「霞、寝ちゃったね。」
「そうね。それにしても随分可愛い寝顔だこと。」
「提督さんはこの顔をいつも独り占めしてるって考えたら許せないよね〜。」
暫く抱いていたら霞の目が垂れているのが見えて、面白くてついつい身体を揺らしたり背中を優しく叩いたりしていて、それが案外よかったらしい。にしても、本当に心地良さそうな寝顔。
「流石にそこまでは…」
と、翔鶴姉が言おうとした瞬間に扉が開いて、曙と、少し遅れて加賀さんが今度は静かに、かつ慎重に入り込んでくる。
「ん、二人とも悪いわね、面倒見させて。」
「お茶を持ってきましたが…霞はまだいらなさそうですね。」
「うん。もうぐっすりだよ。暫くは起きないね。」
「曙、提督がどこに行ったのか、知ってる?」
「さあね、舞鶴に行くとしか聞かされてないわ。」
「更に言えば、なぜ霞を置いていったのか…という問題もあります。」
その事実に、みんなが一斉に頭を抱える。
「…本当になんでかしら。」
「まさかとは思うけどじ…」
「それはないわ。」
曙が、そうきっぱりと言い張る。実は行き先は嘘で、最悪なことでもしにいったのかと思ってしまった。
「ん…」
「うお!?っとっと…」
霞が目を覚まして、寝ぼけながら私の方に抱きついてくる。どうすればいいのかわからなくて、咄嗟に私も抱きつく。
「ん…しれーかん…」
やっぱりというかなんというか、提督さんと私を間違えているらしい。顔を擦り付けて、気持ちよさそうに喉から声が搾り出される。
「いやあ申し訳ないですね。ただ今戻りました。」
「あぇ?しれーかん…?ん…」
やっと帰ってきた本物にみんな、勿論私も目が釘付けで、霞本人は向こうにもハグをねだっている。
「はいはい。私が本物ですよ〜。」
軽々と持ち上げ、しっかり抱き締める。霞の方はよくわからないけど満足そうには見えた。
「提督。舞鶴まで何を?」
翔鶴姉がそう聞いて、みんなも少し身を乗り出す。あぁ、と顔を上に向け、思い出すようにじっくり目を閉じる。
「本当に知りたいですか?」
「もったいぶらず早く教えてくれないかしら。」
物足りなさそうな顔で少しの間を置いてからやがて口を開く。
「別に何もありませんよ。仕事ですから。誰も連れて行かなかったのは単純にその必要がなかっただけですし、みなさん忙しそうでしたからね。」
「別に言ってくれれば…それに霞を起こしてもよかったんじゃないの?」
「そんなそんな、とんでもない。」
あの霞狂いの提督さんがこうも様子がおかしくなるあたり変に勘繰ってしまう。
「何かやましいことでもあるんじゃないの?」
曙が鋭く意見する。腕に抱かれた霞が一つ欠伸をして、眠そうに肩の方に頭を置く。その様子を確認した提督さんがその場に腰を下ろした。
「言えばどくよ?」
「いえ。このままで結構。何やら著しく誤解されているようですから。」
まあ、本当に仕事の用しかなかったらしい。と言うか、どちらかと言うと呼び立てられたらしく、できれば一人で来て欲しいと言われたらしい。突破できない海域の助言を頼まれてついつい長引いてしまったらしい。艦娘を連れて行かなかった理由は向こうの母数があまりに多すぎるので逸れてしまわないように、ということらしい。
「心配して損したよ。次からは最初から言いなよ?」
「善処します。」
「霞に愛想尽かされたくなかったらもっと真面目に返事しなさいクソ。」
「提督すらつけてくれないんですか…。」
一件落着ということで、なんだか和やかな雰囲気が漂う。
「そういえば、霞はなぜこんなに眠るのが好きなんでしょうか。」
「霞はそんなに眠っているんですか?提督。」
「ええ。夜はぐっすりですし、昼も定期的に眠っていますよ。」
「一応聞くけどどこで?」
無言で自分の膝の上を指され、少しイラッと来たのは内緒にしておく。
「よくそんなに眠れるわね。」
「私も長いこと一緒にいますがそれに関しては不思議としか言えません。今度本人に聞いてみるとしますかね。」
暇なので人差し指で霞の頬を突いてみる。すると、「うにゅ」と鳴いて、眉間に皺がよる。少し面白くて、今度は耳朶を揉んでみる。
「ん…」
「え?」
ただくすぐったがっただけかと思ったけれど、それにしては不自然に顔が赤くなって、おまけに少し息づかいも粗めになる。もう少し揉んでみようと身を乗り出すと、提督さんの拳が頭に激突した。
「あだぁ!?」
「眠っている子で遊ぶんじゃありません。」
「余計なことしちゃダメよ瑞鶴。」
「…あたし帰るわ。」
「待ってください曙。」
「ん…うぅ…」
霞は再び息を整えて、ゆっくりと眠る。
「何さ何さ。ちょっと反応が面白かっただけじゃない。」
「霞は耳が弱いんです。」
「?そんなのどこで…」
ここまで言いかけた翔鶴姉がボフッと顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに司令室を飛び出していった。
「あなたの姉は随分慌ただしいですね。」
「恥ずかしがりなだけだよ。」
微妙な時間が過ぎて、提督さんが少し意地の悪い顔をこちらに向ける。
「もう少し、『面白い反応』見たいですか?」
「え、うん。」
答えを聞いた瞬間に今度は提督さんが霞の耳朶を揉む。ねっとりと絡みつくようなそれのせいか霞の顔が赤く、呼吸が乱れる。
「随分開発したみたいだね。」
「いえ?霞は敏感なんですよ。」
ゆっくり頬を撫でると、眠ったままで掌に頬擦りしているのも見せてもらった。
「これは…すごくえっ」
「はい、帰った帰った。」
「あっちょ、待ってよ!ごめんてば!」
霞を抱えたまま器用に背中を押され、部屋の外に追い出される。仕方がないから翔鶴姉を揶揄いに行こう。