【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「…………ありえん」
セイバーの奪還を喜んだのも束の間、底冷えするような低い声がポツリと響く。
視線を向ければ、ギルガメッシュがその端正な顔を歪めて鬼のような険しい形相で俺たちを睨んでいた。
目は血走り、歯を割れんばかりに噛み締めるその様子からは溢れるほどの怒りと屈辱が見て取れる。
「ご自慢の千里眼を出し抜かれたことを受け入れられないようだな、英雄王」
そんなギルガメッシュに対して、セイバーが一歩前に出て挑発するような言葉を投げかける。
「我の千里眼から雑種ごときが逃れられるはずがない……奇跡的な偶然に恵まれただけであろう」
「偶然……いいや、これは必然だ。シロウが令呪を使う直前……あの瞬間、その視線は私の剣でも指示を出す貴様でもない、キャスターにだけ向けられていた」
確かに……自分でもあまり意識していたわけではないがあの瞬間、キャスターに右に避けろと命令する直前に俺が意識を向けていたのはキャスターだった。
攻撃をしようとするセイバーでも、その背後にいるギルガメッシュでもなく、ただキャスターだけを見つめていた。
「ギルガメッシュ、確かに未来を見通す貴様の千里眼は脅威だ。実際、キャスターの動きを見通してみせたのだから」
数秒先のキャスターの避ける向き、そのタイミングをギルガメッシュは完璧に見切っていた。
その采配にミスはなかった、誤算があるとすれば俺の存在だ。
「だがシロウはキャスターを見て、その動きを貴様の千里眼よりもさらに先の未来まで見通していた。だからこそ、キャスターの動きを予知したその攻撃を回避することができたのだ」
これまでずっとキャスターと共に戦ってきて、ずっとキャスターの動きを見ていたのだ。
彼女がどのタイミングでどの方向に避けるのか、そのくらいは僅かな仕草や動きを見ていれば分かる。
キャスターが決定的な隙を晒すタイミングをギルガメッシュは狙ってくるだろうから、あとはそこに令呪で真逆の動きをさせれば意表をつくことができると言うわけだ。
もっとも、令呪で命令を出した瞬間はそこまで考えていたわけでもなく無意識での行動だったのだが、だからこそギルガメッシュも読み切ることができなかったのだろう。
「キャスターの覚悟も大したものだ、普通は急に令呪を使われたならば無意識レベルで弾こうとする、体をいきなり他人に操られるのだからな。もちろんその場合でも令呪は効果を発揮してほんの僅かばかりの淀みが動きに発生するだけだろう。それでも、あの一瞬の攻防ではそれが命取りになっていたはず……だがキャスターの動きにはそれがなかった。シロウを心の底から信じ、その身を委ねていなければできない芸当だ」
セイバーの言葉に思わずキャスターを見る、その瞳には揺らぐことのない強い意志のようなものが見てとれた。
剣の切先を目前にした状態で俺にその命を託したその覚悟と信頼に、俺もなんとか応えることができたようだ。
「貴様は言っていたな。未来を見通す千里眼……それは冠位のキャスターたる資格だと。マスターとしても魔術師としても、シロウやキャスターよりも自らが上なのだと。だが……そんなものに頼らずとも彼らはお前を出し抜いて見せた。2人の信頼と絆の力にお前は負けたのだ」
負け、という言葉にギルガメッシュの怒気がいっそう高まる。
そして視線だけで呪い殺せるのではないかと言うほどの凝視をもってセイバーの顔を見つめ……
「…………フフッ」
笑った。
「フッ、フハハハハッ、フハハハハハハッ!!!」
空気が割れんばかりの哄笑、
つんざくような高笑いがあたりに響く。
そうしてひとしきり笑った後……
「…………」
スッと重い沈黙と共に赤い瞳が俺に向けられる。
「うっ………」
思わず呻くような声が漏れる。
