【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
ヒュンヒュンと剣が宙を舞う。暗い闇夜に煌めく無数の輝きはその一つ一つが人間など簡単に吹き飛ばす『奇跡』が込められている。
「ハアッーー!!」
ギルガメッシュの『王の財宝』によって放たれる無数の宝具、それらをセイバーが勇ましい掛け声と共に黄金の剣が叩き落とす。
「なかなかに粘るが、いつまで持つかな……」
愉悦の色を含ませたギルガメッシュの声と共に投擲される剣の数が増える。
セイバーは無駄のない動作で剣を振り、最小の足捌きで攻撃を躱している。だが奴の圧倒的な物量と『全知なるや全能の星』の未来視の的確な攻撃の前に少しづつ追い詰められている。
剣を振り終えた僅かな隙を、足を動かそうとしたその先の空間を、ギルガメッシュの宝具が射抜く。いやらしいほどに絶妙なその攻撃はまるで詰め将棋のようにじりじりと、しかし確実にセイバーの動きを制限していく。
「くっ…………」
そうして、ついに訪れる『王手』のタイミング
苛烈な攻撃を捌き続けてビッショリと汗を流したセイバーの頭部に向けて奴の宝具が狙いをつける。
だがーー
「…………」
「ッーーーー!」
奴にとっての必殺のタイミング、そのタイミングを読み切って左手に残る令呪、最後の残り1画を奴に見せつけるように掲げる。
実際に使用するわけではない、あくまでもブラフ……まだこちらには令呪が残っているのだぞと見せつけただけだ。
だが、効果のほどは絶大でやつの嵐のような攻撃がこちらを警戒するように僅かに鈍くなった。その隙をついてセイバーが体勢を立て直す。
「ちっ……くだらん真似を……」
意図に気付いたギルガメッシュが忌々しげに顔を歪める。俺が令呪を実際に使用しないということは『全治なるや全能の星』を使うまでもなくアイツの観察眼なら分かったことだろう。
それでも、一度は俺に出し抜かれてセイバーを奪還されたという苦い記憶が咄嗟の判断を誤らせたのだ。
とはいえ……こんな単純なブラフはそう何度も通用しない。
キャスターが来るまで何とか持たせたいが……
「…………なんだ?」
次の手を懸命に頭を絞って考える俺をよそにギルガメッシュは意外なことに背後に浮かぶ無数の剣を収める。
何のつもりだ?
今まで宝具を連射するだけだったやつの攻撃パターンには無い動きだ。
「ふん……つけあがるなよ。それで我を超えたつもりならば片腹痛い。雑種ごときがどれほど小賢しい策を弄しようが圧倒的な力の前には無力だということを思い知らせてやろうーー目覚めよエア」
そうしてギルガメッシュはずるりと蔵の中から宝具を取り出す。
いままでのような乱雑に発射される剣とは違う、自らの手で握り締められた奴の武器。
「なんだ……あれは……」
その武器を前にして思わず言葉が漏れる。
セイバーはギルガメッシュは何かまだ切り札を隠しているのではないかと、戦闘前に懸念していた。
実際、奴の持つ『王の財宝』は恐ろしい力で俺たちに猛威を奮っていたがその中でギルガメッシュ当人にはどこか余力が感じられた。
だが、違う。
今の奴は、奴の手に握られている『それ』は、今まで射出されてきた古今東西の宝具と比較しても一線を画している。
剣とも槍ともとれる奇妙な形状に原始的な荒々しさと神々しいまでの緻密さを内包する奇妙な印象を抱く。
エアと呼ばれたその武器こそが最古の英雄王と謳われた男の、真の宝具だ。
「ーー構造把握、解明」
非力な俺にあの宝具をどうにかする手立てはない、それは考えるまでもなくあの宝具の圧倒的な存在感を目にすれば自明のことだ。
だが、セイバーならば、セイバーの持つ黄金の剣ならば奴の宝具にも対抗しうるかもしれない。
ならば俺のやるべきことは奴の宝具の能力を、威力を、構造を、読み取れるわずかな情報をもってしてセイバーをアシストすることだ。
「無駄なことを、雑種はもちろんサーヴァントであっても世界を切り裂くこの剣の前には塵芥と同じよ」
エアと呼ばれた宝具がグルグルと回転を初め、その周囲を空気が、魔力が、世界そのものがうねるように流転していく。
「ぐっ……………」
奴の武器を解析をしようとすると流れ込む膨大な情報量に頭が割れるように痛む。
あれはおそらくこの世界の創造に関わるようなはるか古来から存在するモノ、それに蓄積された情報をもし文字に起こすのならば天まで届く塔ほどの紙が必要になるだろう。
そんなものの解析は人間の手には余るものだ。それでも……生き延びるために例え僅かでも情報を読み取らなければならない。
