帰ってから、この前の弓道場で話をした。とにかく掻い摘んで、要点だけ説明する。横暴な提督が上に立っていたこと。私たち艦娘の意見を全て却下されたり、責任を押し付けられたこと。最後は無謀な特攻をさせられたこと。提督さんは、それまでは何にも言わなかった。そして、一息ついてから、思い立ったように一言だけ告げられた。
「ここに来てくれて、ありがとうございます。」
と。その一言が私のどこかに突っかかっていた何かをすっと無くしてくれて、提督さんがここから離れた時には、思わず涙がこぼれた。暫く一人で居ると、少しづつだけど落ち着いて、だんだんマシになってくる。深呼吸して、加賀さんのところに行こう。
「あ、司令官。お帰り。」
「腰はどうですか?」
「まだ少し痛いわね。」
そう伝えると、司令官が私を持ち上げて、腰に負荷がかからないような体勢にしてくれた。けれど、もうそこまでされるほどではないから、ありがたいという気持ちよりも気恥ずかしさの方が多かった。
「別にそこまでしなくたっていいってば。」
「いえ…私が少し調子に乗りすぎたのが悪かったので…。」
少ししょんぼりと首を下に向けて、ゆっくりとソファに連れて行かれる。柔らかい素材のおかげでそれほど苦でもなく、おまけに司令官の膝枕を堪能することができた。
「ん…ありがと。」
司令官の手が私の額を撫でて、リラックスさせられる。
「なんか…眠くなってきた…」
「寝るなら寝室まで運びますよ。」
「や…いつものがいい…。」
「正気ですか?腰を休めないといけませんよ?」
「別にいいの〜。」
そう言うと、司令官が私を持ち上げて、いつもみたいに座る。段々と視界が狭くなっていって、ついには眠ってしまった。
「ん…ふぁ…」
目が覚めて、辺りを見回す。司令官はいつのまにか居なくて、腰の痛みも引いていることがわかった。外ではぽつぽつと弱々しく雨が降って、嫌な湿気が全身に感じられる。
「しれ…どこ…?」
少し不安で、被せられていた毛布を握りしめる。暫く司令室の椅子の上に座っていたけれど、いい加減に行動しないと彼が見つからないと分かるまでにはそう時間はかからず、そして、この鎮守府は私以外にも所属していると言うことを改めて思い出したことで、ようやく動き出すことができた。
「しれいかん…どこ?」
長く広い廊下を、とりあえず呼びかけながら歩く。もしかしたら前みたいに曙たちの部屋にいるのかもと思って行ってみても、そこには司令官ではなく二人とともに瑞鶴が世間話に花咲かせていた。次に候補としては食堂があった。とりあえず行ってみるのが吉。いなかったとしても、間宮さんや伊良湖さんもいるから、ひとりぼっちということにもならない。けれど、やはり不安であるのは変わらないようで…
「ひゃっ!?」
いきなりガタンと風で窓が揺れた音ですら、全身がぞくりと跳ねる。微妙な湿気も相待って、全身がじっとり濡れているように感じられて、不快感を煽る。
「ね、霞。大丈夫?」
「わっ…瑞鶴?」
「そんな驚かなくたっていいじゃ〜ん。」
背後から突然瑞鶴が話しかけてくる。
「曙たちはいいの?」
「えーと…言っていいのかな…。」
少し考え込んだ後、面倒くさそうに頭を掻いた。
「その…加賀さんが霞のこと見てあげてって。ほら、なんか霞ってほっとけないっていうか?まあ、仕方ないって感じ?」
何やら色々言っているけれど、要するに私を心配してくれたらしい。その心遣いが嬉しくて、胸の中がぽかぽかした。
「ありがと、瑞鶴。」
「ん…いいのいいの。お昼は霞から提督さんとっちゃったし。」
私の頭の上にぽすんと手を置いて、優しく撫でられる。司令官のそれとは違って慣れていないようなその動きが、司令官とはまた違った安心感を与えてくる。