「なんだか今日はどっと疲れたわ。どっかの誰かのせいで。」
「いやぁほんと、誰でしょうねそんな人。」
「あんた以外いるか。霞にまで心配かけて、今日でこんなこと終わりにしてちょうだい。」
「理解したつもりです…。」
「曖昧な返事は嫌いよ。」
少ししおらしく項垂れ、しょんぼりと口を尖らせている加賀が見た目とは裏腹に幼く見える。今日の昼はあんなにも頼もしかったのに今は悲しいほどに弱々しい。それがまた面白い。
「む、なんですかその目は。」
「んー?別に、なんでもないわよ。」
「…そうですか。」
「んまあでも、あんたにとっては信じ難いことに恋人ってやつだからさ。あたしの特権よ。あんたの隣にいれるのは。」
「…そうですか。」
苦虫を噛み潰したような顔で、しかし目線はこちらを向いていて、やがてうずうずと身体を動かし始めた。そのサインは大方、抱きしめさせろと言うようなものだろうということは容易に察することができる。別に断る理由もなし、冷房もついているから別に暑すぎると言うわけでもない。
「な〜んか背中がさみしいのよねぇ。ま、あんたがいいなら、少し膝貸してよ。」
「ええ、構いません。あなた専用ですから。」
と言って、身体がふわりと浮かぶ。ぽすんとその空間に収まって、きゅうと抱きつかれる。不思議な温もりがあたしを包んで、なんとなく恥ずかしい。それと同時に安心感もある。ようやく元に戻ったような気がして、肩の力が一気に抜けてしまう。そして、遅れて加賀の香りがやってくる。風呂上がり独特のそれはしょっちゅう嗅いでいて、特段違いもない。至っていつも通りのものだった。
「曙は小さいですね。」
「そんなことないわよ。駆逐艦の標準。霞なんてあたしよりもも少し低いんだから。」
「そうではなく…まあいいです。」
頬擦りされたり、撫でられたり、向こうからも匂いを嗅がれたり。なんとなく犬に近しいものが感じられる。と、こうしているうちに外からぽつりぽつりと水滴の落ちる音が2、3度聞こえた。すると、あれよあれよと言う間に土砂降りになる。時間的にもそろそろ眠たい時間が、その音だけで妨害されてしまう。時に光ってはドンと大きな音が聞こえる。
「うわ、今の近いわね。」
「ががが鎧袖一触です。」
「何あんた雷怖いの?」
そう聞くとあからさまに身体が跳ね上がる。
「まさかそんなはずありませんからええそういった発言は如何なものかと思われます。」
「そこまで言っちゃ、もう自白してるようなもんね。」
そしてまた閃光が走る。腕に力が籠り、前後の圧迫が苦しい。いや、後ろはどちらかと言えば柔らかいけど…とにかく、一度離れてもらう。
「お願い、少し離して。」
「はい…。」
名残惜しそうな声と共に解放される。深呼吸をし、対面する。
「一緒の布団で寝る?」
「お願いします。」
「ん、じゃあ布団敷いて。」
「よろこんで。」
また、ドンとどこかに落ちる。すると加賀が飛び上がって、運びかけの布団が浮き上がり、やがて床に無造作に落ちる。