※この作品はR-18です。

【艦これ二次創作】辺境鎮守府   作:スイっぴ

190 / 263
食

椅子から降り、給湯室に向かう。その際霞を代わりに椅子に座らせたはずだったが、いつの間にか後ろをついてきていた。上着を両手で押さえ、少し駆け足気味に、不安気な顔だった。口をきゅっと閉じ、目元を潤ませ、必死に追いかける彼女の姿が自分の中にある何かをチクリチクリと刺激する。

「どうしました?すぐ戻りますが。」

振り返ってそう告げると、ばつが悪そうにうつむく。肩が揺れ始め、すすり泣く声が聞こえる。

「あなたの、近くにいたいの…」

涙を流し、こちらを見つめる。

「悪いわけではありませんよ。…では、一緒に何か作ります?」

義手を装着し、誘ってみる。ゆっくり顔を上げ、それからしっかりと頷く。髪を纏め、適当に冷蔵庫を開けてみる。補充はほぼしないので食材もやはりない。しかし、米は炊けばある。それでもまあまあ時間はかかってしまうのだが。棚やらをひっくり返して探しても特に何もない。

「何もありませんね。」

「別にあんまり気にしなくても…」

霞が何か言おうとした瞬間にきゅるるとかわいらしい音が響く。恥ずかしそうに赤面し、耳まで赤くなる。

「間宮さんのところで何かいただきに行きますか?」

「うん…」

 

「間宮さん。今よろしいでしょうか。」

「ええ、いいですけど…」

「霞に何か食べさせてもらうことはできますかね?」

「ああ、そういうことでしたか。もちろんです!大したものはできませんが、待っていてください!伊良湖ちゃ~ん!」

奥の方に元気よくはけていく。ここは飲み物に関しては自分で用意することになっているので、適当なコップにお茶を汲み、二つ運ぶ。厨房から忙しなくガチャガチャと雑音が聞こえる。空腹によるものなのか待ちきれなさそうにソワソワする霞を見ながら一杯飲み、それから一度頭を撫でてみる。

「ひゃ、」

短い悲鳴が飛び出し、彼女の背筋が少し張る。しかしその後は表情が柔らかくなり、ふにゃりとしなだれる。惚けた顔でこちらに身体を預け、幸せそうに目を閉じる。その内手を掴まれ、頬に運ばれる。無言で、しかしはっきりと訴えてくる。親指で撫でてやると喉からふにゅと言葉にならない声が漏れる。手を重ね、頬擦りをし、じっくりと堪能される。

「もうすぐできると思いますよ。」

厨房からの音が少しまばらになったのを聞き、そう伝える。すると霞は少し嫌そうに手を離す。それからあまり時間も経たずに運ばれる。それは我々の朝食に比べればだいぶ簡単なものだった。おにぎり二つに沢庵が少量。それ以外はない。

「ごめんなさいね。今から新しくお料理は作れないの。だから、余りものでもいいかしら。」

少し困り眉で不安そうに霞を伺う。

「いえ…ありがたくいただくわ。」

にこりと間宮さんが笑い、お盆を抱えて再び厨房へ姿を消す。…そう、後から聞いた話ではあるが、騒音の正体は害虫に伊良湖が驚いたのを間宮さんが宥めていたかららしい。

「ん、おいしい。」

一口分おにぎりを頬張ってから沢庵を一つ食べ、の繰り返しだ。まあその一口が小さいのなんの。しっかりじっくり味わってから飲み込み、一杯お茶をくいと飲む。そしてまたおにぎりを口に運び、沢庵を一つ放り込む。このサイクルだけでもいくらでも見ていられる。食べるだけのことがあまりに一生懸命に行われていて、見るだけで感心するほどだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。