ん…?ここどこだろ…。なんか見覚えがある様な…
「瑞鶴!」
?誰かに呼ばれたかな…えっと…後ろ?
「やっと気づいたか。さあ、早く出撃してこい。」
そうだった。早く…出撃してこないと…あれ…?なんだろうこの違和感。まあいいや…
「どうしたの瑞鶴。さっきからずっと上の空じゃない。」
違うよ翔鶴姉。私はそんなことないってば。
「またあの加賀さんのことを考えてるのね?」
違うってば、もう。さ、早く帰って間宮さんのところに行こうよ。
「もう、まだお仕事は終わっていないわよ?」
あれ…そうだっけ。そういえばそうかも…
「本当に大丈夫?」
うん…少し危ないかもね…。
「五航戦、早く来なさい。」
もう!加賀さんてば優しくないんだから!はぁ、あの加賀さんは優しかったのにな。
「何かしら?私に文句でもあるの?」
ないでーす。
「…五航戦の妹の方、今日もそこで弓を射なさい。」
また?私ももう弱くないんだし、もういいじゃん。って、それより、私の名前は瑞鶴だってば。
「黙りなさい。そう言う甘い考えをすることが戦場では命取りになるの。私に意見するのは、もっと腕を上げてからにしなさい。五航戦。」
はいはい。わかったからもういいよ。
「はいは一回、そしてその態度は何かしら?五航戦。」
本当に同じ加賀さんなのかな…
「以上が今回の作戦だ。」
ちょっと待ってよ提督さん。私たちの練度でその海域の攻略は難しいよ。
「なんだ?私の作戦に不満か?いつのまにか偉くなったものだな。」
そうじゃなくて…その海域には私たちよりも適任の人がいるって…
「黙れ。これは決定事項だ。お前たちに覆せる様な甘いものではない。わかったならさっさと出撃してこい。」
一応は旗艦に任命した私の意見一つ聞かないなんて酷い。
「瑞鶴さん…私たち大丈夫でしょうか…?」
あ、ごめん。不安にさせちゃったよね。みんなが力を合わせればきっと勝てるよ!
「そ、そうですよね!」
なんて…嘘をつく。駆逐艦の子があんまりにも不安そうに聞いてくるものだから、つい調子のいいことを言っちゃった。事実、後ろにいる他の人たちはみんな暗い顔で、でもそれを悟られない様にしてた。みんな、今回の作戦で全員が帰れるとは思ってない。
「瑞鶴さん!どうすればいいですか!?」
まずい。予想以上に敵艦隊が強すぎて少しも歯が立たない。せっかく翔鶴姉に艦載機を借りたのに…それを活かせない。みんな懸命に戦っているけれど、この調子ではすぐに誰か沈む。
「皆、ここは一時撤退しよう!そうだろう瑞鶴!」
今、この艦隊で一番練度が高く旗艦である私にそう、日向が聞いてくる。
「殿は私が引き受ける!単縦陣で最高速で撤退するぞ!」
私の指揮は必要なかった。
「で、このザマか。」
結果、日向が沈んでしまった。私がもう少し早く指揮して、もう少し冷静に考えられていれば、こんな事故は起こらなかった。
「ふん、もういい。貴様は当分は謹慎処分とする。さっさと入渠してこい。」
はい…。すみませんでした。口で謝っても、この不快な威圧感は消えない。入渠ドックではさっき一緒に出撃した子たちが居た。みんな顔が暗く、一言も喋らない。私は、居心地が悪くて、今すぐにでも逃げ出してしまいたかった。
「じゃあ瑞鶴、私、出撃してくるからね。いい子にしてなきゃダメよ?」
わかってるよ翔鶴姉。私だってもう子供じゃないんだから。気をつけてね。
「そう…よね。わかってるんだけどつい言っちゃうのよね。ありがとう。」
今日の翔鶴姉は少し変。私はいつも通りなんだけどなぁ。そういえば翔鶴姉は出撃したくないだなんて言ってた様な気もする。なんで忘れてたんだっけ?今日の編成だってそんなに気になるところはないし。でも、加賀さんがいるのが少し嫌かな。翔鶴姉をいじめたら許さないんだから。
謹慎中の私にはみんなからの…特に伊勢からの視線が集まる。やっぱり沈ませてしまったことに対する怒りやら恨みやらがあるんだと思う。私だって仲間を沈ませたことをすぐに忘れてしまうほど薄情じゃない。時間は少しは経ったけれど、それでも未だに私の心にはその時の映像が残ってる。あの時、もっと提督さんに言っておけばよかったと後悔している。でも、現場を知らない人からすればそんなのは言い訳に過ぎない。わかってるから、私は何も言わない。居心地の悪い食堂を足早に逃げる様にして後にする。
