「その腕、大丈夫なのか?」
「断面がツルツルなのが不気味ね。」
「高速修復材を使えばこうなりますよ。」
「懐かしいわねその話。」
司令官の腕の話はやはりいつ聞いても痛々しい。姉さんも金剛もこの話を頷きながら真剣に聞いている。一方で扶桑と山城はべったりくっついている。翔鶴と瑞鶴は加賀と会話に花を咲かせ、曙は加賀の腕の中でもがいている。
「腕のことはわかりました。けれど、なぜそんなにも霞を好きになっているんデスカ?」
「…好きに理由はいりませんよ。」
「はぐらかすのかしら〜?」
怪訝そうな顔で初めに私たちのことを見ていた姉さんは、今や目を輝かせながら更に聞き出そうと身を乗り出す。金剛はただただ疑問に思っているような顔だった。
「武蔵、あったかいですね。」
「ああ。そうだな。風呂とはそういうものだ。」
向こうでは大和型の二人が平和に湯船に浸かっている。二人の身体のラインがこの場にいる全員と比べて見ても随分と恵まれているように見える。青葉は面白くなさそうに二人を見ていた。
「まあそこまで知りたいのなら話してあげましょうかね。」
「あら、いいの?」
「減るものでもありませんからね。」
「そ、そうか。」
長門が何気に一番知りたそうなのは黙っておいたほうが良さそうな気がする。
「最初の頃の霞って今よりもずっとつんけんしていたんですよ。」
「そうだったんデスカ…。」
「少し優しくされてコロッと落ちちゃったってこと〜?」
「まさか。確かにグッとはきましたけどね。まあまあ、それ以上にありますから。霞って案外臆病なところあるんですよ。大本営に行った時なんかはもう…ねぇ。」
「どうだったの?」
「私の後ろに隠れて震えてたんですよ。庇護欲が刺激されるどころではなかったですよ。」
そんなこともあったような気がする。でも、今はもう怖くない…と思う。
「あとは…うーん…。語るには時間が足りません。」
「まぁ、そんなにあるのぉ?」
「ええもちろん。私の霞への愛は揺るぎないものです。」
「ムムム…私の入る余地はなさそうデース…。」
「金剛だろうが大和だろうが長門だろうが伊勢だろうが誰も霞を超える魅力は、私からすればありませんね。」
「言い切るな。それほどまでに夢中になれる相手が居るということの裏付けにもなるが。」
「加賀さん、曙ちゃんのこと、どうしてそんなにお好きになったんですか?」
「あ、それ私も地味に知らないかも。」
「聞きたいですか?」
「あたしのいないとこでその話してくんない?」
「あら、どうして?」
「はずかしいのよ。わかんない?」
「こういうところです。」
「ふーむ…わからないでもないですが…。」
「あら青葉。文句でも?」
「滅相もありません!」
「よろしい。」
「威嚇するな。」
「わかりました。」
「曙、もう一度、私の護衛艦になってくれる?」
「…誘ってるわけ?」
「翔鶴?」
「まあ、そういうつもりはなかったのですけれど。」
「翔鶴姉、ちゃんと説明しないとわかんないって。」
「理由なんてないのよ?でもね、あなたのこと、私は結構気に入っているの。それだけではいけないかしら。」
「生憎だけど、あたしは加賀一筋よ。それに、あんたら空母全員を守るって言ったじゃない。」
「武蔵、お風呂ってどれくらい入ればいいですか?」
「そうだな…肩まで浸かって、百数えるんだ。」
「なるほど!」
そういうと大和はざぶんと飛沫を上げ、数字を数え出した。そして、私に手招きし、同様にしろという旨の指示を受ける。
「ああ、わかっているさ。」
大和は随分と小さく見える。私より一回りは小さい。それに、仕草もおよそ姉とは思えない程幼い。しかし、それでも逆らえない。私の方が練度が上でも、敵わないような底知れなさがある。
「100、数えました…。」
「そうか。なら上がるか?」
「ええ…そうします。」
顔が赤く、息が荒い。
「おい、大丈夫か?」
「む!大和はあなたの姉ですよ!大丈夫に決まってます!」
「…そうか。」
少し足元のおぼつかない姉はキッと胸を張り、自らを大きく見せようとしている。その姿が、確かに私のことを捉えたのを感じた。
「ふ…肩くらいならかそう。」
「…面目ないです。」