戦う覚悟なんてとうの昔に決めていたはずなのに、その赤い瞳に睨まれただけで硬直したかのように体が動かなくなる。
なにか魔術的な拘束によるものではない、ただ純粋な殺気によってだ。
今まではくだらない戯れ、路傍の石ころとしか認識していなかった俺を殺すべき敵として奴が認識を改めたということだ。
人間は…… 激しい嵐の中でも何かに隠れて雨を凌ぎ、何かにしがみついて風を耐えることができる。
だが、それは人間が嵐よりも強いわけではなく嵐が無差別にその災害を撒き散らしているからにすぎない。
もしも嵐が殺意を持って一個人にその猛威を奮えばどうなるか……そんな恐怖が頭をよぎる。
「少しばかり……戯れがすぎたな」
ゆらりと奴の体を金色の粒子が纏い、その装いが現代のものと思われる黒のライダージャケットから神話の時代に纏っていた金色の鎧へと変わる。
「攻撃を1度躱した程度で得意になっているようだが、だからどうしたと言うのだ?我には無限に等しい財があるのだ、貴様らの言う絆とやらでその全てを避け続けられるとでも?」
何十、何百、何千……いや、もはや数えきれないほどの剣が奴の背後に現れて、その全ての切先が俺たちを狙う。
『王の財宝』
古今東西の宝具を所有し、それらを放つことのできる出鱈目な宝具だ。
かつてこの攻撃を受けた時の俺たちはなす術もなくやられることとなった。そして、その脅威の餌食となった俺を助けるためにセイバーはギルガメッシュのもとへ降ることとなったのだ。
だが、今はこうしてセイバーを取り戻してあの攻撃に対する心構えもできている。
それに……あの時と違って今の俺たちにはマスターとサーヴァントとしての絆がある。
無限と呼べる奴の攻撃の中の僅かな反撃の糸口を必ず探り当てることができるはずだ。
残り一つとなった令呪を確認するようにギュッと手のひらを握りしめる。キャスターとセイバーもそれぞれ杖と剣を構えてギルガメッシュに対峙する。
目を細め、奴の背後に浮かぶ無数の剣を注視する。
俺自身に奴の攻撃を捌くすべは無いが、それでもせめて活路を見出すことくらいはできるはずだ。
「っ…………」
息を軽く吸って、奴の攻撃に備える。そうして奴の『王の財宝』の剣がジリっと僅かに動いた瞬間……
「双方、そこまでだ。武器を下ろしたまえ」
場違いな声があたりに響いた。
言い聞かせるような落ち着いた男の声。
俺はこの声に聞き覚えがある……この声は……
「言峰……綺礼!!」
深く黒い司祭服と金のロザリオを身につけた神父がそこにいた。
闇のように深い瞳が俺たちとギルガメッシュを見つめている。
なぜ奴がここに……?
そんな疑問が頭をよぎる。
いや……奴が俺たちの戦いを仲裁したこと自体はまだ理解できる、奴はこの聖杯戦争の監督役なのだから。
俺と奴が最後に会話をしたのはキャスターの暴走によって俺たちに討伐令が出された時のことだ。
あれから様々な出来事があって遠い過去の話のように感じるが、その討伐令は未だ解除されたわけではない。
そして、俺たちと対峙するギルガメッシュも前回の聖杯戦争を生き延びた8番目のサーヴァントというイレギュラーな存在だ。
そんな俺たちの戦闘を監督役であるアイツが静止するのはおかしな話ではない、おかしな点があるとすればただ一つ。
奴の愉悦に歪んだその表情だ。
後ろ手に腕を組み、ゆったりとした姿勢で俺たちとギルガメッシュを見ている。
何がおかしいのかニヤリと口角を上げ、蛇のように粘ついた視線で俺たちを見るその表情に、本能的にザワザワとしたものを感じる。
「綺礼……何の真似だ?我の邪魔立てをするつもりか?」
ギロリとギルガメッシュが奴を睨む。
その声音には底冷えするような殺気とほんの僅かな気安さのようなものが感じられた。
「何の真似だと問われてもな。私はお前のマスターだ、その私が命令することになんの疑問がある?」
マスター……?
