「うーん。今日もいい朝ですね。では今日も張り切っていきましょうか。」
「うんそうね。で?この荷物は何?大本営からって書いてあるわよ?」
「さあ、知りませんね。とりあえず開けてください。」
「嫌よ得体のしれない荷物なんて。何も聞いてないの?」
「聞く聞かない以前に…いや、言うよりも見る方が早いので早く開けてください。」
霞がこちらを形容し難い視線で見つめてくる。夏!艦娘!ここまで来ればある程度の提督なら察しがついてしまうのだ。提督になって初めての夏はそりゃあもう大変困惑した。なぜなら…
「わ、水着?こんなに?」
どこの誰かも知らない人間によって引き起こされる強制水着イベントである。当然霞にもある…のだが、いかんせん目のやり場に困る格好になる。他にも曙、大和etc…まあ1日限りとか、遊べるようにというような粋な計らいであれば特に反発する理由もないのだが、最も理解し難いのが今夏は常にこの服装が強いられると言うことである。なんでもこの期間中にこれ以外の服を身につけた艦娘は厳しい罰を受けるとか受けないとか信憑性の薄い噂まで広まる始末である。
「とりあえずその服に着替えて、あと、そこに書かれてるリストの娘に渡してきてあげてください。」
「え?今からなの?」
「はい。今です。」
「…今日だけ?」
「夏が終わるその日を首を長くして待っていてください。」
今度は助けを乞うような悲しそうな視線が痛い。こちらとしても正直これは心臓に悪いので即刻終わらせていただきたいと言うのが本音で、この催しに賛成するなんて言う馬鹿げた思考はしていないつもりだ。
「指輪はそのままでもいい?」
「それはいいですよ。ただ、寝る時と外出は普通の服装でも良いですが演習や鎮守府での事務作業などが基本全てその水着です。」
『カスミ』と記された紙が貼り付けられた袋を取り出し、中身を出す。エブルーグリーンの可愛らしいフリルの施された水着の肩紐を指先で摘みながら見せつけられる。
「結構気に入るデザインなのが腹立つわ…」
「…」
「何よ!」
「いえ別に…」
今年の夏はいつも以上に厳しいものになりそうだった。ジリジリとやってくる熱波と茹で上がる頭で部屋の温度が上がる。二回ほど深呼吸を行い、やがて少し駆け足で霞が司令室を出て、自室へ行こうとする。
「覗いたら怒るからね!」
「覗きませんし、なんなら後で自分からこの部屋にくるんですけど。」
「あ…と、とにかく!そこで待ってて!」
バタンと扉が閉じ、少し広い司令室で気分とジブンを落ち着ける。そうこう思案していると曙がなぜか入り込んでくる。
「またなんか変なことしてるの?」
「変ですが、大本営がしていることですから。私としてはこれは反対ですし。」
「?その箱がなんかあるわけ?」
「まあそうですけど…遅かれ早かれ現実を受け入れてもらうことにはなりますしね…見てもいいですよ。」
曙の腕が箱の中に伸び、ガサゴソと音を立てる。そして、それを理解した瞬間にわなわなと震え始める。
「クソ提督…これはどう言うこと?」
『アケボノ』と記された紙が貼られた袋が取り出され、恐ろしいまでの圧力を感じる。
「それはですね…」
「はい、着てきたけど…」
嫌なタイミングで霞が入室してきた。目を少し逸らしているのでちょうど曙が視界に入っていないようで、口を少し尖らせ、頬を紅く染めている。妙に色っぽく、大人びた水着と見た目とのギャップが凄まじい。
「…なんとなく理解したけど理解する気になりたくないわね。」
「あ、曙!?」
「ちょうどさっき入ってきたので…先に言えばよかったですね。」
「まあ、曙でも霞でも、どちらでもいいですからそこの水着を渡してきてください。所属している娘的にあまりないでしょうが。」
「…加賀のってある?」
「加賀は…残念ですが。」
「やる気無くしたわ。」
「買いに行けばよかったのでは?」
「そこまで頭回るわけないでしょこのクソ提督!」
この二人の他には大和、瑞鶴、扶桑姉妹くらいか。なぜか大和には常にキンキンに冷えたラムネが抱えられているが、それがなぜ冷え続けているのかはきっと一生かけても解けない謎である。
「全部で六人分とは、向こうもだいぶやる気ね。というか、これって何を基準に選んでるのかしら。」
「さあ。こればっかりは向こうの技術者に聞かないとわかりません。」
「特ダネの匂いがします!ども、青葉です!」
「「「あ。」」」
「…青葉、見ちゃいました。」
青葉から吊り下げられたカメラがかしゃりと小気味良い音をあげ、シャッターが切られる。そして、そのまま全員が無言で青葉を見つめたまま謎の時間が流れる。
「では…失礼しました〜。」
「待ちなさい青葉。」
「では!」
「あっこら!」
曙が凄まじいスピードで追う。霞は慌てながらも箱に水着を詰め直している。
「…一緒に配ります?」
「そうしてくれる?」
窓から入り込む日差しと熱が身体全体を満遍なく焦がし、肌面積の多い霞が暑そうに額を拭う。もちろんそこ以外にも汗をかくもので、首の辺りからもつうと流れる。そのまま胸を滑り、水着に汗が吸収される。
「…目に毒です。」
「どこ見てんのよ。」
「あなたです。」
「ばっ…ま、前をちゃんと見なさいな!」
「やけに騒がしいですね…あ!提督と霞さん!武蔵!武蔵!お茶の用意を!」
偶然通りかかった部屋の前が大和型の二人のところらしい。早速上がり込み、机を囲んで座り込む。
「で?どうして霞はそんな珍妙な格好でいるんだ?」
「そのことなんですよ。大和にも水着があります。どうぞ。」
「着ないとやばいらしいわ。」
「まあ、可愛い。早速着替えてきますね!」
るんるんと鼻歌混じりで別の部屋に向かう。
「なあ、流石にどうかと思うぞ?」
「ご自分の姿を今一度見直してみては?」