「荒潮ちゃんは今のこの鎮守府についてどう思います?」
「それってどう意味ですかぁ?」
「ええと…率直に、と言うか…ここで過ごしてて思うことがあるとか…」
手を顎にかけながらぼんやりと考えて、少ししてから荒潮ちゃんがまたいつものようなほんのりと笑顔を浮かべます。
「楽しいところだと思うわぁ。それに、私はここで全然時間が経っていないもの。一概にどうっていうのはまだ言えないわぁ。」
「わお…お手本のような返答ですね。」
「つまんなかったらごめんなさいねぇ。」
「いえいえ。とても参考になります。」
つい最近取り寄せた手帳にぴかぴかのペンでメモを取ると、本当の取材ができているみたいで楽しいです。
「そういえばぁ…」
「?なんでしょうか。」
「青葉さんは武蔵さんとどこまで進んでるのかしら〜。」
「どこまでというのは…?」
表情を一切変えず、いつものようにクスクスと笑う彼女は、物言わぬ圧力を青葉に押し付けてきます。だんだん顔が熱くなって、彼女を直視できません。
「あらあら〜。うふふ。」
「すみませんでした…もう勘弁してもらえませんでしょうか…。」
「い・や・です♪」
「武蔵!武蔵!」
「どうした大和よ。」
ぴょんぴょんと跳ねながら私を呼ぶ姉の姿が、大戦中の僅かな記憶とは齟齬があり、どうにもくすぐったい。眩しい笑顔が私の目に差し込んで離れない。
「こ、これです!なにかは知りませんけど窓を登ってます!」
「これ…か。蝸牛というやつだな。」
「初めて見ました!」
「…そうだろうな。」
私の姉は存外に子供っぽい。何かにつけては私を呼びつけ、なんだこれはと聞いてくる。偶に私にもわからないものが現れる。たとえば…
「武蔵!あれはなんでしょう!」
「今度はなんだ?」
「あれですあれ!」
大和が指差すそれは間宮にあった。
「間宮ならお前も知らぬはずはあるまい。」
「む、違いますよ!あの二人が食べているものです!白くてふわふわしてるあれです!」
…なんだあれは?二人が談笑しながら食べているあたり、毒物というわけではないことばわかる。それと、おそらくはとても美味いものだろう。だが、私はそれを見たことも食べたこともない。見た目と雰囲気から推測できるのはそこまでで、きっと大和の求める答えは出せないだろう。
「私にもわからんな。」
「なんと!武蔵にもわからないものがあるのですね!」
「私をなんだと思っているんだ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見、その後屈託のない笑顔で言い放たれた。
「物知りで、頼りになって、大和の可愛い妹です!」
「…そうか。」
「お二人もパフェ、いかがです?」
いつの間にやらこちらに気付いたようで、間宮と伊良湖がこちらに向けて手招きしている。
「武蔵!武蔵!お言葉に甘えましょう!」
「ああ、そうしようか。」
「ねえねえ翔鶴姉、私のこと覚えてる?」
「?ええ。あなたは瑞鶴で、私の妹でしょう?」
「そうじゃないんだけど…まあいっか。」
頬を膨らませて、私に少し怒ったような顔を見せる彼女は、やはり私の記憶に残っている瑞鶴のよう。あの子は提督からの無理な命令で沈んでしまった悲しい子。できれば、私が変わってあげたかった。そのすぐ後に私も沈んでしまったから、どちらにせよ結果は変わらなかったのかもしれないけれど。
「ねえ翔鶴姉。」
「どうしたの瑞鶴。」
「ううん。また一緒になれてよかった!」
なんて良い顔をするのでしょう。あの子は、ずっと私や提督や周りの人達の期待に応えようと努力していた。きっと、今でもそれは変わっていないはず。
「瑞鶴…?加賀さんに挨拶に行きたいから…案内してくれるかしら。」
「うん!いいよ!」
浮き足立たせながら私の手を引く瑞鶴の背中は私と殆ど変わらない大きさで、それなのに触れると壊れそうな危うさも有って、以前よりも彼女の鬼気迫るような覚悟は見られない。きっとここが楽しくてしょうがないのでしょう。
「加賀さーん!曙ー!」
「瑞鶴と…翔鶴。久しぶりね。残念だけど加賀は寝てるわよ。」
「ありゃ。またかあ。」
見ると、曙を抱きながらスヤスヤと心地良さそうにしています。
「翔鶴…懐かしいわね。」
「ええ。とても。」
「あれ?二人ともなんかあったの?」
「瑞鶴覚えてないの?あたしは、翔鶴の護衛艦だったのよ。」
「…あー、そういえば。私は潮だったね。」
「あんときはへましたけど、今はもう大丈夫よ。翔鶴も瑞鶴も加賀も、全員守ったげる。」
「あら、頼もしいのね。」
「なんたってここのNo.2だもんね!」
「私の曙ですからね。」
「あんたが得意になれるわけじゃないわよ。」
いつの間にか起きていたようで、加賀さんの見た目で加賀さんらしくない発言。私たち五航戦に妙に優しい感じ…。
「紹介するね!加賀さん!私たちの先輩だよ!」
瑞鶴の荒ぶり様…この人なのね。瑞鶴の言っていた加賀さんは。
「翔鶴、瑞鶴に負けないように精進しなさい。」
「はい!」
「なんか翔鶴姉楽しそうだね。」