【完結】もし衛宮士郎がメディアリリィを拾ったらというお話 作:ふりかけ@木三中
「んっ……うん……もう朝か……」
チュンチュンと言う鳥の囀りと陽射しの光を浴び、半覚醒の脳で重い瞼を開く。
「……………」
そして視界に飛び込んできたのは、寝起きの俺の顔にじっと額を近づけてこちらを覗く少女の青い瞳であった。
「あっ……お、おはようキャスター、もう起きてたのか」
「はい、おはようございます!シロウ様!」
元気なあいさつをされたので思わずコチラもオハヨウゴザイマスと返してから困った視線をキャスターに送る。
「その、起きるからどいてくれると助かるんだけど……」
「あっ、これは申し訳ありません!」
ほとんど馬乗りの様な姿勢で俺の顔を覗き込んでいたキャスターが、パッと離れる。
「あ〜、と、いつから起きてたんだ?ちゃんと眠れたか?」
「先ほど起きたばかりですよ。体調もバッチリです」
むん、と腕を握って元気をアピールするキャスター、それなら何よりだが……というか自然に流しそうになったが……
「えっと……その、今、俺の寝顔見てた?」
「はい、とても可愛らしい寝顔でしたので」
悪びれる様子もなくニコリとそう言いのけるキャスター、流石に寝顔をマジマジと見られるのは俺としては抵抗があるのだが、あまりにも軽やかに言われたので怒りづらくなってしまった……
と、そんなやり取りをしている時だった、玄関の鍵がガチャリと開く音がした。
「この音……桜か、しまったな。もうそんな時間か……」
「サクラさん……ですか?」
「あぁ、学校の後輩でな。飯を作りにきてくれたりしてるんだよ。それと、藤ねえ……藤村って人も、もうしばらくしたら飯を食いにくると思う」
「サクラさんにフジムラさんですか……どちらも女性ですか?」
「ん?あぁ、そうだ。それよりキャスターのこと、なんて説明しようかな……」
むむむ、と眉根を寄せる俺にキャスターが口を開く。
「そのお二方は魔術とは無縁の方なのですよね?それならば聖杯戦争の話をするわけにはいきませんし。私は霊体化して身を潜めておきます」
言葉と共にパチンと指を鳴らすとキャスターの足元からその体がスーッと透ける様に消えていく。
そんなキャスターの腕を俺は慌てて掴む。
「待った、待った、聖杯戦争って多分しばらくは続くし、その間キャスターはここにいることになるんだろ?それなら霊体化してずっとコソコソさせるより、2人に紹介しておきたい」
「そうですか?マスターがそう言うのであれば構いませんが……」
外で一時的に身を潜めるための霊体化なんかはともかく、休むべき拠点でまでコソコソしてるのも気疲れするだろう。
ここでぐらいは、キャスターがリラックスできる様にしておきたい。
とはいえ、いきなり、こんな少女をいきなり家に住まわすのをなんと説明したものか……
「そうだな……キャスターのことは、切嗣の知り合いの旅行者が泊まりにきたってことにするから適当に口裏あわせてくれ」
「キリツグさん……確かシロウ様の育ての親の方なのですよね。了解いたしました」
なんとか、打ち合わせを終えたところで襖がガタリと開く。
俺がまだ寝てると思って、起こしにきたのだろう。
「おはようございます、せんぱ…」
ひょこりと顔を出した紫色の髪の少女、俺の後輩である、桜がにこやかに朝の挨拶をするが、その言葉はキャスターを認識してピタリと止まる。
「えっと、センパイ、この方は……」
「あぁ、彼女はキャスター、切嗣の知り合いらしくて、日本に訪ねに来たらしいんだ」
「は、はぁ……切嗣さんの……」
「あぁ、けど切嗣はもう死んじゃってるし……ホテルとかもとってないらしくてさ。しばらくウチに泊めてあげようと思うんだ」
「この娘を、ですか……」
桜が警戒する様にキャスターをジロリと睨む。
まぁ、普通に考えたらまだ少女とは言えよく知らない外国人を家に泊めるってのは不用心だ。
「日本に不慣れみたいだし、この真冬の中に放り出すわけにもいかないだろ?」
「それは……まぁそうですが……」
渋々と言った様子で納得する桜、しかしその顔は不満げだ。
「よろしくお願いします、キャスターさん」
ペコリと頭を下げる桜、だがその表情と声音はなにか警戒してるかのように固いものがある。
桜は少し人見知りなところがあるからな、こちらとしては仲良くしてくれるといいんだが……そんなことを思っているとキャスターは桜の手を取り、グッと体を近づけその体を抱きしめる。
