「やっほー提督さん。また来たよ。」
「暇なんですか?」
「そりゃ出撃も演習もなければね。わざわざ来てあげたんだからさ。もてなして欲しいな〜って。」
「私が淹れてくるわね。」
「助かります。」
「ありがと〜。」
給湯室へ少し早足になる霞を見送ると、瑞鶴がグンと顔を近づけてきた。
「ねえ提督さん。」
「…なんです?」
妙に神妙な面持ちで、漫画的表現を使用するならゴゴゴと裏に浮かぶ様な雰囲気があった。
「霞って走る時の擬音って『てちてち』だよね?」
「…は?」
あまりにも突拍子もない、意味のわからない言葉が投げかけられる。
「んー…わかんないかな。なんていうかさ、あるじゃん?可愛いっていうかさ、似合うっていうかさ。」
「霞が可愛いのには激しく同意ですが、その擬音は理解しかねます。」
少し驚いた様な顔で見る瑞鶴は納得がいかないとでもいう様に不満気だった。
「まあいいけどね。理解されようなんて思ってないし。」
「わざわざ報告に来るのならそういうことでは?」
「違うって。」
押し問答はどこまで行っても不毛である。
「お茶入ったわよ。」
素晴らしいタイミングで霞が三つ分の湯呑みを運んできた。丸いお盆に乗って、湯気が立つ。
「お〜。」
「いつも助かります。」
「別にいいわよこれくらい。」
微笑みながらもそれぞれの前に湯呑みを置く。
「霞ってばすごい大人みたいなことするよね。」
「…どういう意味?」
「いや?悪い意味じゃないよ。うん。私にはできないからさ、こんなこと。」
「霞、おいで。」
膝を叩いて催促する。そんな私に霞は冷静な一言を返してくる。
「まだお茶飲み終わってないの。私冷めたお茶はあんまり好きじゃないから少し待ってて。」
「フラれてやんの。」
「…待ってますよ。霞が居ないと膝の上が寂しいんです。」
改めて、じっくり霞の仕草を観察する。湯呑みを両手で包む様に持ち上げ、口に運ぶ。二、三度喉を鳴らし、熱いのか口を離す。そしてまた飲む。確かに茶は熱いうちが美味い。しかし、無理をするほどでないとも思う。
(ねえ提督さん。霞ってあんなあざとい仕草するの?)
(あれは素ですよ。普段からあんな感じです。)
瑞鶴の耳打ちは私にとっては愚問そのものだった。そもそも霞は一挙手一投足全てが愛らしいのだから、今改めて確認する必要もない。二人でしばらく眺め、いよいよ霞がお茶を飲み干した。
「…ふぅ。」
目を閉じ、一息。いつも通りのルーティンの様な物だ。そして、私の膝の上にちょんと座る。
「提督さんずるいね。」
「どこがでしょうか。霞を膝に乗せていいのは私だけです。」
「みたいだから、ごめんね瑞鶴。」
「そんなぁ。」
萎れる瑞鶴から目を離し、霞のことを抱きしめる。霞は、少し嬉しそうに鼻を鳴らす。ついでに撫でてやると、少し頭を下げた。
「ねえ、一応私もいるからね?」
「知ってるわよそれくらい。」
霞の雰囲気が変わり、威嚇しているかの様な圧を瑞鶴に向ける。しかし、やはり撫でられながらはその効果は期待できない。
「んー…ふわ…」
「霞眠そう。」
「そうですねぇ。」
提督さんが撫で始めてから大体五分くらいで目が垂れて、ついに欠伸までした。
「もう寝ちゃいます?」
「しれいかん…まだ…ねない…」
単語の感覚を開けて話す辺り、もう限界が近い。提督さんの声は優しく、眠らせようとする意思が受け取れる。霞からは、もうほぼ寝ているとしか思えない呼吸が聞こえる。
「おやすみなさい霞。」
「ん…し…れ…」
遂に目を閉じて、首が下に向けられた。
「寝ちゃったねえ。」
「ですねえ。」
「私も寝ていい?」
「自室でどうぞ。」
「なんて非道な男なんだ。残念イケメンめ。」
こんな言葉を吐き捨てて司令室を後にする。にしてもあの霞はものすごく幸せそうだった。…ちょっと素が出たかもしれない。もしかしたら前世のトラウマ的なのが関係してるのかな。でも、ここではそんなこと考えないほうが楽しいよね。加賀さんのとこでも行こうかな〜。それにしてもまた降り出すなんて今日は変な天気。それに少し強くなりそう。