけですよ。こうでもしなければアナタはサーヴァントと戦おうとするでしょう?」
俺のため、か……キャスターの行動原理は常にそれだ。
過程はどうあれ、キャスターは出会った時から今までずっと俺のことだけを考えて動いている。
今回の件も軟禁して俺を危険から遠ざけるためなのだろう。洗脳でもして俺の意思を刈り取らなかったのはキャスターなりの慈悲なのか……
「ランサーとの戦いのシロウ様は惚れ直しちゃうぐらいかっこよかったですけどね。それでもサーヴァントとの戦闘に耐えられるほどの強さはありません」
ランサーとの戦いにおいてはなんとかキャスターのサポートをすることができたが、それで別にサーヴァントと渡り合える強さを手に入れたわけでもない。
結局の問題は俺が弱いことだ。
俺が弱いから、キャスターも心配をして閉じ込めるような真似を取らざるをえないのだ。
「…………さっき眠っている時に不思議な夢を見た。あれはキャスターが見せたのか?」
「夢?どんな夢を見てたんですか?」
「いや、違うならいい……」
俺の言葉にキャスターは不思議そうに首を傾げる。
先ほど見た夢……と言うにはあまりにリアルすぎるそれはきっとキャスターの過去の記憶だ。
幸せだった少女の頃から運命を歪められて魔女に堕ちて……そうしてサーヴァントとして俺に拾われるまでの記憶。
キャスターが俺の同情を引くために魔術で俺に見せたのかとも思ったが、反応を見るに違うのだろう。まぁあの過去はきっと彼女にとって思い出したくもない苦い記憶なはずだ。例え俺の憐れみを誘えると思ったのだとしてもその恥部を曝け出すような真似はしないだろうという確信があった。
おそらくあれはキャスターと正式な契約を結んだおかけでできた『繋がり』の影響で彼女の記憶を垣間見たのか、あるいは俺がキャスターとちゃんと向き合う覚悟を決めたから夢という形で彼女の過去を見たのかもしれない。
「キャスター、俺は……」
キャスターには洗脳や魂喰いのような悪いことはしないでほしい。
セイバーや遠坂にも謝って、桜も開放してほしい。
聖杯の力を使って正義の味方になんてなるつもりはないから、汚染された聖杯に対処するために共に戦ってほしい。
そんなふうに色々とキャスターには言いたいことがある。
そうしてキャスターに何か言おうとして、俺は口を閉じた。
夢で見た、彼女の記憶を思い出したからだ。
「…………」
キャスターは人の意思や感情というものを無意味なものだと考えている。しかもそれは他者に対してだけではない自分自身のものですらそうなのだ。
おそらくそれは神々によって意思を捻じ曲げられて、自分の心も他人のことも裏切り裏切られ続けてきた結果なのだろう。
以前、俺への好意がエロースの矢によって植え付けられたものなのではないかと聞いた時にキャスターはそれは重要ではないと切り捨てた。
偽物でも本物でもその瞬間の気持ちは真実なのだからそれでいいじゃないですか、とそう言って笑ったキャスターの悲しげな瞳を思い返す。
あれは今の自分自身の気持ちを肯定するようなポジティブな感情から出た言葉ではない。
それはある種の諦め。
人の意思なんて簡単に崩れさる信頼に値しないものなのだという絶望からの言葉なのだろう。
そんな状態でいくつ言葉を重ねたところで、キャスターの心に届くわけがない。
今後悪いことをしないと約束をさせたところで、必要になれば彼女は平気でそれを破るだろう。
「…………」
……信じてもらう必要がある。
まず俺のことを、俺の言葉を、俺の意思を信じてもらわなければどれだけ話をしたところで空虚な言葉のやり取りがなされるだけだ。
それでは何の意味もない。
だが、どうすればいい?
どうすればキャスターの信頼を得られる?