言峰がギルガメッシュの……?
いきなりの告白に衝撃を受けるが、監督役であるアイツなら10年前の聖杯戦争の生き残りと何か関わりがあるのも不思議ではない。
「くだらん、主従契約など形だけのものだ。我を従えることができるのはこの世界で我自身のみだ」
「ふっ……そうして自由に振る舞いセイバーのマスターを気取ったあげく、衛宮士郎に敗れたわけか」
嘲るような笑みをギルガメッシュに投げつける言峰。
こいつ……死にたいのか?
ギルガメッシュとは別に親しく会話したわけでもないが、誰かの下につくことを良しとする性格じゃないことくらいは分かる。
そんな奴にマスターとして命令をし、敗北を笑うなど自殺行為としか思えない。
「…………」
だが意外なことにギルガメッシュは反応を返さない、ただ無表情に言峰を見つめている。
「偉大なるウルクの王とはいえ、サーヴァントは所詮サーヴァント……マスターとして敗北した以上はそう振る舞うのだな」
「綺礼……貴様、何を企んでいる」
「企むなどと……私の目的はお前もとうに知っていよう」
「…………」
ギルガメッシュの全てを見通す赤い瞳が言峰をジッと見つめる。
そこには僅かに警戒の色が含まれているように感じた。
「それに、ここでセイバー達を殺せばそれがこの聖杯戦争の最後の戦いとなる。お前の財の力を十全に使えば敗北することはまずないだろうが、それでは味気ないだろう。少なくとも決戦には相応しい場というものがあるはずだ」
ギルガメッシュの赤い目を前にしても、まるで動揺する様子もなく平然と言峰は話を続ける。
そうして僅かな沈黙の後、不意にギルガメッシュが言峰から視線を外した。
「ふん……まぁよかろう。ここは大人しく引き下がっておいてやる」
それだけ告げると、ギルガメッシュの姿がフッとその場から消える。おそらく何らかの宝具の力でどこかに転移したのだろう。
後には俺達と言峰だけが取り残される。
「言峰……」
何と言ったらいいか分からず、ただ奴の名前を呼ぶ。
状況だけ見ればギルガメッシュから俺たちを助けてくれた形だが……ギルガメッシュのマスターであるという事実や謀り事を隠そうともしない奴の暗い目が、警戒を怠るなと俺の中で警鐘を鳴らせ続ける。
そんな俺に対して言峰はゆっくりと口を開く。
「衛宮士郎……まずはおめでとうと言っておこうか」
「は?おめでとうって……何にだよ」
「ここまで生き延びたことに……だ。私としても討伐令を出してしまえば1日も待たずに死ぬと思っていたのだかね、しかし現実は他のサーヴァント達を打ち倒し、ギルガメッシュにさえ一矢報いてここに立っている。まさに奇跡としか言いようがあるまい」
パチパチと小さく奴が手を鳴らす。
その喝采が世辞か本気かは分からないが、俺が死ぬと思っていたというのは本音だろう。
一度は討伐令によって他の全陣営を敵に回し、さらにギルガメッシュにセイバーを奪われたのだ。そんな俺がこうして生き延びていることは奴にとっても計算外だったはずだ。
「…………」
チラリと言峰の視線がキャスターを射抜く。
「先ほどのギルガメッシュとの戦いは私も見ていたよ。深い信頼がなければできない見事な戦法だった。神話の中で語られる彼女とは随分と印象が違ったがね」
こいつ……キャスターの真名を知っているかのような口ぶりだな。
まぁもはや、こいつがただの聖杯戦争の監督役では無いなどということは雰囲気でわかりきっているしキャスターの前マスターとも話をしたことがあるようだから、それくらいのことで一々驚いだりはしない。
「言峰……お前、何がしたいんだ?単に聖杯に願いを叶えてもらおうってんならさっきギルガメッシュが俺たちを殺そうとするのを止める必要なんかなかったはずだ」
「聖杯……万能の願望機か、くだらん。そんなものでは私の願いは叶えられない。強いていうならば……私の興味は聖杯の中身にあるがな」
聖杯に興味はないが、その中身にはある?
