※この作品はR-18です。

【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話   作:ふりかけ@木三中

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問われる罪科

 

 柳洞寺

 

 俺とキャスターが出会った場所でもあり、最後の戦いの舞台へとついにやってきた。

 特に何か罠が仕掛けられている様子もなく、山門へと続く長い石階段を力強く踏みしめてその後をキャスターとセイバーが続く。

 ビュウビュウと冷たい夜風が吹いてはいるが決戦を前に闘志に燃える体にはむしろ心地よく感じる。

 

 先程、ギルガメッシュと一戦交えた悪影響が残っていないか不安だったがむしろギアがかかったように体の調子は良い。

 

 このままいざ決戦、と行きたいところだがその前に一つ気がかりがある。

 

「……桜や慎二、このお寺に元々いた人達はどうなってるか分かるか?」

 

 キャスターが柳洞寺を占拠した際に桜や慎二、ついでにこの寺の僧侶たちを眠らせていた。ギルガメッシュや言峰が彼らをバカ正直に避難させてくれたとも思えない。

 

「……そのまま、本堂にて眠っているようですね。どうしましょうシロウ様?」

 

 魔術で気配を探ったキャスターがそう報告してくる。

 彼らはおそらくギルガメッシュ達にとっては取るに足らない存在だ。だからあえて攻撃したりはしないだろうが、巻き添えを喰らわないように配慮することもないだろう。ギルガメッシュの『王の財宝』は攻撃範囲の広さを考えると、そのままにしておくには危険すぎる。

 

「キャスター、魔術で桜達を寺の外にまで避難させるとしたらどれくらいかかる?」

「そうですね……5分もあれば終わるかと」

 

 5分か……僧侶達も含めればそれなりの人数だから十分に早いと言えるが……

 

「分かった、俺とセイバーで奥にいるギルガメッシュ達の相手をする。キャスターは避難が完了してからまた合流してくれ」

「シロウ、それは……」

 

 俺の指示に、セイバーが声を上げる。言いたいことは分かる、ただでさえギルガメッシュ相手に勝ち目があるか分からないというのにキャスターが欠けた状態で戦闘を始めようというのだから。

 だが、俺としても桜たちの安全は譲れない一線だ。避難を先にしてからギルガメッシュ達と戦うということも考えたが悠長に待っていてくれる保証もない。痺れを切らした奴が避難させている最中にでも襲って来たら目も当てられない。

 

「キャスター、みんなを安全な場所まで頼む」

「……分かりました、すぐに追いつきますからそれまで持ち堪えてくださいね」

 

 少し逡巡する様子を見せたキャスターだったが俺の言葉に頷くと、建物の中へと入っていく。

 

「はぁ、シロウは一度言い出したら頑固ですから仕方ありませんね」

 

 そんな様子を見て、セイバーが短く嘆息する。

 

「悪いな、セイバーには負担をかける」

「いえ……私も無用な犠牲が出ることは望みません。こうなってしまえばいっそキャスターが来る前にギルガメッシュを討ち取ってしまいましょう」

 

 場を和ませるように冗談めかしてセイバーがそう語る。キャスターが寺の人たちを避難させてくれているだろうし、俺たちもやるべきことをやるとしよう。

 

「ギルガメッシュはこの奥か……」

 

 確か、柳洞寺の奥には小さな池があったはずだ。

 そこから凄まじいプレッシャーを感じる、思わず膝をついてしまいそうなほどに重くのしかかるようなこの威圧感は違いなくあの8番目のサーヴァントのものだ。

 

「…………」

 

 果たしてその懸念通り、歩みを進めたその先に奴はいた。

 

「ギルガメッシュ……!」

 

 月が雲で隠れた薄暗い闇の中でぎらぎらと奴の金の鎧だけが悪趣味に光を放っている。

 そうして、その背後に白い髪の少女……イリヤが地面に力なく横たわっている。胸元を見ればかすかに呼吸によって上下しており単に気絶させられているだけのようだ。

 

「待ちかねたぞ、セイバー……」

 

 ゆらりとギルガメッシュの赤い瞳がこちらを射貫く。

 

「キャスターはおらぬか……ふん、言峰の読みが当たったか」

 

 そうして俺たちを一瞥して、不服そうに鼻を鳴らす。

 

 言峰の読みが当たった……?

 そういえば、奴の姿が見当たらない。ギルガメッシュのマスターとして奴と共に待ち構えているのかと思ったがもしかしてキャスターが桜たちを避難させることを見越してそちらにいるのか?