何か……何かないのか……。
俺がキャスターに示せるものが……。
俺を信じてくれと言い切れるだけの根拠が……。
「っ……敵襲、これは……セイバーさんとトオサカさんですね。ついに来ましたか……」
悩む俺をよそにキャスターが唐突に弾かれたように顔を上げた。
討伐令が出されている俺をついに遠坂達が討ち取りにきたようだ。
しかしセイバー……キャスターと共に俺が逃げ出したあと有耶無耶になっていたがどうやら今は遠坂と共にいるらしい。
どう言ったやり取りがセイバーと遠坂の間で行われたのかは分からないが、客観的に見て俺はセイバーを捨ててキャスターを取り、しかもそのキャスターを制御することもできていないのだ。
完全にマスターとして失格……セイバーが遠坂についたことで恨み言を語る資格などないだろう。
「あちらにはアーチャーさんもいるようですし面倒ですね、こちらもアサシンが残っていればよかったのですが……えぇ、ですが大丈夫ですよ。こちらには黒い聖杯がありますから。これさえあればどんなサーヴァントにも太刀打ちできます」
「っ……キャスター、それはダメだ!」
ダメだ。
あの黒い泥の力を使えば桜は傷つくしキャスターもさらに罪を重ねることになる。
そんなことはさせたくない。
「大丈夫、大丈夫ですよ。万事をわたしに任せてくだされば……シロウ様はここで大人しくしていてくださいね」
だが、キャスターは俺の制止を無視して部屋から出ていってしまう。ダメだ……このままだと遠坂やセイバーまでやられてしまうかもしれない。
「くっ……強化開始」
1人きりになった部屋でなんとか拘束を外そうと強化魔術を使用する。筋力を強化すればあるいはこの縄を引きちぎることも出来るかもしれない。
「あっ…………」
だが、魔術回路を励起して筋肉や神経に魔力を通そうとしたところでその魔力が霧散してしまった。魔力のコントロール不足による失敗……こんな初歩的な魔術すら満足に扱えない自分の無力さに腹が立つ。
だが、今はできないものを悔やんでいる時間すら惜しい。確実に使える魔術でこの局面を切り抜けるしかない。
「構造把握ーー解明」
縄をギュッと手で握りしめてその構造を把握する。
構造把握は今までも何回も使ってきた魔術だ、縄の僅かなほつれや歪みを余すことなく把握する。
「ここがちょっと弱くなってるな……ならこっちに引っ張れば……」
そうしてグイグイと手を動かして縄に切れ目をつくり、何とか引きちぎることに成功する。
「よしっ!」
同じように足に結ばれていた縄も切断し、完全に自由の身になることができた。
早くキャスターのもとに行って、彼女の凶行を止めなければ……
◇
駆けつけてみるとキャスター達は柳洞寺の広い境内に立っていた。
セイバーとアーチャーを連れた遠坂がキャスターをジッと見つめている。
幸いにもまだ本格的な戦闘は始まっていないようだがその場には静かな緊張感が走っている。
「キャスター!」
「……シロウ様!どうやって拘束を?」
キャスターの名を叫び緊張が走る戦場へとその身を踊らせる。
キャスターは俺の登場に驚くように目を丸くしていたが、そんな彼女の目の前に背を向けるように立つ。
「…………」
そうしてじっと遠坂を見つめて、キャスターを庇うように僅かに腕を広げて見せる。
「衛宮君……元気そうなのは何よりだけどその手はどういうつもりかしら?アナタ……まさかキャスターを庇うつもりじゃないでしょうね」
そんな俺に遠坂が冷たい眼差しを送ってくる。
その後ろに控えるアーチャーは険しい表情を浮かべ、セイバーは俺に対して気まずそうに目を逸らしながらもその手にはしっかりと剣が握られている。
俺の返答次第では、遠坂達はきっと俺ごとキャスターを殺しにくるだろう。
キャスターを守るのか、それとも殺すのか。
いつかも同じような問いかけをされて、あの時の俺は答えを出せずに逃げ出した。
そうして、今の俺の答えは……。
「…………分からない、まだ答えが出ていないんだ。キャスターを倒すべきかどうか」
それが今の正直な俺の答えだった。
キャスターの悪事が露見してから、彼女のことを知ろうと俺なりに努力をして彼女の本当の名前や過去の逸話を知ることができた。
だけどもそれらはただの情報に過ぎない。
まだ、俺はキャスターと言う少女のことをしっかりと見れていない気がするのだ。
だが俺のそんなぼんやりとした答えに遠坂はキッと目尻を吊り上げる。
「はぁ?まさかキャスターがいい子ちゃんだとかまだ思ってるのかしら?だったら……おめでたいにも程があるわ」
「いや……キャスターが色々と裏でやっていたのは知ってるよ。それは許されないことだ」
魂喰いや洗脳、その他にもキャスターは俺に黙って色々なことをしていた。ひょっとしたらまだ俺に隠れて裏で何かやっている可能性だってある。
だが、それでも……
「俺の中で……まだ納得がいってないんだ」
キャスターを打ち滅ぼすべき悪として倒す、そのことに俺はまだ納得がいっていなかった。
ホントにそれしか結末がないのか?