「あの…瑞鶴さん。」
ん?何かな。私と一緒に出撃した、駆逐艦の子。少し不安そうな顔をしてこっちを見てくる。
「て、提督がお呼びです…!」
「やっと来たか。全く、翔鶴型は何故こうも召集に応えるのが苦手なんだろうな?」
わざとらしい悪態を無視して、提督さんの前に立つ。背筋を立たせて、足を肩幅に広げる。手は後ろに回して、提督さんをじっと見つめる。
「…まあいい。貴様に特別任務をやろう。報酬もたんまり、これが成功すればお前は晴れて名誉挽回ができる。」
お断りします。
「貴様…我が艦隊の一隻を自らの失態で沈ませておきながら、まだそんな反抗を見せると言うのか。」
お言葉ですが、私はあの作戦について、我々の練度では足りないと言うことは説明させていただいたと記憶していますが。
「黙れ。旗艦として貴様が最終的に出撃したのだ。全ての責任は貴様にある。」
やっぱり、この人は嫌い。私の意見を聞かないくせに自分の意見だけは通そうとしてくる。この人のせいでみんなの雰囲気が悪くなる。ほんの少しの心の拠り所になるのは、誰かと世間話をする時だけ。
「瑞鶴!?本当なの!?こんな作戦、危険すぎるわ!」
大丈夫だって。私なら大丈夫。なんたって幸運艦なんだから。翔鶴姉の心配は無用だよ!
「瑞鶴!」
誰にもこの作戦は伝えてないはずなのに、翔鶴姉がいつのまにか知っていた。誰かが聞き耳でも立ててたのかもしれない。
「だめよ!そんなのだめ!貴方がいくら幸運艦で、どれだけの練度を持っていたとしても、こんな作戦、どう見たって、誰が見たって、ただの特攻作戦じゃない!」
違うって、そんなことないよ。
「貴方の意見はどうなってるのよ!ちゃんと伝えたんでしょう!?」
私が提督さんにお願いしたんだって。最近私のせいで伊勢を沈ませちゃったでしょ?だから、無理言ってやらせてもらってるの。
「何を言ってるの?そんなこと、貴方が言うわけないじゃない!」
翔鶴姉は、すごく心配性で、それのおかげで私は何度も助けられた覚えがある。そして、提督さんへの愚痴も、何度も聞いてもらってた。
「まだ、なんとかなるでしょう?私が提督に…」
もう、私は大丈夫だって。それに、もう、行かなきゃいけないからさ。
「だめよ!大丈夫って言いながら!さっきからずっと泣いてるじゃないの!」
そう言われて、ようやく今の自分の表情がどうなっているかを理解した。
「ねえ、貴方はこの作戦は嫌なんでしょう?ねぇ、今からでも作戦を見直してもらうとか、最悪ここから逃げるでも…」
「おい瑞鶴。いつまでそこで時間を潰すつもりだ?さっさと出撃してこい。お前が望んだことだろう?」
「提督!」
もういいよ、翔鶴姉。じゃあ、私行ってくるから。そこで、待っててよ。私は、帰ってくるから。
「瑞鶴!」
海上を一人で進むのって少し不安。改めて、今回の装備を確認してみる。九六式艦戦、九七式艦攻、九九式艦爆、12.7mm単装機銃。妖精さんも諦めモード。こんなんじゃ今の私の練度じゃどうにもならないよ。結局、私は自分の意見を誰にも通せなかったな。翔鶴姉は、あんなにハキハキ喋ってるのに。加賀さんは…あっちの加賀さんはどうかな。元気にしてるかな。ごめんね。私だけ先に行っちゃって。
「ん…あ…?」
随分懐かしい夢を見た気がする。あの子は…今はもう誰だったかもわからないけど、最後まで私を信用してくれた。伊勢は…私みたいに生まれ変わってるかな。あの提督さんは、あの後どうなったかな。交代して、少しでもいい人が来てくれてたら嬉しいな。
「瑞鶴?起きてるかしら。」
「あ、加賀さん。うん。起きてるよ。」
久しぶりに、翔鶴姉に会いたいな。元気にしてるといいな。
「一緒にご飯を食べに行きましょう。」
「曙は?」
「頭が痛いみたいで…無理をさせるわけにもいきませんから。」
ここは、あったかい。みんなが自由に過ごしても、誰にも文句を言われないんだもん。
違和感があったので伊勢と日向を変更しました