「と、言うわけですが、何か問題でもありますか?」
「うーん。それは流石にやりすぎじゃないかな。」
「曙が可哀想です。」
加賀さんは予想以上にやりすぎてるみたいで、加賀さん目線で話を聞いても、その曙の悲しむ背中が容易に想像できる。見た目以上に小さくか細かったに違いない…はず。
「今夜は普通に接しますよ。約束します。」
キッパリと言い放つ割に目の奥は未だに笑っていて、この状況が楽しくて仕方なさそうに見える。
「皆さん、曙ちゃんの様子がおかしいんですけど…。」
「青葉?どこからそれを?」
「カメラ…あいえ、先ほどお見かけしましたので。」
「今のは聞かなかったことにしましょう。」
しっかしまあ、相当参っていることだけは確かで、きっと今は机か布団か…何かしらに突っ伏している様な気がする。少なくとも泣いてしまっていることは確かだろうなぁ。
頭が割れそうなほどに痛い。こんなこと初めてだった。少なくとも加賀にあんなことを言われるとは到底考えもしなかった。クソ提督に無理言って取り寄せてもらった指輪が、今となっては何の価値もなく、同時に現状を嘲笑うかの様な挑発じみた光を反射する。さっきの霞の心配も無下にしてしまった。自己嫌悪に苛まれ、視界がうねる。髪留めの鈴が意味もなく鳴り、そしてそれがノイズとなって眠ることさえ叶わない。長く鬱陶しい髪も床に流れ、立ち上がることさえ億劫になる。
「加賀…」
無意識に口から発せられる言葉が自分を苦しめて、いよいよ終わる。そんなあたしを見下ろす空は快晴で、さんさんと日が降り注ぎ、絶好の散歩日和、もしくは演習日和。そのどちらもをあたし自身がやる気がないと言うのだけが問題だった。頭の中が加賀のことでいっぱいで、なのにそれが苦しくて仕方がなかった。今の加賀自身のことが、急に心配になった。居もしない赤城を求めて、どこかもわからない場所に居て、もしかしたら昔の記憶すらもなくしてしまったのかもしれないと思うと、途端に哀れに思えて、やはり涙がでた。
「Hey加賀ー!Tea timeネー!」
鍵を閉めていなかったことにより、金剛が無遠慮に入り込んでくる。しかし、目的の加賀がいないことが気がかりに思ったらしい。
「曙ー?加賀はどこデス?」
「知らない。帰って。」
顔を合わせる気にすらならないし、そのせいでまた気が沈む。
「私でよければお話し聞きマスヨ?」
ただならない何かを金剛なりに感じ取ったのだろう。けれど、それを相談する気もないし、無闇に話す気にもならない。でも、だからと言ってこれ以上追い返す気にもならないというもの。
「じゃあ髪解いてくれる?」
金剛は黙ってあたしの髪留めを取り外し、そしてそっと頭を撫でてくる。ゆったりとした動きが心地よくて、同時に罪悪感も残る。
「何でそこまでするのよ。」
「私はお姉ちゃんデスカラ。」
「ここにはあんたの妹は一人もいないわ。」
「だとしても、私は金剛型戦艦のname ship。金剛型戦艦一番艦の金剛デース。いついかなる時も、私はお姉ちゃんデス。」
「…そ。」
威張る様に胸を張って、同時にその姿が見たことのない綾波を思わせた。