 

「…………」

 

 いや、落ち着け。言峰があちらにいるのは誤算だが、だから何と言う話でもない。

 キャスターは対サーヴァント戦においての戦闘力は見劣りする部分はあるがその魔術の腕は現代の魔術師など遥かに凌駕している。言峰1人がいたところでキャスターをどうにかできるはずもない。

 

 俺がやるべきは、キャスターが避難を完了させてこちらに来るまでギルガメッシュを引き付けておくことだ。

 

「いくぞ、セイバー……」

 

 俺の声にセイバーがスッと剣を構え、その後ろで俺はギルガメッシュの僅かな動きも見逃さぬようにキッと目を凝らす。

 剣を取って共にセイバーと戦うだけの力は俺にはない、これが今の俺たちの戦い方だ。

 

「ハッ……今度こそ完全なる敗北というやつをその身に刻みつけてやろう」

 

 そんな俺たちにギルガメッシュは『王の財宝』を展開して見せる。

 宝具がズラリと並び、何百という剣先が俺たちに向けられる様は相変わらず壮観だが、もう何度も見た以上驚きはしない。

 

「キャスター……うまくやってくれよ……」

 

 そうして言峰と相対しているであろうキャスターの身を案じながらも、こちらもギルガメッシュとの決戦が始まるのだった。

 

 

◇

 

「皆さん、無事ですね……」

 

 柳洞寺のお堂の中、並べられた布団の上で眠る僧侶たちの姿を確認してキャスターはほっと息を吐く。

 自らの魔術で眠りについている彼らは一種の仮死状態であり食事も数日間は取らなくても良いような処置を施してある。

 その分、何が起こっても目覚めることはないのでギルガメッシュ達が彼らを害するつもりなら例えどんな被害に遭っても目を覚ますことはなかったはずだ。

 

「…………」

 

 シロウを正義の味方とする。

 

 キャスターはその夢を本気で応援していたし、今もそれは変わらない。

 だが、その礎とするために何の感慨もなく彼らの意識を刈り取り眠らせたことに今更ながらにズキリと胸に痛みが走る。

 

「……とはいえ、今は彼らを逃すことが先ですね」

 

 罪悪感を覚えている時間も惜しい、気持ちを切り替えて眠っている彼らが外に逃げるように魔術で暗示をかけようとしたその時だった。

 

「ッ…………誰ですか!」

 

 物陰に気配を感じてバッと杖を向けるとゆっくりと男が姿を現す。

 

「アナタは確か……コトミネと言いましたか」

 

 此度の聖杯戦争の監督役であり、ギルガメッシュのマスターを名乗った不審な男……自らのサーヴァントと共にシロウ達を迎えうったのだと思っていたがそうではなかったらしい。

 

「ふむ、そういえば君としっかり話をするのは初めてだったかな?だが、名を覚えていてもらえて光栄だ」

「……わざわざここで待っていたということはわたしがここに来ることを予想していたようですね」

「あぁ、衛宮士郎ならばそう指示するだろうし、サーヴァントである君たちもそれを受け入れるだろうとね」

「なるほど……目的はわたしの足止めですか?」

 

 白兵戦にこそ不向きなものの、魔術に長けたキャスターが戦闘において取れる手段は多彩だ。

 ギルガメッシュが相手とはいえその存在の有無は大きい。

 

「…………」

 

 何か罠が仕掛けられているのかと四方に視線を走らせるキャスターを、言峰は小さく笑う。

 

「そう警戒しなくとも、衛宮士郎と違いサーヴァントと正面から戦うほどの蛮勇は私にはあるまい。戦闘能力に劣るキャスタークラスのサーヴァントとはいえ人間1人を消し炭にする程度は造作もないだろうからな」

 

 その言葉を聞きながらも注意深く男の様子をうかがう。戦士としても魔術師としてもそれなりの力量を持っているようだが、それはあくまでも人間の範疇の中での話だ。

 自分の魔術なら一瞬で制することができるし、相手もそれは理解している。

 

 だが、それならば彼の目的はいったい……

 

「…………当初の私の目的は聖杯だった」

 

 言峰がポツリとそう語る。

 それはある意味当然の話だ、聖杯戦争の名の通りこれは聖杯をめぐる争いなのだから。

 だが、違う……単に願望機としての聖杯の話をしているのではないとキャスターは感じていた。

 

