今日は色々な娘とよく出会う。曙から長門、伊勢に金剛。次は誰に会うかが少し楽しみでもある。丁度廊下の曲がり角のあたりで話し声も聞こえるし、とりあえずそこまで行ってみる。
「…!」
「〜…?」
揉めているのか少し騒々しい。自然と早歩きになり、そのうち走り出していたことに気づく。もう後すぐで原因と鉢合わせる。と思ったら全く同じ顔をした女性がこちらに飛び込んでくる。その内の一人と頭が勢いよくぶつかり、ヒリヒリと痛む。
「あー…えっと…山城?何があったのよ。」
「あ、霞だったのね…って、そうじゃないわ!は、早くあれなんとかしてちょうだい!」
「あれ…?あれって一体…」
私の目線の先にはなぜか黒猫が居て、こちらを見ながら逃げるでもなければ近づいてくることもないそれと数秒間見つめ合う。
「は、はやく!いいから逃してちょうだい!」
「何が何だかさっぱりわからないわ…。」
まあ、猫がいるとなれば山城たち以上に取り乱すであろう人間を知っているので、言われずとも早めに捕まえる必要がある。猫の方は私が近づいても逃げるなんてことはなく、大人しく腕の中に収まる。
「あんまり逃げなくてもいいんじゃないの?」
「だめなのよ…黒猫に横切られると不幸になるのよ…?これ以上の不幸は御免だわ…。」
「…そう。」
山城たちを後にし、黒猫を玄関まで連れて行く。とりあえず外に出して仕舞えばいい話で、逃げる必要なんてない。むしろこんなにおとなしいのになぜあんなにも逃げるのかがわからない。
「か…霞…?その腕の中にいるものは…?」
「あぁ司令官。さっき山城たちに…あ。」
丁度。本当に素晴らしいタイミングで都合よく出会う。ウミネコの鳴き声にすら驚き背筋が伸びる彼にとってはおそらくもっとも理解し難い光景に映るはずだ。なんて言ったって猫嫌いを知っているはずの私が猫を抱えているのだから。それも鎮守府の中で。
「と、とりあえず逃すだけだから!勝手に入り込んでたの!」
「…少し疲れているようですね。一旦部屋に戻ります。」
そう言って彼は震える肩と脂汗で滲んだ額を拭いながら弱々しく去っていった。腕の中の猫はフンと鼻を鳴らし、私の腕の中で丸くなる。どうしていいかがわからないけれど、今のうちなら抵抗はされずに追い出すことができると思う。
玄関からすぐの地面は熱そうなので大きめの木の影に寝かせる。今日は程よく風が吹いて木陰が心地よい。しかし私が居ない今の司令官はきっとおかしな行動を取るであろう気がしてならない。けれど、今だけは少しこの木陰の下でゆっくりしたい。
「あなたはどうしてここに来たの?」
得られるはずのない質問の回答にに猫は欠伸で返す。その仕草がなんだか可愛くて自然に口角が上がる。顎のあたりを撫でるとゴロゴロと喉を鳴らして、一際心地良さそうにする。
「あの人はあなたが嫌いなの。だからここには来ちゃダメよ。」
小さくニャアと鳴いて、私の手を舌で舐める。ざらついた舌の感覚がくすぐったい。こうも魅力的な動きをされるせいでこの猫から目を離せない。さぁっと風が吹いて猫の耳が揺れる。全身の汗が空気に触れ、体温が下がるのを感じる。
「じゃあ私はもう行くわ。あなたも早いうちに戻った方がいいわよ。」
今にも眠りそうな猫に別れを告げ、急ぎ足で司令官の元へ向かう。と、その前に山城たちに報告しないと。あの廊下にはもう姿はなくて、代わりに山城の部屋から複数人の声が聞こえる。
「ねえ山城。あの猫だけど…」
「姉様、く、黒猫が…」
「慌てないで山城。横切られたってどうもしないわ。」
「あの…もう…」
「でも…姉様に何かあったら…」
「私、どうしたらいいか…」
「艦娘はそう簡単に沈まないわ。だからあまり気にしなくてもいいのよ?」
私の姿は山城には見えていないらしい。扶桑は私の方をチラリと見て、ありがとうというような視線が向けられる。まあ、これ以上長居することもないと思うので、気持ち優しめに扉を閉める。