耳鳴りがするほどの爆発音を皮切りに一斉に艦娘が乗り込んでくる。運動場で仁王立ちする自分を狙って軍曹お気に入りの艦娘達が容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「思ったより数が多い…!」
「さっさと終わらせちゃうわよ!」
暁らをはじめ駆逐艦娘が勢揃いで襲ってくる姿はまさに兵器としか表せられなかった。艦娘といえど傷をつけるのは気が引けるので、あくまで近づかさせないような戦い方でなければいけない。
「電の本気を見るのです!」
周囲の雑音に塗れる中で、その一言がやけにはっきりと聞こえた。直後、先ほどまではなんともなかった訓練用の弾丸が体に重い一撃を与えた。電の手を注視すると、左手薬指にケッコン指輪らしきものがはめられている。
「少し失礼!」
この中の最高戦力らしい電を左腕で捕まえ、無力化する。同時に艦娘達の攻撃の手が若干緩んだ。
「電放しなさいよ!」
「…まずい。」
雷や響らが明らかに動揺し、ダメージを与えるよりも電奪還の為動き始めた。
「これなら幾分かはやりやすくなったかな。」
突然、放送がなり、
「桐原、聞こえているかな?貴様がこちらの終了の合図を出すまで逃げ続ければそちらの勝利だ。頑張ってくれたまえよ。」
まずい…。先輩は自分の名前を過度に嫌っている為、自分の名前を他人に教えたり言いふらされたりすることを極度に嫌い、うっかり話してしまった時は歯が立たないほどの強さで襲われてしまった。
「暴走だけはしないでくださいよ。先輩。」
「待ってください提督さん!そんなことしても意味ないです!今は隠れておきましょうよ!」
「止めないでください間宮さん。あいつだけは…!」
怨念のこもった目で軍曹さんを目的にするその姿は先ほどの華麗な女性のような出立ちからは考えられないほどの変わりようだった。
「なっなんで怒ってるんです!?」
「私の名前を堂々と公言しやがったからですよ。それ以外ないでしょう。」
「そんな!いい名前だと思いますよ!」
「ほら、桐原って…」
「次その発言をしたら解体送りです。」
「ひっ!」
結局抑えることができず、どこかへ走り去っていく背中を見つめることしかできなかった。
放送が可能な部屋を片っ端から開け、例のジジイを探す。見つければ容赦せず確実に地獄行きにさせる。そう考えていると、前から必死の形相で向かってくる霞が目に入った。遅れて曙もついていく。
「ちょっと司令官!隠れときなさいよ!」
「何やってんのクソ提督!?」
「む、ターゲット発見です!MVPは榛名で決まりです!桐原提督!恨みはないですがお覚悟!」
解体送り追加。とりあえず勢いに乗って飛び蹴りをかますと、頭にちょうど当たったのか目をちかちかさせて倒れた。
「霞。これを解体所に持ってってください。ああそうだ。あなた達も私の名前を呼べば解体しますよ。」
いつもの笑顔から放たれる悪魔のような一言は恐怖させるに十分なものだった。とりあえず榛名は伸びているうちに適当な部屋に放り込んでおいた。
「軍曹殿。送り込んだ駆逐艦らは柳田と交戦中。電が捕まりましたが、外傷はありません。桐原は、狂ったような動きで榛名を仕留めました。」
『そうかそうか。電が重要だということは彼にもわかるんだな。ところで、なぜそんな動きを彼はしたのだろうか。』
「怒りか、それともただ気が狂ったのか、定かではありませんが、館内放送後にこうなったようです。そういえば、彼の名を初めて耳にしましたが。」
『ああ。私も調べるまではわからなかったよ。なぜ彼の名を知らなかったのかは不思議なほどだ。異動名令を出すのにも名前は必要だったんだが、その時は特例扱いにしたからな。』
「…それなのでは?」
『というと?』
「おそらくですが、彼は自らの名前をひどく嫌っているか、もしくは誰かに知られたくない、とか。」
『考えられるな。しかし、それはもう過ぎたことだ。君らの仕事は少ないとはいえ偵察はしてもらうからな。頑張ってくれたまえよ。』
「了解。」