「霞!ちょっと助けて!」
「何よ曙。そんな血相変えて。何かあった?」
「何かも何も、ありすぎなの!いいから来て!」
グイグイと腕を引かれて、司令室から無理矢理連れ出される。あの曙がこんなになるなんていつもは考えられない。ただ事ではないということだけは容易に想像できる。
「早めに戻ってくださいね〜。」
呑気にそういう司令官がドアの奥に消え、そのままずんずんと廊下を進む。着いた場所は曙と加賀の部屋だった。
「加賀に何かあったの?」
「そうなんだけど…ああもう!説明するより見る方が早いわよ!」
投げ出されるような勢いで中へ入り、その様子を見る。加賀は辺りを見まわし、まるで何も知らないかの様なそぶりだった。
「あらあなた。赤城さんはどこかしら。それに、ここは一体どこなの?」
「ほら!すんごいおかしいの!」
「ちょっとそこのあなた、少しは静かにできないのかしら?」
想像以上におかしかった。あの加賀が曙に対して使う様な言葉遣いではない。それに、ここにいないはずの赤城のことを探しているらしい。
「…何かあったの?」
「何もないはずなのよ…。昨日はすぐ寝たし…あたしが朝風呂から帰った時からもうおかしかったの。」
状況を聞いても尚なぜそうなっているのかがわからない。
「取り敢えず瑞鶴のとこに連れて行きましょうか。」
「わかったわ。ねえ加賀、ちょっと着いてきて。」
「…そこに赤城さんが居るのね?」
「もうそれでいいわよ!」
「はえ〜。それでこんな感じになっちゃったと。」
「加賀さん…私たちのことも覚えていないですか?」
「わかるわよ?五航戦の二人でしょう。」
瑞鶴のことを名前で呼ばず、翔鶴姉妹を五航戦と呼ぶ辺り何らかの記憶の齟齬…それか、すっかり記憶が抜け落ちているのか…。いずれにせよ早めにどうにかしないと、今の曙は見ていられない。
「とにかく、どうにかして加賀のことを治さないと。」
「そうよね…でも何しても治らないのよ。無理矢理膝枕してもご飯たくさんあげても。」
「これは経過観察が必要かしらね…取り敢えず、あの二人に任せておきましょ。曙は、一旦落ち着かないと。」
「でも…」
「たまには曙も休憩しないとね。」
部屋の外へ曙の手を引いて連れ出す。顔色は悪いけれど、今は無理にでも休んでもらいたい。それに、一際長いこと一緒にいた艦娘なだけあって、こんなに弱々しい姿は見ていられない。
「で、加賀さん。本当に記憶喪失なの?」
「あら、いつそんなこと言ったのかしら?瑞鶴。」
「あり?」
「少し…揶揄ってみただけなのだけれど。」
「そ、そうだったんですか…。」
「しかし…曙のあの姿。流石に気分が昂揚します。」
「変なスイッチ入っちゃった。」
「ねえ瑞鶴、加賀さん大丈夫なのかしら。」
「ダメかもよ?ま、面白そうだし黙ってようよ。」
「流石ね瑞鶴。他のみんなには、私が記憶喪失のていでお願い。」
「皆さんを騙す様で少し気がのりませんけど…まぁ、お手伝いします。」
「って言っても翔鶴姉あんまり部屋でないじゃん。騙すも何もないんじゃないの?」
「では、私はこれで失礼するわ。」
「あ、加賀さんじゃあね。」
「加賀さん、あまり長引かせたりしてはいけませんよ?」
「わかっています。では。」