「聖杯の中身にあるアレ……君が『呪い』と呼んだものに興味があったのでね」

「……汚染された聖杯を使って世界でも滅ぼすつもりですか?」

 

 悪神によって汚染された聖杯にまともに願いを叶える機能はない。

 それを知ってなお聖杯を求めるのはキャスターのような卓越した魔術で聖杯を正常化できる者か、あるいはそもそも『まとも』な使い方を望んでいない狂人かだ。

 だが、言峰はそんなキャスターの言葉を首を振って否定する。

 

「結果的にはそうなるかもしれないな、だが私の目的はあくまでも聖杯の中にあるソレそのもの……その誕生を目にしたいだけだ」

「…………?」

 

 持って回った言い回しをする神父の言葉に僅かに思考を巡らせて、それらをすぐにキャスターは捨て去る。

 狂人の戯言に付き合っている暇はない、何が目的かは判然としないが今は寺の中に眠る人々を避難させることが最優先だ。

 

 そっと手の中にある錫杖を目の前に立つ神父に向け魔力をその先端へと込める。

 

「…………聖杯の中にあるアレの誕生を目にすることが、私の目標だったがそれが達成されることはもはやあるまい。ギルガメッシュは漏れ出た呪いを人類の選別に使うつもりこそあっても本格的に『この世全ての悪』を受肉させるつもりはないだろうからな。そして君たちが勝っても聖杯は正常化される。どう転んでも私の理想の展開にはならない」

 

 杖を向けられてなお、動揺する様子も見せずに朗々と男は言葉を続ける。僅かに無念さを含んだような声音からは諦観の色すら見てとれる。

 

 だが……。

 

 ギョロリと神父の瞳が目の前に立つ少女に向けられる。

 

「だから、今の私の興味はキャスター……君にあってね」

 

 低く重い男の声が、薄暗い部屋の中に響く。

 

「わたしに……?」

「あぁ、そうだ。コルキスの王女メディアよ」

 

 メディア、自分の真名を呼ばれてピクリと反応する。

 真名が既に相手に割れていることは分かっていたが、あえてコルキスの王女とまで枕詞につけるとは……。

 

「……あなたはわたしの逸話を知っているのですね?」

「なに、聖杯戦争の監督役という職務上一通りの神話には目を通しているだけさ。君がいかに神々に、運命によって翻弄されたのか。魔女としての烙印を押された君が、その役割通りに悪として振る舞うようになったこともよく知っている」

 

 ……なるほど、この男がわたしに興味があると言うのは嘘ではないらしい。

 

 その証拠に『メディア』の逸話を……その生涯をよく読み解いている。

 最初のマスターであったアトラムという男は物語の表面だけを見てメディアのことを『裏切りの魔女』と蔑んだが、目の前の神父はなぜそう呼ばれることになったのかまでも察しているらしい。

 

「君の逸話から、その人格などもある程度は把握しているつもりだったのだがね……だが、だからこそ予想外だったよ。君と衛宮士郎が今こうして共に戦っていることが」

 

 ふむ、と考え込むように口に手を当ててまるで観察するかの如く言峰はキャスターを覗き込む。

 

「正義の味方を志す衛宮士郎、裏切りの魔女と呼ばれるメディア……例え主従になったとしても必ずどこかで破綻するだろうと思っていた。だが……実際はそうはならず確固たる信頼関係を築きセイバーまでも取り戻してみせた。全くもって予想外の出来事だったよ」

「それは……あなたの見込み違いでしたね。確かにシロウ様とわたしは衝突もありましたが、それを乗り越えられるだけの力をシロウ様はお持ちでした」

「神父という職業柄、人を見る目には自信があったのだが確かに私の目は曇っていたようだ。だからこそ教えてもらいたいものだな……」

 

 そこで一度、言峰は言葉を切ると改めてキャスターを見据える。

 

「君の目に、衛宮士郎がどう映っているのかを」

 

 そう言って、男は少女の目の前にドサリと何かを投げ捨てる。

 

「ッ…………これは!!」

 

 一瞬、それが何かキャスターには分からなかった。

 

 黒い、何か大きな塊

 

 それが人の形をしていることに気づくのには、あまりにも人としての生命を感じさせなかったからだ。

 

「子供の死体……いえ、魔術で処置をしていて僅かに息がある……こんな悪趣味なモノを持ち出していったい何の真似ですか?」

 

 黒く炭化した体はおそらく全身を火に焼かれたことによるものだろう、苦しみから逃れるように体を丸めていて分かりづらいがその背丈は5〜6歳ほどの子供のものか。

 おそらく意識もないのであろう、本来ならばそのまま絶命するはずのところを魔術で無理矢理に命を繋ぎ止められている。

 

 だが、いったい何のために?