「えっ……?キャスターさん?」
「ふふっ、仲良しのハグです!これからよろしくお願いしますね、サクラさん!」
そう言って至近距離で微笑みかけるキャスターに桜は驚いたように目を丸くしてる。
キャスターはそんな桜に構わず、むぎゅっと頭をその大きな胸に押し付けるようにしてその体を預け、そのまま心音を確かめるかのように目を瞑る。
「…………」
「えっえっ?キャスターさん?」
目を白黒させて困惑する桜。
しかし、初対面の相手にここまでグイグイ迫れるキャスターは凄いな。
外国人だから日本人とはパーソナルスペースの捉え方が違うのか、それとも女子って友達同士でハグしたり妙に距離感近い時があるし、そういうノリなのだろうか。
そうしてしばらくキャスターはニコニコとした顔で桜の豊満な体を抱き止めていたのだが、パッと体を離すとくるりと振り返りこちらに小声で囁いてくる。
「あのサクラという娘については、どの程度知っているのですか?」
「ん?どの程度って……どういうことだ?」
キャスターの質問の意図が掴めずに首を傾げる。
どんな性格か?何が好きなのか?と言ったことを聞かれるならともかく、どの程度知っているか、とは中々妙な質問の仕方ではないだろうか。
疑問符を浮かべる俺にキャスターは少し言葉を選ぶようにしてから再度口を開く。
「いえ……年齢も近いようですし、もしかしたら恋仲なのかと思いまして……」
「恋仲って……そういうのじゃないよ。学校の後輩で色々手伝いもしてくれてるってだけさ」
「そうですか……けれど、シロウ様の大切な方なのですよね……」
俺の言葉を聞きながら、キャスターは一瞬チラリと桜の方に視線を向ける。
その視線がまるで氷のような冷たさを帯びている、なんて思ったのは俺の気のせいなのだろうか。
◇
「さて、それじゃ朝飯を作るとするか」
少しドタバタしたが、気を取り直して朝飯の準備にかかる。
「手伝いますシロウさま」
キャスターもパタパタと足音を立ててキッチンに踏み込もうとしたのだが……
「いえ、キャスターさんは休んでいてください。先輩に料理を作るのは私の役目ですから」
桜が強い口調でそれを制止する。
「そうですか、では……」
「あ……じゃあ、キャスターは棚から適当に食器並べててくれるか?」
「はい、分かりました」
少しシュンとした顔をしたキャスターに代わりにお願いする。
しかし、桜はなんだかただ単にキャスターのことを警戒しているというよりは対抗意識を燃やしているみたいだ。
そんなに料理に情熱をかけていたとは知らなかった。
そんなこんなで、卵焼きや味噌汁なんかを作っていると居間に藤ねえが入ってきた。
「おっはよ〜士郎、桜ちゃん!今日の朝ごはんはなにか……って、えぇ!どちらさん!」
何故か小躍りしながら入ってきた姿勢のまま、キャスターを見つけてピシリと固まった藤ねえに先ほど桜にしたのと同じ説明をする。
「切嗣さんのお知り合いねぇ……けど流石にこんな小さい子を士郎がいきなり預かるってのは……」
だが、流石に大人として教師としていきなり少女が俺の家に転がり込むなんてことには難色を示した。
さて、どう説得したものかと思っているとキャスターがそっと藤ねえに近づく。
「……………構いませんよ、ね?」
じっと藤ねえの目を覗き込んで説得……というよりも言い聞かせるように言葉をつぶやく。
いや、いくらなんでもそんなんで納得は……
「……いいんじゃない、キャスターさん困ってるみたいだし。人助けってことで」
あれ?意外にあっさり許可が降りたな。
初めから藤ねえがこの寒空の下にこんな少女を放り出すとは思ってなかったが、それでももうちょっと一悶着あるかと思ったんだが。
「朝ごはん、作り終わりましたよ。冷めないうちに食べちゃいましょう」
そんな話をしていると、朝飯を作り終えた桜がコトコトと並べてくれる。
「よし、それじゃあいただきます」
「いただきます」
いい感じにパリパリになった鮭の焼き物をつまむ。塩味が効いててうまい。
「どうですか、先輩?」
「あぁ桜の作る料理はいつも美味しいよ」
「ふふっ、ありがとうございます。まだまだ先輩ほどではありませんが……」
桜はそう謙遜するが、ほんとうに料理が上手くなった。
ぼやぼやしてると俺の料理の腕を完全に抜かされてしまうな。
「この卵を巻いたもの美味しいですね」
キャスターは美味しそうに甘めに味付けされた卵焼きを頬張っている。
