「なあ、本当によかったのか?」
「何がでしょうか?」
提督が各々の個室を用意すると言っていた。瑞鶴は当然のように一人部屋を選んだ。私もそうしようかと思っていた。しかし、青葉が私と同室がいいと言った。了承こそしたが、折角の一人部屋をこうもあっさり蹴っていいものかとも思う。
「いや…なんでもない。」
不思議そうにこちらを見たあと、制服を持って何処かへ行ってしまった。恐らくは風呂だろうが、朝一番に入りに行くと言うのは存外女子力という物があるからかもしれない。一生わかりそうにない性質を脳に据えたままいつものように走り込みへ向かう。
武蔵さんに同室を許可してもらえたのは僥倖です!このまま距離を縮めていつか…えへへ。朝一番にお風呂に入りに行くのはまあ深い意味はないけれど、何となく汗をさっと流したい気分だったから。気持ちよかったら今後も続けようかなと。脱衣所には小さな寝間着と、女性用の寝間着が畳んでありました。きっと加賀さんと曙ちゃんの服だろうということで、私も服を脱いで入ります。もしかしたらなんであんなに距離が近いのかも聞けるかもしれません。
「失礼しまーす!青葉、入りまーす!」
「あ、青葉。」
「おはようございます。」
あれ?司令官の声がします。浴槽の方に目を凝らして見ると、その声の主二人が密着していました。
「あれ?服…だって女性もので…あれー?」
「私の趣味なんですよあれ。気になるならもう上がりますけど。」
「あ、いえ…構いませんけど…」
タオルを巻いててよかった…。シャワーで軽く汗を流して、次に髪を洗って、コンディショナーを使って、ボディソープで身体を綺麗にしてから浴槽に入ります。それほど長いわけでもないので髪は纏めません。
「ふう…。して、なぜ故にお二人はお風呂に?」
「えっと…」
「お恥ずかしながら悪夢を見まして。汗を大量に流してしまいましてね。で、腕がこんなでしょう?霞に洗ってもらっていたんです。」
ニコニコ笑う司令官と少し赤い顔を見せる霞ちゃんの雰囲気。察せないほど鈍い青葉ではありませんが、同時にそれ以上踏み込む度胸がないのが青葉です。霞ちゃんしかいないなら聞けますが、どうにも司令官の目つきが鋭くて、牽制されています。
「逆に青葉はなぜここに?」
「私も汗をかいてしまって…」
「そうですか…」
これ以上の会話が広がらなくなりそうで、少し気まずい。なんとかしようと思っていたちょうどその時。
「お風呂入りにきたよー!」
「朝風呂ってのもいいもんよね。」
「まだ眠いんですけど…。」
瑞鶴さんと加賀さんと曙ちゃんです。なんと武蔵さん以外全員集合です。武蔵さんは…多分訓練をしに行ってます。図らずも曙ちゃんにお話を聞くチャンスです。
「あれ、提督さんもいるじゃん。」
「え?気づかなかったの?」
「瑞鶴…」
「だってだって!置いてある服に提督さんぽいのなかったもん!」
もっともな意見を言う瑞鶴さんがまるで以上な人のように扱われています。
「ちぇー…残念イケメンは服装までおかしかったんだ。」
「瑞鶴?」
爆弾発言がちょうど霞ちゃんの耳に届いてしまったようです。自分の命が惜しいので助けることはしません。瑞鶴さんも曙ちゃんも、もちろん加賀さんも気づきません。
「霞〜。あんまり怒ったら可愛い顔が台無しですから、ね?」
「かわ…!だ、だって瑞鶴が…」
「感性は人それぞれですからね?ほら…」
そう司令官が霞ちゃんをなだめるように撫でます。すると、霞ちゃんの顔が緩んで、しおれていきます。頰が紅くなって、恥ずかしそうに顔を背けます。司令官は微笑んで、幸せそうです。私も武蔵さんがいたらなあ…と思っていた矢先。
「ふう…参ったな。まさか雨に降られるとは。」
そう言って少し水を垂らしながら武蔵さんが入ってきました。
「武蔵さん!」
後から入ってきた三人が私の顔を見てクスクス笑います。
「な、なんですかみんなして!」
「いや…可愛いとこあるじゃない。」
「いいね〜、青春だね〜。」
「後悔する前にアタックなさい。」
口々に言いたい放題です。なんだか悔しいです。
「…なんだ?提督もいるのか。」
乱暴にシャワーを浴びただけの武蔵さんが私の隣に腰掛けます。お風呂の温度はそれほど高くはないけれど、少し熱く感じます。
「青葉?顔が赤いぞ?のぼせる前に出たほうがいい。」
「あ、いえ…大丈夫です!」
褐色の肌と大きな胸が私の視界に入り込みます。メガネを掛けていない武蔵さんの顔はいつもと違った魅力がありました。三人が楽しそうに見つめてくるのが恥ずかしいけれど、何か言い返す気にもなりません。そういう目線が私の心を調子付けるというか、何となく認められているような気がして…まあ、悪い気はしませんでした。
「ふぁ〜…。」
「どうしました霞。」
呆けたような、何も力の入っていない、覇気の篭っていない声が霞ちゃんの口から出てきました。物珍しさかみんなが注目します。ゆっくり口が開かれて、また閉じて。とろんと垂れた目元がなんだか癒されます。
「なんでみんないるの…?」
突拍子もない発言が飛び出します。みんなキョトンと首を傾げ、不思議そうに見つめます。
「あれ…?しれいかん…?」
「のぼせちゃいました?」
「そんな…こと…あれぇ?」
よく見ると顔から肩まで全身が真っ赤です。
「のぼせたみたいですね。では私たちはこれで。」
ざばっと抱えながら司令官が湯船から上がります。長めのタオルが身体を覆っていて、大変なことになることはありませんでした。
「やだ〜。まだはいる〜。」
腕と足をバタつかせながら霞ちゃんは運ばれて行きました。