「…一杯酒でも呑まないとやっていられないな。」
武蔵がぼそりと呟く。司令官が少し嬉しそうに顔を上げた。
「今日は呑みますか?」
「いいのか?」
「ええ。いっそみんなで呑みましょう。蓄えていてもどうせ呑みませんから。」
「ほんと!?やったー!」
「流石に気分が高揚します。」
「司令官は呑んじゃダメよ。」
「あたし呑めるかしら…」
「いいですねぇ!私も参加します!」
「では各々食事を済ませ次第司令室に集合ということで。」
あれよあれよという間に決まっていく。私と司令官の時間が減るのは癪だけれど、良い方向に進んでいる様な気がする。司令官が私を引き上げて、浴場を後にする。
「さてさて…準備しますか。」
「どんなの出すの?」
司令官は少し考えた後、大きなボトルを取り出した。中身は赤紫色で、ラベルには英語が連なっている。注ぎ口はコルクで閉められたそれはワインだった。
「私は呑みませんけど、勿体無くて持っていたんですよ。そこそこ高級なやつですから、皆さん満足するはずです。」
他にも日本酒だったりビールだったり…本当に溜め込んでいたのがよくわかる。
「先に一杯呑んでみては?」
「いいの?」
「構いませんよ。味見です味見。」
そう言ってコップにワインを注ぐ。ぱっと見はジュースの様で、口元に運ぶとなんとも言えない香りが鼻腔をくすぐる。一口呑んでみると、葡萄の香りと味が広がる。これが上品な味というやつかもしれない。
「美味しいですか?」
「うん。私結構好きかも。」
「それは何より。」
廊下からパタパタと小刻みな足跡が聞こえる。
「来たわよクソ提督!」
「お待たせしました。」
「うわ!色々ある〜!」
「ふむ…呑めるのか?」
「いえ?私は呑みません。」
「なんですそれは…。」
ぞろぞろとみんなが集まり、机に並べられたお酒に視線が集まる。
「霞はもう呑み始めているな…。なら私たちも呑もう。」
「そうねえ。じゃ、私これ。」
「なら私も。」
曙と加賀は二人とも日本酒を手に取った。注がれるその液体は透明で照明の光を反射していた。
「青葉はこれにします!」
それは私が一番最初に呑んだジュースに似たお酒で、司令官が一口目で酔ったもの。
「私はこれで良いか。」
武蔵は…よくわからない。麦色なのにビールとは違う様な入れ物だった。コップに注いだ後に炭酸水を入れた辺り、普通のお酒ではなさそうに見える。
「私どうしよっかな。」
瑞鶴は決めあぐねている様で、じっくりと観察している。結局選んだのは青葉と同じものだった。
「では乾杯。」
さらりと乾杯の挨拶を済ませ、みんなが改めて呑み始める。司令官はお酒ではなく、緑茶を飲んでいる。
「あ、これ結構いけるわね。」
「…なるほど。」
曙は結構好きそうで、逆に加賀は好みではなさそうだった。二人とも適度に呑めるクチらしい。
「むむ!これは美味しいですよ!」
「ね!」
青葉と瑞鶴は気に入ったみたい。缶を開けて豪快に呑んだ。頬が少し赤い辺り青葉の方はお酒に弱いらしい。
「これはなかなか…」
武蔵は、少し表情が読み辛い。けれど、お酒を見る目はどこか楽しそうに見える。もしかしたら気に入ったのかもしれない。また一口呑んで司令官を見ると、穏やかに微笑んでいた。
「んぁ〜、かがぁ〜。いる〜?」
「ええ…居ますけど。」
「曙よわいねぇ〜。あはは。」
曙は意外にもお酒で酔えるらしい。加賀は見た目通りというか、まあ、あまり酔っていない。瑞鶴は頬が赤いけれど、まだまだ意識ははっきりしている。けど、笑いがずっと止まらないのはお酒のせいなんだろうか。
「すぅ…」
青葉はぐっすり眠っている。武蔵の腕に抱きついている辺りさすがと言ったところだろう。
「うむ…やはり酒はいいな。美味い。」
武蔵はずっと最初に選んだお酒を継続して呑んでいる。酔っている様子はないから、お酒には強いらしい。
「霞はやっぱり酔わないみたいですね。」
「そんなことないわよ?ちょっとぽかぽかするし。」
嘘は言っていない。酔いにくいだけだと思う。
「そろそろ私は帰ろう。青葉も寝てしまったしな。」
「では私たちもこれで。」
「かがぁ〜つれてって〜。」
「任せてください。」
「私はもうちょっと飲もっかな。楽しいし。」
武蔵と青葉、曙と加賀が帰る。瑞鶴は少しはだけつつもお酒を呑むのをやめない。
「霞、私は呑んじゃダメですか?」
「絶対ダメ。」
「そんなに言われるなんて何やらかしたのさ〜。」
「すぐ寝ちゃったのよ。それも一口目で。」
「あはははは!弱すぎでしょ!あははごほっごほっ!あー…むせちゃった。」
「そんなに面白かったですか?」
「いやねぇ。こんなにお酒溜めこんどいて飲まないなんておかしくってさぁ。の割に霞はびっくりするほど強いし…。ふぁ…」
「眠いなら寝ないとダメですよ。ほら、帰りなさい。」
「えー?まだ呑みたいんだけど〜。」
「もう終わりです!」
文句を言う瑞鶴が背中を押されて部屋を出る。
「元気なのは良いんですが…ああいうところは困りますね。」
「いいじゃないの。仲良くするのも大切よ?」
あまり散らかっていない部屋を適当に片付けて、私たちも部屋に戻る。
「…随分遅い時間ですね。」
「そうね。今日は…別に良いわ。でも、えい。」
布団に座る司令官を抱きしめる。司令官は腕を宙でばたつかせた後、私の背中をキュッと抑えた。
「こうして寝ましょ。」
「構いませんとも。」