金剛にお茶を誘われたはいいものの、紅茶というものがよくわからない。後輩司令官の金剛からよくもらっていたけれど、扱い方はよくわからなかったし全て間宮さんに渡していたから、口にしたこともない。
「ドーデスカ?なかなか美味しいデショ?」
「ん…そうね。」
対面に座る金剛の飲み方は上品というか、一気に飲み干すということはしていなくて、初めて見るようなお菓子を口に運びつつ、カップの乗った小皿を持ち上げながら音を立てずに飲む。勝手がわからないのでそれを見よう見まねでやってみる。
「霞はテートクとはどうなんデス?」
「司令官と?どうして?」
「イエ…ケッコンしているらしいので少し気になったダケデス。」
改めて振り返ってみると、大分感情を表に出すようになったと思う。ケッコン前というか、改装前はまだ司令官への想いには気づかなかったし、どちらかというと一歩引いていたような感じだった気もする。
「別に普通よ?ただ、頭の中にあの人が絶対に残ってるくらいなもので…」
「ソウデスカ。フムウ…まあ、可能性がないわけではないデスカラネ。私も頑張りマス!」
「?そう。応援してるわ。」
「Wow!霞からそう言われるとは思いませんデシタ!ありがとうございマス!」
あのように上品に紅茶を飲んでいたとは想いない荒れっぷりに少し気圧される。しかし、結婚願望が金剛にあるとは思わなかった。ここからはあまり出ないから出会いがあるわけではないと思うけれど、一体どうするつもりなんだろうか。
「金剛。来たわよ。あら、今日は霞もいるのね。」
「エエ。丁度一人だったので誘ってみまシタ!」
「じっくり話すのは初めてね。改めてよろしく伊勢。」
「ええ。こちらこそよろしく。」
丸い机を三人で囲む。伊勢も慣れているのか紅茶の飲み方が金剛に似て上品だった。
「あら、紅茶が切れちゃったわね。」
「Oh…新しく淹れてキマス。」
金剛の履いたスリッパの音がキッチンへ消える。あまり話したことがない伊勢と二人きりというのは少し気まずくて、口数が減る。お菓子を摘む感覚も早く、焦っているのか汗もかく。
「ねえ霞。」
「あ、えっと、何かしら。」
急に声をかけられて少し驚く。妙に緊張してしまう。私のことをまじまじと見て頬杖をつきながら口を開く。
「あんまり緊張して飲まなくてもいいのよ?自然体で飲む方が美味しいわ。」
どうやら見抜かれていたようで、クスクスと笑いながら言われる。
「なんでわかったの?」
「そうねぇ、雰囲気かしら。どうにかして完璧にしようとしてるように見えたの。無理に金剛の真似しなくたっていいのよ。」
全てお見通しのようで、私の頭に手が伸びて静かに撫でられる。じっくり伊勢のことを見てみると、確かに姉らしく包み込むような包容力と力強さ、それに余裕もある。
「…ありがと。」
「いいのよ別に。私だって最初はよくわからなかったもの。長門なんてすぐにティーカップ割っちゃったりなんかしてね。あれは大変だったわ。」
しみじみ語られる話には引き込まれるものがあり、いつしか体も緊張が解けてようやく紅茶本来の美味しさというものが味わえた。
「あぁ、そうそう。あなたのお姉ちゃん…荒潮だったかしら。がね?最近演習に力を入れたいって言ってるの。なんでもあなたが心配だからって言ってたわ。」
「そうなの?んー…でもそれは曙に相談してもらった方がいいわね。」
「ん、了解よ。私からあの子に伝えておくわ。」
パチリと短くウィンクする。和やかな雰囲気のおかげでその遊び心が生まれたのだろう。
「そういえばあなたウィンクできるの?」
「そ、そんなのできるに決まってるわ!」
変に焚き付けられたような発言に少し怒って、一呼吸置いてからウィンクしてみせる。すると伊勢の姿が一瞬消えて、再び戻った頃には口元に手を当てながら小刻みに震えていた。
「…大丈夫?」
「ええ…ごめんなさい。少し取り乱しただけなのよ。」
様子のおかしい伊勢にもう一度ウィンクしてみせる。すると今度は更におかしくなって、自分の身体が持ち上がるほどののけぞりを見せた。少し面白い。
「あなた…それ後で提督にして来たら?きっとイチコロよ?」
「なんで司令官がでるの?」
「いえ…なんとなく、よ。」
「Hey二人トモー!紅茶ができたヨー!」
伊勢が鼻頭を押さえている間に金剛が颯爽と入り込んでくる。そして、ほとほとと音を立てながらそれぞれのティーカップに注ぐ。大分熱いらしく湯気が一つ上がる。
「トコロデ私のいないところで随分楽しそうなお話をしていたヨウデスネ。一体なんだったんデスカ?」
「んー…内緒、かしらね。」
「そうね。内緒。その場にいなかったのが悪いわ。」
「次から呼ばないでおきまショウカ…」
「どうせ次の頃には一人じゃ寂しくって私たちのこと誘ってくれるわよ?」
伊勢が楽しそうに笑い、金剛は悔しそうに唸る。私としては呼んでも呼ばなくてもどちらでもいい。まあ、今回ばかりは誘いに乗ってもよかったかとはおもうけれど。