「さぁ、どう足掻くか見せてみろ……『天地乖離す開闢の星』」
そうして宝具の真名と共に放たれる圧倒的なエネルギーの奔流……回避も防御も不可能だ。
「セイバー、そこを狙え!」
それでもせめて必死に奴の宝具を解析して、エネルギーのうねりの中で僅かにムラのある部分、台風の目のように無風になっている箇所を指差す。
俺たちに活路があるとしたら、あそこを切り裂くしか無い。
「約束されたーー」
ギルガメッシュの放った赤い嵐のような攻撃を前にセイバーの剣が黄金の光を構える。
「ーー勝利の剣!!」
そうして、俺の指示した箇所をセイバーの剣から放たれた斬撃が貫き、エアによって巻き起こった奔流と黄金の光は拮抗を引き起こす。
「ぐっ…………!」
だが、その拮抗もほんの一瞬のもの、すぐに赤い嵐は勢いを取り戻し黄金の光を呑み込んで俺たちを襲う。
「ぐぁぁぁあああ!」
解析で弱い部分を見抜いたとはいえ、そもそものエネルギーの総量が違いすぎる。
俺とセイバーは竜巻に巻かれる木の葉のように揉みくちゃになって地面を転がる。
「ぐっ、あぁ……」
うめき声をあげて無様に地面を這つくばる。凄まじい熱に全身に痛みが走るがそれでも何とか五体が欠けることもなく命を繋いでいるのは、先ほどの抵抗で多少なりとも攻撃の勢いが落ちていたのだろう。
「無事か……セイバー……」
掠れるようになんとか声を絞り出す。
俺と共に攻撃を受けたセイバーもなんとかヨロヨロと立ち上がってはいる。身に纏っていた銀の鎧が奴の攻撃で一部融解してしまっているが、体の方にはそこまで大きな外傷は無いようだ。
とはいえダメージは確実に蓄積されているし、宝具の使用による負担だって無視できたものでは無い。
次にもう一度、ギルガメッシュにあの宝具を使われたら今度こそ終わりだ。
「ふっ…………」
そんな俺たちを見てギルガメッシュが嘲笑うかのように鼻を鳴らす。
「やはり、所詮雑種は雑種……足掻いたところで我が財に敵うはずもなかったな、このまま貴様を八つ裂きにするなど容易いことだ。だが……それでは一度屈辱を味あわされた我が怒りは収まらぬ」
エアを自身の倉へとしまいながら、奴はセリフを続ける。
「ゆえに……」
クルリと俺たちに背を向けるギルガメッシュ、その目線の先には聖杯の器として使用するために眠らされたイリヤがいる。
「貴様には死すらも生ぬるい地獄を味わってもらおう」
言葉と共にギルガメッシュが右の手のひらをイリヤにかざす。
「聖杯として完成に至るにはまだ燃料が足りんが、それでも中身を引き摺り出せる程度にはガワは整えられている」
おそらく何らかの魔術的処置を施したのだろう、イリヤの体が僅かに光るように煌めきそれに呼応するようにその頭上、何もないはずの宙空に大きな穴が開く。
暗い夜空を塗りつぶすようなドス黒い大穴、そこからドロドロとコールタールのような漆黒の泥が溢れ出る。
あの泥は……かつてキャスターがバーサーカーとの戦いで使ってみせたものと同質のものだ。
聖杯の中に巣食うという悪神の呪い、キャスターは桜を介してその力を使っていたが、ギルガメッシュはイリヤを使ってあれを呼び出しているのか。
「この世全ての悪……かつてアインツベルンが呼び出そうとした邪神のなれ果て。悪あれかし、神あれかし、と人に願われて産まれたものだからこそ。その存在は生来の邪神よりもおぞましく、純粋だ」
じわじわと孔から漏れ出た泥が広がるようにして俺たちに迫る。この泥に触れればどうなるのかは分からないが本能が逃げろと警鐘を鳴らしている。
「この世の全てを背負う我にとっては、少しばかり酔うほどの酒と変わらぬが、有象無象の雑種にとっては存在全てをかき消すほどの呪いの濁流だ。とくと味わうがいい……」
言葉と共に泥が意志を持ったかのように濁流となって俺とセイバーを襲う。
「っ…………セイバー!」
咄嗟にセイバーを突き飛ばす、あの泥はおそらく霊体であるサーヴァントにとっては致命的なものだ。
まだ生身である俺が受けた方が被害は小さいはず……そんな甘い考えは泥を被った一瞬で消え去った。
「ーーーー」
声にならない声が漏れ出る。
あの泥が呪いの塊だというのならば浴びれば激痛が走ったり魔術回路に異常を起こしたりするのかと思っていた。
だが違った。
言うなれば、ただ一言。
黒
視界が、肉体が、思考が、魂が。
黒く黒く染まり上がっていく。
そこに苦痛はない、いや苦痛すらももっと圧倒的な黒に染め上げられていく。
「シロウ!」
セイバーが何か叫んでいるようだが、それが何かすら認識できない。
そうして俺の意識は深い深い暗黒へと沈んでいった。