 

 人質だというのならば、こんな手の込んだ準備をしなくてもこの寺で眠っていた人たちを使えばいい。

 焼け焦げていて顔は分からないが、キャスターが現世に召喚されてから誰か子供と親しくなったということもない。

 

 ならば、これは一体……

 

「これは、罪だ。衛宮士郎のな」

「シロウ様の罪……?なるほど、10年前に起きたという火災の被害者を無理矢理に延命させていたのですか……」

 

 シロウから聞いた10年前の火災の話と、その際に幼かった彼が死にゆく犠牲者から目を背けて生き延びたという話がキャスターの頭をよぎる。

 この哀れな子供は不幸にも炎に呑まれただけではなく、10年後の今にいたるまで苦痛を味わい続けさせられているということか。

 

「しかし罪とはまた、随分と大仰な言い方ですね。シロウ様はあの時何の力も持たない幼な子だったのです、他人を見捨てて逃げ出したからと言ってそれが罪になどなるわけはありません」

 

 強い口調で言峰の言い分をキャスターは非難するが、言峰も動じることなく言葉を返す。

 

「確かに法的にも倫理的にも衛宮士郎の行いが何らかの罪に問われることはないだろうな。だが、それは第三者から見ればの話だ……仕方がなかった、他に方法がなかった、そう理性で理解していても自らの内から罪の意識というものは芽生える。それは……神の呪いによって弟を殺めることになった君がよく分かっているだろう」

「…………」

 

 それは……確かに、そうだろう。

 彼自身、当時の罪悪感が正義の味方を目指したきっかけの一つだと語っていた。どんな理由をつけても彼らを見捨てて自分だけが生き延びたということは衛宮士郎にとって事実であり、罪なのだ。

 

「……だからと言って、悪趣味にも当時の被害者を無理矢理に延命させて見せつけるなど……これで精神攻撃でもしているつもりですか?」

「あぁ、勘違いをしないでもらいたいのだが私は何も嫌がらせをしたいわけでも、衛宮士郎の罪を晒しあげて裁きを与えたいわけではないのだ。彼の罪を裁けるとしたらそれは彼自身か、あるいは天におわす主のみだろうからな……だから、私はただ知りたいだけなのだよ」

「知りたい?いったい何を……?」

 

 結局、この男が何を望み、何を求め、何を知りたいのか、その答えが見えてこない。

 

「……悪とは一体なんなのか」

 

 静かに、しかし重い口調で言峰が口を開く。

 

「人が獣であった頃より、その命題はあったのだろう。故に人は法を作り、道徳を作り、宗教を作り、そして……神を作った。だが、未だその完全なる答えは出ていない。故に私は知りたいのだ」

 

 言峰の語る話にメディアは目が眩むような感覚を覚える。だってそれはあまりに荒唐無稽な話だ。

 悪とはなんなのか、その命題の証明のためだけに彼は10年前より暗躍を続けてきたのだという。

 これならばまだ聖杯を得るのは自らの欲望のためで、火災の被害者を延命させていたことも衛宮士郎への私怨だったと言われた方がずっと理解できた。

 

「『この世全ての悪』……純粋たる悪として産まれたそれが自身をどう定義するか……それによって悪の証明も為せるかと思ったが、その誕生はもはや見ることはあるまい……だからこそ、君たちが、過去に理不尽な運命によって全てを奪い去られた君たちが自らをどう定義するのか、私の興味はそこにある」

 

 熱を帯びた言峰の言葉。

 

 箱庭の中で育てられた無垢な少女と全てを燃やし尽くされた空っぽな少年。

 

 いつしか1人は裏切りの魔女と呼ばれ、1人は正義の味方を志した。

 

 そうしてその果てに2人は出会った。

 

 よく似ていて、しかし正反対の2人。

 

 様々な衝突と困難を経て、彼らは主従として堅い絆を結んだ。

 

 その2人が辿り着いた答えこそが、彼らの目に互いがどう映っているのか、その答えこそが万能の願望機などよりよほど価値があるのだと、言峰は逸る心を抑えられないように目を血走らせてキャスターを凝視して、一つの問いを投げかける。

 

「キャスター……君にとって衛宮士郎は悪なのか、君にとって『メディア』は悪なのか、ぜひその答えを教えてくれたまえ」

 

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