「突然体調が悪くなるなんて、貴方らしくないですね。」
「うっさいわよ…仕方ないでしょ…」
突然のことで理解が未だにできていない。人生?艦生?まあいいや、生まれてから初めての熱中症は広い背中に担がれる形で経験した。自分ではよくわからないけれど、加賀が言うにはあたしは相当熱いらしく、最初はびっくりしたらしい。
暫く歩いてもらうと、ほんの少しだけマシになったらしい。視界が多少見やすくなり、呼吸も落ち着いてきた。ただそれでも怠さは変わらない。
「もうすぐですからあと少しだけ待っていてください。」
「悪いわね…。」
おそらく夕方と思われる太陽の沈み方がやけに記憶にこびりつきそうな今日も、いつかは忘れてしまうだろうと、無意味にそう考える。そうぼんやりしていると多少混乱する頭の中に突如として霞の姿が映る。かぶりをふって目を凝らすと、顔が涙でびしょびしょになった霞がこちらに向かって走っていた。
「か、霞?一体どうしたんですか?」
「そうよ、なんで急に…」
「様子、見に行った、時、二人とも、いなくて、でも、帰ってきてて…」
どうやら要らない心配をかけてしまったらしい。加賀に抱きつく霞が小さく見えて、なんとも言えない微妙な感覚に陥る。
「私たちは大丈夫ですから。ご心配なさらず。」
「霞ちゃんを慰めるのには苦労したわぁ〜。」
「せめて事前に報告するくらいはさ、してもいいんじゃない?」
「面目ないわ…。」
「なんでもいいから少し休ませて…しんどいから。」
そういうとまた霞がわっと泣き出して、奥の方から案の定クソ提督が飛び出して…と言う風に騒がしくなる。
「患部を冷やすといいみたいです。どうぞ。脇の下や首あたりにあてがってください。」
「んー…や、ありがとうなんだけどね、くっつくのやめて?」
「おっと失礼つい癖で。」
「習慣って怖いわね。」
「本当にその通りですよまったく。」
と、呑気な会話の最中に今朝からを少しだけ振り返ってみた。そりゃあ突然あんた誰って言われれば、誰でも驚くに違いない。けれど、改めて思えば加賀のいたずら心から始まったものだ。そして、それを馬鹿正直に言葉通り受け取ったあたしが実は悪いんじゃないか…と、これまたおかしなことを考える。実際そんなことはないはず。
「結局、ただ歩き回っただけでしたね。」
「あたしは懐かしいもん見れたから別にいいけどね。」
「…一体どこに行っていたんですか?」
この質問には、なんだか答えたくない。だから、わざとらしく顔を背け、その後に床にどんと寝そべる。こうすると、向こうは少し気になる様子で四つん這いになって近寄ってくる。
「ん…?近づいてきても別に教えないわよ。」
「別に…そんなつもりありません。」
口をムッとして、あたしの胸元に指先を一つ這わせる。くるくると回され、くすぐったくて思わず笑えてくる。なんだかとても平和的な空間にいる。今が戦争をしている真っ只中でると言うことすらも忘れてしまうような、そんな幸せな時間だった。