単に卵を焼いた料理、ってのは多分昔からあると思うが巻いたりするのはおそらく近代になってからできた料理だろうし物珍しいのかもしれない。
「卵焼きはなぁ、シンプルだけど結構上手く巻くのが難しいんだよな」
「そうなのですね、これは形が整っていてよくできていますが」
そんな風にキャスターと話しているとじっとこちらを見ている桜の視線に気づいた、眉を顰めた怪訝そうな視線だ。
「……キャスターさんと先輩は昨日、初めて会ったんですよね?」
「はい、キリツグさんを頼ってこの家に来たのですが、既に亡くなっているとのことで……なんでですか?」
「いえ……なんとなく距離感が近いなと思いまして」
言われてみると、確かに会話するうちに思わず顔を近づけていたかもしれない。気づけばキャスターの髪が俺の体にかかるほど寄り添って会話をしていた。
「昨日、シロウ様は慣れない日本で体調を崩していた私を手厚く介抱してくださったりとても良くしていただきましてね……それで思わず距離が近くなってしまうのかもしれませんね」
キャスターが昨日の出来事を少し脚色して話す。
介抱か……まぁ事実といえば事実だが……
そんな言葉をどう受け取ったのか桜の視線がジッとこちらを射抜く。
「先輩は誰に対しても優しいですからね……キャスターさんにだけ特別と言うわけではないですよ?」
「えぇ、誰に対しても分け隔てなく親身に接する、素晴らしいことです」
そんな風に2人はにこやかな笑みで語るが、何故だろう、なんとなく2人の視線の間に火花が散っている気がする。
「キャスターさんは日本に不慣れなようですし……私はずっと前からこの家にお邪魔させていただいています。分からないことがあったらなんでも聞いてくださいね?」
「へぇ、ずっと前から……」
「はい、先輩とずっと一緒にいさせてもらっています」
「……仲の良さと時間の長さは必ずしも比例するものではないと思いますが、えぇ困ったことがあれば桜さんに頼らせていただきます。よろしくお願いしますね?」
そういってキャスターがぺこりと頭を下げる。
うーむ、なんだか仲が良いのか悪いのかよく分からない2人だがこれからよろしくやってくれると助かるのだが。
◇
「それじゃ、俺は少しキャスターと話をしてから学校にいくよ。遅くなるかもしれないから桜は先に行っててくれ」
朝飯を食べ終え、玄関から登校する桜を見送るが、桜は靴を履き終えたところでこちらを振り返るとじっと何か言いづらそうに俺を見る。
「ん?どうかしたのか?」
「その、キャスターさんのことなんですけど……」
少し言い淀み、周囲を確認するように見回してから声を潜めて桜が口を開く。
「……キャスターさんには、気をつけた方がいいかもしれません」
「気をつける?何に?」
「……とにかく、気をつけてください。多分……あの娘は私に似ているから」
それだけ言い残すと桜は玄関から足早に出て行ってしまった。
似ている?
確かに、桜もキャスターも大人しそうな感じではあるしそういう意味では似たタイプなのかもしれないが……それがなぜ、気をつけた方がいいという忠告になるのだろうか?
頭に疑問符を浮かべながらも、俺も鞄に教科書を詰め込んで学校に行く支度をする。
「シロウ様、ガッコウに行かれるのですね?」
「あぁ、キャスターはどうする?霊体化してついてくるか?」
「いえ、私は霊脈の掌握やこの家の結界の強化などをしておきたいと思います」
「そうか、その辺の話はさっぱりだからな、任せるよ。昼は冷蔵庫に食材が入ってるから適当に食べてくれ……電子レンジの使い方わかるよな?」
「はい、問題ありません」
そんな話をしながら制服に着替え終える。
「しかし、聖杯戦争に関わっていくなら今後は学校も休んだ方がいいのかな?」
「いえ、不自然な動きをすればそこから他マスターにシロウ様のことがバレる可能性もあります。しばらくはこのまま普通の生活を送ってもらった方が良いでしょう」
そんなものか、まあコソコソする必要がないならそちらの方がありがたい。
「それじゃ行ってくるよ」
玄関から出る俺をキャスターはニコニコと手を振って見送ってくれる。
桜はキャスターに気をつけろなどと言っていたがその様子からはやはりただの可愛らしい少女としか思えない。
きっと桜の気にしすぎなのだろう、そう結論づけて俺は学校への道を歩み出した。
HAとかだと大人メディアと桜は相性良くて結構仲がいいのですが、リリィだと険悪そうなイメージを勝手に持ってます