1人用と言うには大きいが2人が入れるほど大きくないベッドに並んで眠る。
「霞、やはり私は座って寝るのであなたはベッドで寝てくれませんか?」
「ダメよ。今日は2人で一緒に寝るの。」
「誘ってます?私、清純なお付き合いなら大歓迎ですよ?ただ、まだちょっと…」
「変なこと考えてんじゃないわよ!」
霞に叱られ、仕方なく背を向ける。睡眠欲とは恐ろしいもので、暫く目を瞑ると緩やかに夢の中へ意識を落としていく。
こいつが何か変なこと起こしたらすぐわかるようにしないと。どこにも行かないわよね?まあ、そうなったらすぐ捕まえればいいか……。
豪雨による雑音と共にゴンゴンと打ちつけるような音がこの部屋に響く。やかましいそれに促されて目を覚まし、音のする場所へ向かう。曙の情報が頭によぎり、覚悟してドアを開ける。案の定そこには頭を打ちつける司令官の姿があった。
「何してるの!さっさと寝るのよ!」
そう声をかけると、
「…む?なぜこんなことに?霞?もう朝ですか?やけにまわりが暗いんですが…。」
「まだ夜よ!ほら、こっち来なさいな。」
司令官の手を引きベッドへと誘導する。寝ぼけたままの司令官は素直に体をベッドに包み、再び眠る。今度こそどこへも行かないように、今度は抱きしめながら眠る。別にそう言う願望があるわけではない…はず。次に目を覚ました時には朝で、小雨がぽつぽつと弱々しく降っていた。
「ほら司令官、早く起きなさい。」
長い髪を揺らしながら体を持ち上げる姿に情欲をそそられる。おそらく今は顔が真っ赤だろう。悟られぬよう、急足で自室へと戻る。
「曙。帰ったわよ。」
「あ、霞。どうだった?様子は。」
「一回だけ見たけど、声をかけたら止まったわよ。」
「そうだったの?おかしいな…。」
「ほら、さっさと着替えなさいな。」
「ん?霞、顔が赤いわよ。風邪?」
間宮さんのところで朝食をとり、1日が始まる。
「霞。今日も仕事はないですよ。」
「やっぱりないのね…。別にいいけど、どうにかしないといつか首切られるんじゃない?」
「ふふふ。そうなったら霞と曙と別のどこかに引っ越しますか。」
「馬鹿なこと言ってないで。今日は仕事ないけど、どうするの?」
「昨夜は雨が降ってましたし、海も少し荒れてるようですね。釣りは論外でしょう。」
視界の端で曙がお手本のようなリアクションで驚いている。
「かと言って散歩は行けるところが決まってます。」
「さっさと猫克服しなさいよ。」
また曙がショックを受けている。
「畑は、間宮さんが管理してますし、正直我々が行っても力になれるかは微妙です。」
「そう?私は楽しかったけど。」
「本当に何もやることないですね。」
「ねえ、クソ提督。あたし、服が欲しい。」
「服ですか?まあいいですけど。霞も行きますか?」
「まあいいわよ。」
この前と同じような服装で2人に合流する。
「その腕どうしたの?」
「簡単に言えば義手です。動きませんけどね。」
「へえーよくできてるじゃない。」
「あんまり引っ張るとすっぽ抜けるので気をつけてください。ほら、行きましょう。」
少し歩いて、前回は猫に阻まれていた道を進む。今日は雨だからか1匹も見られず、不気味なほど静かだった。やがて街につき、大きな商業施設に入る。迂闊に歩けばすぐに迷ってしまいそうな店を2人はまるで最初から知っているかのように進んでいく。女性ものの服を取り扱う店で、2人が目を輝かせるのを傍目で見ていると、店員から試着してみないかと誘われた。確かに見た目は女性にも似ていると思う。面白そうだったのでついていくと、いわゆる大人の女性が着用するような長めのスカートに黒を基調としたカーディガンを渡された。大人しく試着室へ入り、その服を着てみる。案外似合っており、店員さんからはベタ褒めされてしまった。自分が男である旨を伝えると、目を点にしてその場に固まってしまった。面白いのでそのまま会計に通し、一日この服で過ごすことにした。霞達に合流すると、先ほどの店員のように驚きの目で迎えてくれた。ある程度服を選び終えたらしいが、突然散り、私にあったサイズの服を大量に持ってきた。とりあえず全て会計を済ませる。
「さて、他に行きたいところでもあります?」
「いやないけど、なんでそんな服着てたの?」
「明らかにおかしいわよ。」
「これですか。店員さんに誘われるがままに着てみたら意外と楽しくて、結構似合ってるでしょう?」
「なんでそんなピッタリなのよ。」
「クソ提督らしくないけど悔しいくらい似合ってるから何も言えないわね。」
「褒め言葉として受け取っておきます。」
「そうだ。化粧品売り場で司令官用の化粧品揃えちゃいましょ。面白そうだし。」
「いいわねそれ。じゃあ早速しゅぱーつ!」
「…なぜ?」
そのまま手を引かれ、化粧品売り場へ足を運ぶ。様々なメーカーのものがずらりと並んでおり、口紅でさえどこが違うのか全くわからないものが数十種類も並んでいた。とりあえず黙っていると、奥の方から少し歳を重ねたお姉様がニコニコしながら向かってきた。そのまま流されていると、いつのまにか自分の顔が練習台のように化粧品で装飾されていく。霞達は遠くから楽しそうにこちらをみている。結局店員さんが選んだものをいくつか買い、小物のようにしか見えないものはどれも目が飛び出るような値段だった。
「もう帰ります?色々疲れました。」
「そうね。帰ったら色々遊びましょうか。」
「お手柔らかにお願いします…。」
雨が上がり、太陽が地面に反射した光が目を刺すように痛い。猫が動き始めるかもしれないので少し駆け足で帰る。昼を回った頃。ようやく鎮守府に着く。
出迎えの間宮さんが呆気に取られたような顔でこちらを見つめる。