「はい、大規模作戦お疲れ様でした。」
「ん?あれ?」
「どうかしましたか?」
「大規模作戦は…?あれ?」
「…もう終わりましたよ、ええ。とっくの昔に。」
「そうだったかしら…」
「そうですとも。」
あまり記憶にないけれど確かに身体に溜まった疲労が、大規模作戦があったことを私に理解させ、更に司令官からの無言の圧によって、その現実を受け入れざるを得ない。確かに言われれば、じわじわ思い出してきた。色々な鎮守府へ派遣しに行って…深海棲艦をたくさん沈めたことを今思い出した。そして…
「あらあら〜霞ちゃん、どうしたの〜?」
私の姉さんが新しくこの鎮守府に所属した。名を荒潮と言うらしい。つかみどころのない雰囲気だったり、かと思えばおっちょこちょいな一面もあったりと少々癖のある人。
「ううん、なんでもないの。」
ニコニコと笑いながら、たまに私の左手をチラリと見てはため息をつく。その時は眉を少し下げてどこか悲しそうな顔をするのが不思議だ。それに、姉だからか私の方が練度も経験も圧倒的に上なはずなのに、逆らえそうにない。偶にその圧力に押しつぶされそうになる。
「荒潮の部屋は瑞鶴と同じでいいですかね?」
「あら〜?霞ちゃんと一緒じゃダメなのかしら〜?」
「姉さん、私、司令官と一緒の部屋だから。」
そう言うと、一瞬硬直して、僅かに口の端を震わせながらいつもの笑顔を貼り付けた。
「そうだったのね〜…少し、霞ちゃんとお話ししてきていいかしら〜?」
「ええ、構いませんよ。」
司令官が少し目を細めながら姉さんの方を見る。姉さんは私の背を押しながら、少し強引に司令室を後にする。
「姉さん、話って?」
「霞ちゃん、あなたはまだ小さな女の子なのよぉ?いくらケッコンしてるからって、そう言うのはまだ早いんじゃないかしら〜?」
「そう言うの…?」
「よくわからないかしら〜?そうね〜。」
そう言って私の身体に手を回す。するする動いて、私の胸元や臀部あたりを触られた。
「ちょ、ちょっと!何して…」
「こう言うこと、されてないかしら〜?」
いつものようなおっとりとした口調のはずなのに、その言葉の奥に秘められた恐ろしいほどの威圧感が私の身体を強張らせる。
「別に…こんなこと…してない…。」
「本当かしら〜?でも〜、二人を見てると〜…ね〜?」
「わか、わかった、から。今日だけ…今日だけ一緒の部屋でいいから。」
「私は〜そんなこと言ってるわけじゃないのよ〜?」
あまりの圧に気圧されて、涙が出てくる。それを、姉さんが人差し指を使って拭う。
「うふふ〜。別に怒ってるわけじゃないから〜構わないわよ〜?でも〜、お言葉に甘えちゃおうかしらね〜。」
「お話は終わりましたか?」
「今日は一緒のお部屋にしてくれるみたいよ〜?」
「あ…司令官…その…」
「…荒潮。妹想いも結構ですが、本人の意思確認すらなく、高圧的な関係になるのは、いかに姉といえど、許せる行為ではありませんよ?」
「そんなことないわよ〜?」
ふわふわと漂う笑顔が私のことを見る。先ほどまでの恐ろしさは消え去り、今は安心するような、いつかの満潮を思い出させる雰囲気だった。
大規模作戦の思い出はみんなの心の中にあります。