その意味を考える前に俺の横にいたキャスターが険しい声を発する。
「アナタ……まさか、聖杯の中にある呪いを解放するつもりなんですか?」
聖杯の中にある呪い。
かつて召喚された邪神の残滓だというそれは、キャスターが桜の体を通じて影や泥として扱っていた。
あの力が言峰の目的なのか……?
「呪い、なるほど……裏切りの魔女と呼ばれた君でさえ『アレ』をそう呼ぶか」
言峰はそんなキャスターの疑問に答えず、思案するように眉根を寄せる。
「おい、質問に答えろよ……聖杯の呪いを使って世界を破壊しようとでも言うのか」
「ふむ……その問いに答えるならばイエスでありノーだな。結果的にはそうなるかもしれないが、それ自体は私の望みではない」
訳の分からない言峰の返答。
だが、大きな被害が出るかもしれないと言うだけで答えとしては十分だ。
攻撃を仕掛けるためにちらりとキャスターとセイバーにアイコンタクトを送る。
「おっと、私を殺すつもりならば止めた方がいい」
そんな俺たちの様子を見て言峰が口を出す。命乞いや何かの交渉というよりもホントに親切な忠告だとでもいうように。
「サーヴァントが2体もいるのだから私の首を跳ねる程度は大した労力ではないだろう。だが、そんな事をすればギルガメッシュは制御を失う……おそらく聖杯を壊してその中身を溢れさせこの現代に住まう者に選別を行い始めるだろうな。そうなれば多くの命が散ることになるだろうし、聖杯の器となった少女も助からないだろう」
聖杯の器……その言葉にギルガメッシュに連れ去られたイリヤの姿がよぎる。
「イリヤは……無事なのか?」
「あぁ、聖杯として起動できる状態にはなっているがまだ生きているよ」
その言葉にホッと息をつく。
彼女のサーヴァントであるバーサーカーに殺されそうになったりもしたが、それでも守れる命ならば守りたい。
「さて、ギルガメッシュにも言ったがどんな形であれ、次の戦闘がこの聖杯戦争の最後の戦いとなるだろう。それには相応しい場で行わねばな」
「相応しい場……?」
眉根を寄せる俺に言峰がニヤリと笑って答える。
「大聖杯の現れる地……柳洞寺にて貴様らを待つ」
そう言い残して、言峰の姿は暗い闇夜の中へと消えていった。
◇
「行ったか……色々と考えないといけないことが増えたけど、とりあえず2人とも怪我はないか?」
ギルガメッシュに言峰、そして柳洞寺に現れたという聖杯。
それらをどうにかするのも急務だが、まずは現状確認としてキャスターとセイバーが先ほどの戦闘で負傷していないか尋ねる。特にセイバーの方は『破壊すべき全ての符』でギルガメッシュの支配から強引に解放したりしたわけだから魔術的な不具合もないか確認しなければ。
「わたしの方はシロウ様のご指示のおかげで傷一つありません、セイバーさんのほうも……えぇ、多少魔力を消費しているようですが特に問題はなさそうです」
キャスターが手のひらをセイバーにかざし、読み取るようなしぐさをしてからそう報告してくる。
「そうか……俺とのパスも繋がったままなんだな?」
「はい、『破壊すべき全ての符』で刺した対象はあの首輪だけですから。シロウ様との契約には支障ありませんよ」
キャスターに言われて目をつむれば、確かに以前と変わらずセイバーとの繋がりは感じる。
パスは問題なく通っており俺はセイバーのマスターのままであるらしい。
だが、それはあくまで契約上の話だ。
「…………」
背筋を伸ばしてセイバーに向き直り、その瞳を見つめる。
「セイバー……本当にすまなかった、そしてありがとう」
謝罪と感謝の言葉を口にして俺は深々と頭を下げる。
それは俺たちに対して討伐令が出たときにセイバーよりもキャスターを選択したことであったり、ギルガメッシュに自らを売り渡してまで俺の命を救ってくれたことに対してだ。
