行為後に霞があそこまで取り乱すとは思わなかった。それほどに彼女の中の何かが攻撃的な発言を…取り分け私にはしたく無いということの表れなのだろう。私個人としては久しぶりに霞からの罵倒を受けたことに変に興奮してしまったのが悪かったとしか言えない。霞はすでに泣き疲れて眠ってしまっているが、それでも時折うなされたように眉を顰めることがある。
「んぅ…う…しれ…」
寝言らしいが、夢にまで私が出るというのは喜んでも良いのだろうか。現状霞は私のせいでこうなっている。端正な顔立ちが涙に濡れる。身体を捻り、苦しむ姿は見ていられない。
「や…いっちゃ…だめ…ごめ…なさ…」
「どこにも行きませんから…」
届くことのなさそうな言葉を告げ、彼女の頬の涙を拭う。すると頬擦りをして、こちらの手の温かさを感じるような仕草を見せる。それがあまりに可愛らしく、しかし口にはできないのがもどかしい。しかし、こんな時にこんなことを思うのは歪んでいるだろう。
「ん…しれ…」
何度も呼ばれる。彼女の顔から皺が消え、次第に穏やかな寝息になっていく。少しでも落ち着けばそれでいい。近くにいて、頬を撫でるだけで彼女の不安が消え去るならそれで。ぐっと抱き寄せ、互いが熱を持つのも考えずに密着する。
「んむ…すぅ…」
寝巻きが握られ、離れられそうに無い。
「っう…や…だめ…だめぇ…!」
いつの間にか眠っていたようで、霞の苦しそうな言葉で目が覚める。様子を見ると、脂汗を大量に出して、呼吸が乱れている。ただごとではない。
「霞!霞!」
肩を揺らし、呼びかける。瞼が小刻みに揺れ、目を開く。すると、再び涙を流し、私のことを強く抱きしめる。
「何か…ありましたか?」
「司令官、がぁ、いなくなっちゃう、夢、みて…」
弱々しくそう呟く。強く抱かれ、少しばかり苦しいが、しかしその程度である。
「悪いことをしました。もう、あなたに強要しませんから。」
「違う、違うぅ、私、が、悪いの…」
嫌な予感がする。聞きたく無い言葉が、彼女の口から出てきそうで、しかし身体は最後まで紡がれるのを待とうとする。
「私、が、霞だから、」
「…」
「悪口、言うような、娘だから、ダメなの…」
「…私は、あなただからいいのですけど。」
「別の、所の、私、が、司令官のこと、クズって言ってて、悲しくって、でも、それ、あの娘たちの、なかじゃ、当たり前で、」
どんどんと霞の胸に秘められていた言葉が溢れ出す。頭の片隅にいつもあったのだろうか。私としては当たり前すぎて気づいていなかったが、彼女からすれば同じ霞という艦娘が自分と全く同じ姿で、信じ難い言動をとっていたことが衝撃的すぎたのだろうと思う。
「私は、それでも嫌いませんし、あなたが言葉遣いで悩んだとしても、あなたが他の霞を見て何を思い、自己嫌悪しても、私はあなたを愛していますから。」
私に言えることはこれしかなかった。彼女を落ち着けさせられるような言葉が思い浮かばない。兼ねてから優しい娘だとは思っていたが、まさか自分が気に病むほどとは思えなかった。彼女は何も言わず、黙って私の胸に顔を埋める。そして顔を上げ、上目遣いで顔を覗き込まれる。
「私、あなたの、隣に、いて、いい?」
自分の存在意義を聞こうとする悲しい質問だった。
「もちろん。あなた専用ですから。」
「…ありがと…」
またポロポロ涙を流し、声を押し殺しながら泣く。頭を撫でることしか私にはできない。自らの手で抱きしめることが不可能な身体を恨めしく思う。愛した女性を抱くことすら叶わない肉体が憎くてたまらない。