もっと選べる道があるんじゃないのか?
そんな疑念が心の奥でざわつくのだ。
「衛宮君の納得だなんてこっちは知ったこっちゃないわ。被害は現に出ているし、そうでなくても敵サーヴァントは倒すだけよ」
「……遠坂達にとっても利益はある。なんでも今回の聖杯は呪いによって汚染されているらしい、キャスターなら……それを正常に使用できる」
かつて召喚された悪神によって汚染された黒き聖杯
その詳細を遠坂達に告げる。
遠坂は驚いた顔をしつつも俺の説明を聞いていたが、その目の険しさが変わることはなかった。
「……その話が本当だとしてもキャスターの手を借りるには信用が無さすぎるわね。キャスターを倒した後に私たちだけでその汚染された聖杯とやらの対処をした方がずっと安心できる」
そんな冷たい言葉を遠坂が返す。
後ろに立つアーチャーとセイバーも思案するような顔を浮かべてはいるがやはり遠坂の意見に賛成らしい。
「頼む遠坂!もう少しだけ時間をくれ。キャスターのことも……俺がなんとか説得して見せるから!」
それでも俺はなんとか戦いを回避しようと遠坂達に頭を下げる。
そんな俺に対して遠坂は心底不思議そうな顔を浮かべる。
「……分からないわね、どうしてそこまでキャスターの肩を持つのかしら?衛宮君だってキャスターに騙された被害者なのよ?」
騙された被害者か……確かに、キャスターは俺に黙って悪事を働いていたしさっきだって軟禁されかけたわけだ。
それでもまだキャスターを庇おうとしている俺は何かおかしいのかもしれない。
けど、それでも俺は……
「……俺は、キャスターのマスターだ」
俺の言葉に、背後に立つキャスターが僅かに息を呑んだ気がした。
「最初にキャスターを助けたのは偶然だった。けど、そのあとは俺自身の意思でマスターになった。キャスターは確かに許されないことを数多くした……だけどそれは俺を聖杯戦争で勝たせるためで……そんなキャスターを一方的に切り捨てることは彼女に対する裏切りな気がするんだ」
キャスターはサーヴァントとしてやれることをやっていただけで凶行を重ねさせてしまったのは俺のマスターとしての実力不足が原因だ。
「キャスターをどうするか……ちゃんと彼女と向き合って納得をしてから決めたい。それがキャスターのマスターとしてのケジメだと思うから」
気の済むまで話をして、言葉が尽きるまで説得をして、俺の想いを完全に伝えて、それでもキャスターが悪事を重ねると言うのならばその時は俺も覚悟を決めよう。
だけど、まだ俺はキャスターと話し合える余地があると思っている。
それならば、まだ遠坂達にキャスターを倒させるわけにはいかない。
「…………」
一度、言葉を切って今度はセイバーに視線を向ける。今は遠坂と行動を共にしているようだが、俺とセイバーの魔力パスはいまだ切れずにつながっている。
「セイバー……セイバーからしたら俺は多分マスター失格のへっぽこ魔術師だろう。けど俺はセイバーのマスターであることだって諦めたつもりはない。セイバーのことだってもっと色々知りたいし、その願いだって叶えたいと思ってる。その気持ちに嘘はないよ」
俺の言葉にセイバーの翠の瞳が揺れる。
「何いってるの!そんな言葉に揺さぶられちゃダメ!もう被害は出てるのよ!」
「頼む、セイバー……俺を信じてくれ!」
遠坂と俺の叫び声が柳洞寺の広い境内に響く。
セイバーはそんな2つの声を聞き、苦悶の表情を浮かべながらも……ゆっくりと手にしていた剣を僅かに下ろした。
「シロウ、私は……」
そうしてセイバーが俺に対して何か言おうと小さく口を開いたその瞬間ーー
「いかんなぁ……我が花嫁ともあろうものがそんな言葉に惑わされては」
ーーそんな場違いな声がどこからか聞こえてきた。