「演習なら今日はしなくてもいいわよ。」
「そうなの?でも加賀の…」
「弓の練習を本格的にしたいとかでさ。五航戦には負けられないとかなんとかで。」
あの加賀にも随分向上心があるらしい。ライバルとなり得る正規空母の存在は思いの外大きいようだった。
「じゃあ私もそれ見てみようかしら。」
「え?クソ提督はいいの?」
「今日はいいの。」
「珍しいこともあるのね。明日は槍だわ。」
曙の少々失礼な言葉に少し引っかかるところがある。別に四六時中べったりなわけではないと思う。昨日なんて体感半日は離れていたし、むしろこの暑さのせいでひっつくなんて余計に難しい。それに水着でいるせいで彼から触れられる地肌面積が広くなって恥ずかしいというのもある。とにかく、どんな時でもずっとくっついているなんてことはない。
「む、霞。」
「長門…どうかしたの?」
「いや…時間があれば演習を頼みたくてな。武蔵が言うには霞一人でもある程度の艦隊には勝ててしまうらしいじゃないか。」
長門の目には疑いと期待が混じり合うようなそんなものが秘められている。
「いいわよ。この艦隊の戦力を把握しておくのも秘書艦の役目だもの。」
「胸を借りるつもりで行こうか!」
と、言うわけで司令官に一言伝え、いつもの演習のための区間へ向かう。まあ、それほど厳密なものでもないし、それどころかだいぶ曖昧なものではある。でも、ある程度の線引きをすることで少しは戦略の立て方も身につくという言い訳。
「じゃあ始めるわよ。準備はいいわね?」
「もちろんだ。いつでも来い!」
無線から長門の声とキンと音割れが聞こえて、観戦の武蔵による主砲の空砲で始まりの合図とする。まず対空電探に幾つかの反応が見える。長門の扱える装備としては水偵以外にはないだろう。こちらを監視し、命中制度を上げるつもりらしい。とは言っても私の射程距離と長門の射程距離では雲泥の差がある。まずは近づくところから。
「っと、危ないわね。」
私のすぐ横にばっと水飛沫が上がる。演習用の弾が丁度掠めて海に落ちる。最低限の動きで被弾を減らせばその分の体力は温存できる。それに、長門は装填にそこそこの時間を要する。だから、この間に距離を詰めるのが一番丸い。副砲は主砲とは違いばら撒くような弾幕で、当たってもそれほどではない。まあ、それでも当たるのは癪なので避けるのに徹するけれど。
「なるほど…案外、的外れでもないのかもしれないな。確かに強い。」
主砲も、副砲も、水偵によって命中制度は上がっているはずだが、全てを紙一重で避けられる。ヒラヒラと舞い、そしてなおこちらからは目を離さない。練度の差と言ってしまえばそこまでだが、それではあまりに淡白すぎる。ただでやられても陸奥に見せる顔がない。ここには居ないが、そう思っておかないと軽く捻られそうな気がしてならない。
「はい、これで一本ね。」
突然背後から声がして、そこには霞が何食わぬ顔で、しかも退屈そうに見ていた。
「…一体どこから来た?」
「説明が面倒だから手短に言うけど、単純よ。海の中を突っ走って来たの。ちなみに曙考案だから、くれぐれも私の技術だと思わないことね。」
「ああ…理解した。」
「じゃあもういいかしら。」
「すまなかったな。わざわざ呼び止めたのにこの程度で終わってしまって。」
「別にいいわよ。そんなに気にしないで。」