「頭をあげてください、シロウ。私はサーヴァントの責務を果たしただけだ。そのようにされる謂れはない」
そっと俺の肩に手を添えて、優しくそう語るセイバー。
「それに謝罪をしなければならないというのなら、キャスター、私も貴女に対して謝らなければならない」
「えっ……セイバーさんがわたしにですか?」
「えぇ、最初私は貴女が血も涙もない冷酷な魔女なのだと思っていた。しかし実際はシロウの死を前にして涙を流し、彼のためなら血を流すことも厭わない優しく勇敢な戦士だった。貴女を誤解していたことを……謝罪させてもらいたい」
「そんな!謝るなら私の方です!理由はどうあれわたしがシロウ様やセイバーさんに黙って動いて、一般人をも巻き込んでいたことは事実です。セイバーさんがわたしを魔女だと指摘したことは何も間違っていませんよ……」
頭を下げるセイバーに対して、キャスターは慌てて悪いのは自分なのだと訴えかける。セイバーはゆっくりと頭を上げるとそんなキャスターに静かにほほ笑みかける。
「魔女か……確かに以前の貴女はそうだったのかもしれない。けれど、今はそうではないのでしょう?だから、こうしてシロウの隣にいる」
「ッ…………」
セイバーの言葉にキャスターは大きく目を見開き、そうしてチラリと俺に視線を向けてから口を開く。
「はい……今までのわたしはたくさんの人を裏切って、たくさんのものを傷つけてきました。けれど、今は違います。今はシロウ様のために、シロウ様の理想のために戦いたい」
俺と、俺の理想のためか……
かつてのキャスターはそう言って多くの人を巻き込んで討伐令なんてものを出される羽目になった。だが今のキャスターなら真の意味で俺と共に戦ってくれるはずだ。
「ありがとう、キャスター……」
ここまで共に歩んできてくれた彼女の言葉に思わず目頭が熱くなるが、まだ気をゆるめてはいけない。ギルガメッシュ達との最終決戦はこれからなのだ。気を引き締め直して今後の作戦について口火を切る。
「さて……それで、言峰は柳洞寺に来いって言ってたけれど……」
「えぇ、あそこは一級の霊地ですからね、大聖杯を降臨させるにはうってつけです」
小聖杯……つまりイリヤを使って、万能の願望器たる大聖杯を降臨させるという仕組みなのだとは以前にも説明を受けていた。
だが、まさかその場所が柳洞寺だとは……。
脳裏に雨に体を打たれながら倒れ伏す少女の姿がよぎる。
キャスターと出会った始まりの場所。
そして討伐令から逃げ延びるために選んだ逃避行先であり、これから起こる決戦の舞台でもある。つくづく俺とキャスターにとっては縁深い場所だ。
「言峰やギルガメッシュの目的は不明瞭な部分もあるが、聖杯が起動してしまえば呪いがあふれてきっとたくさんの人が死ぬことになる。それだけは避けたい」
俺の言葉に2人がこくりと頷く。
「基本的な方針としては言峰とギルガメッシュを倒し、聖杯を抑えるのが目的だ。けど……場合によっては無理やり聖杯を破壊することもあり得る、2人ともそれでいいか?」
サーヴァントは願望機たる聖杯を得るために召喚に応じる、それを破壊するというのはある意味で彼女らに対する裏切りだ。
それを分かった上で俺はそう問いかける。
「はい、それがシロウさまの望みならば……」
キャスターがこともなげに頷く。彼女は当初から聖杯に執着はなかったしそう答えるだろうと思っていた。
とはいえ、できれば彼女が本来持っていた故郷に帰るという願いも俺としては叶えてやりたいのだが今の状況では厳しいだろう。
「…………」
即答したキャスターと対照的にセイバーはじっと考えこむように目を閉じる。彼女の願いはついぞ聞くことができなかったが、かなり強く想っているものらしいからな。
