「ね、ね、加賀!これなんてどう?あんたにぴったり!」
「ありがとう曙。しかし、こんなに渡されても一度に着れる水着は一つだけよ。」
「バカねぇ。色々目星つけていいのを選べばいいじゃない!」
自分のものでもないのにこれほどはしゃげる彼女が眩しい。そして、そのせいか、はたまたやかましいせいか、店内の客がこちらを度々振り返る。そして、続々とカラフルな水着が私の手に渡される。
「曙、そろそろ…」
「ああ、そうね。一旦試着よね。ほら、そこにあるから行ってらっしゃい。」
「あの、そうではなく…いや、そうなんですが…」
「もー!つべこべ言わない!ほら、早く行った!」
「えっ、は、はい。」
流されるまま試着室に入り、よくわからないうちに、何枚か着ることに。適当に何着か着て、曙に選ばせればきっと満足するだろう。しかし、まあ曙も案外趣味がいい。私の弓道着と同じ青色を選んでいるあたり、私は彼女にとって青が最も似合うと思ってもらえているのだろう。
「しかし…これは…」
「どう加賀。着れた?」
「着れましたけど…その…似合っていませんし…」
「いいから見せなさいよ。」
冷房の効いた店内が暑く感じるほどに緊張して、カーテンを開けるのを躊躇う。モタモタしているとそのうち向こうから開けられてしまうかもしれない。せめてそれは阻止したいので、意を決して開ける。
「ほぉ…」
「あの…あまり見ないでいただけると…」
紐で固定するタイプの胸当てと、下着のように履いただけの下半身。屋外でこんな格好をすること自体があり得ないので、落ち着かない。
「曙…何か言ってもらえると…」
「こりゃ目に毒だわ。少しまってて。いいの見繕ってくる。」
そう言うと、今来ている物以外を全て持って出ていってしまった。何が起きたのかもわからないのにどんどん進んでいく。取り敢えず、開けっぱなしのカーテンを閉める。なんとなく首筋あたりが特に冷たい空気があたる。
「どうかな翔鶴姉!これとか似合うよ!」
「えっとぉ…瑞鶴?私、こういうのは自分で選びたいかなぁ…なんて。」
「…そお?」
上目遣い気味に見つめられると、少し弱くて、なんとなくこの子の言うことを聞いてしまいそうになる。けれど、やっぱり自分で選びたいもの。せっかくの瑞鶴との夏なんだもの。いつまでも引っ張ってもらってばっかりはダメだわ!
「荒潮のことを見てあげて?きっとあの子も悩んであるはずだから。」
「んー…それもそっか。じゃあ翔鶴姉、またあとでね!」
さて、そうは言ったけど、何がいいか、なんて私にはわからない。けれど、白色がなんとなく好き。だから、ベースは白色が好ましい。それでいて、あまり主張しないおとなしめのもの。適当に見ていると、既視感のある水着が見えて、それはまるで潜水艦の子たちが着るような上下一体のもの。少し違うのが、背中側がぱっくりと空いているところ。これのイメージ画像には、合わせて腰にタオル?のような布を巻いていて、それがすごく魅力的に見えた。
「や、荒潮。調子どう?いいのあった?」
「あらあらナンパかしら〜。どうしましょう。」
「違う違うそんなんじゃないよ。一緒に選びに来たの。」
「そうだったのねぇ。お姉さんのことはいいの〜?」
こっちには目もくれずに水着を手に取って吟味しているのは、嫌われているからなんかじゃなくてきっと楽しみだからに違いない。うん。きっとそうだよね。
「えっと…霞とお揃いなんてどうかな。」
「霞ちゃんのは〜支給品ですから〜。あれ、オーダーメイドみたいな物よぉ?」
そうなんだ…全然知らなかったや。まあ、確かになんとなくだけど似ている水着はちらほらあった。でも、完全に一致しているものは決してなかった。私のにも似てるのはあったけど、全く同じものはなかったから、向こうの偉い人たちの趣味なのかも。
「じゃあ、ガラッと変えてみるのは?今の荒潮にない感じのアプローチしてみようよ。」
「それって…どう言うのかしらぁ。」
まあ、ぶっちゃけると大して考えてなかったから、こうして聞き返されると難しい。今の荒潮は…大人っぽい妖しい雰囲気があるよねぇ。でも、体型っていうか、身体の作りは小さな女の子だし…あんまり攻めすぎるとかえっておかしくなっちゃいそう。じゃあ、いっそのこと可愛い系で行ってみる?
「…難しいな。」
「でしょ〜?でもぉ…私って、こう言うの、似合いそうじゃないかしらぁ。」
手に持っているのは、桃色で全身にフリルがついてて…なんとなく霞のに似てる。けど、下はフリルが結構長くて、スカートに近い。ただ、スカートと決定的に違うのが、左の方は短いのに右の方が長い。試着しているところは見ていないけど、これなら荒潮の魅力ってやつを引き出せそうな気がする。
「荒潮、すごいセンスいいね。それ、一回試着してみたら?」
「あら、ありがとう。じゃあ、行ってくるわぁ。」
スキップ混じりに試着室に向かう後ろ姿は見た目相応の女の子、としか言いようがない。
「すごいな荒潮…」