彼女がこの戦いに反対だと言うのなら俺から強制することはできない。令呪で無理に戦わせたところできっとギルガメッシュ達には敵わないだろうからだ。
「……確かに私には願いがある、この手をどれだけ汚そうと叶えなければならない願いが」
重く、静かな口調でセイバーは呟くように言葉を口にする。
その言葉にどれほどの感情が込められているのか俺には測ることができない。
「もっとより良い終わりがあったのではないか、もっとふさわしい始まりがあったのではないか。どれほどそんな夢想をしたか数知れない」
セイバーはおそらく、生前に何か未練があってそれを変えるために聖杯を欲しているのだろう。
ただセイバーの言う始まりと終わりとやらは彼女自身の生涯というよりももっと広いものを指している気がする、彼女の瞳に浮かぶ深い哀しみの色合いを見て、そうなんとなく察する。
それほどの願いだというのならやはり……
「けれど」
だが、そこでセイバーは少し口調を優しくしてふっとキャスターに視線を送る。
「けれど、私も少し考え方が変わりました。完全に諦めたわけではありませんが……えぇ、必要に迫られれば聖杯を破壊する覚悟はできています」
「本当にいいのか……?」
再度確認を取る俺にセイバーは力強く頷いてみせる。
言い方的にキャスターに感化されて、セイバーも聖杯に固執しなくなったという感じだが俺のために戦うキャスターを見て何か思うところでもあったのだろうか。
「分かった、セイバーがそういうならそれでいい。もちろんギルガメッシュ達を倒して聖杯をゲットできればそれが1番だけどな」
戦う覚悟はみな、決まった。
あとは戦う手段を考えなければならない。
「問題はギルガメッシュの『王の財宝』をどう凌ぐかだな」
「攻撃そのものはセイバーさんならなんとか防ぐことはできると思います、その隙をわたしの魔術でなんとか突いて……」
確かに、以前やられた時は不意を突かれた形だったのもあってなすすべがなかったが、きちんと陣形を組めばある程度の対処は可能だろう。
しかし、ただそれだけでギルガメッシュを上回れるとも思えない。
「これは単なる勘ですが……ギルガメッシュはおそらく『王の財宝』以上の切り札も何か持ち合わせている気がします」
セイバーが難しげにそう呟く。不本意ながらもギルガメッシュのサーヴァントとして戦った経験のあるセイバーがそう言うのだから、考慮に入れておいたほうがいいだろう。
まだ底知れない力を持つギルガメッシュに加え、今回は言峰もマスターとして共に立つのだろう。
「こっちもせめてもう少し頭数があればな……」
アーチャーやアサシンあたりが残ってくれていれば、伏兵として不意をつくこともできたかも知れないが彼らはもはや消えてしまった。遠坂も連絡がないところを見るに、以前ギルガメッシュにやられた傷がまだ癒えていないようだし戦力にはカウントできない。
キャスターが眠らせている桜や慎二を起こしたとしても、サーヴァント相手に戦えるとは思えない。
「やはり……出たとこ勝負で行くしかないか……」
それからもしばらくあれこれと考えたが、やはりギルガメッシュ達を打倒するこれだという案は思い浮かばなかった。
「まともな作戦もない博打みたいな形だけど……俺の命はセイバーの剣とキャスターの杖に預ける。だから2人の命を俺に預けてくれないか?」
そう言って令呪の宿った右手をギュッと握りしめ、2人の目をじっと見つめる。
「えぇ、シロウさま。最後まで必ずおそばにいますから」
「必ず勝ちましょう、シロウ!」
キャスターとセイバーもそれに応じるように杖と剣を軽く掲げて見せる。
「よし……じゃあ行くぞ。決戦の地!柳洞寺へ!」
明日は最終話まで数話まとめて投稿予定です