「あ、青葉、み、みちゃちゃちゃ」
「一旦落ち着いたらどうだ?一体どうしたと言うんだ。」
武蔵さんに言われて、深呼吸します。吸って吐いて、吸って吐いて。気分が少しだけ落ち着いて、やっと普通に喋れそうです。
「霞ちゃんが司令官に怒っているのを撮っていたんです。」
「ほう?珍しいな、あの霞が怒るとは。」
「ええ。ですからこっそり撮っていたんですけど、気づかれてしまって…」
「しかし気づかれただけでそこまで怯えるほどなのか?」
「そこでこちらを見てください。」
「…なんだ?その鉄屑は。」
青葉の手の上に乗っている粉々になったカメラを武蔵さんは顎に手を置きながら観察します。
「…青葉のカメラですぅ。」
「どうしてそんなに壊れているんだ?」
「機銃の乱射をまともに喰らったみたいで…」
「お前は無事だったのか?」
「ええ…カメラが盾になってくれたみたいです…。」
「…とりあえずだ。もう隠し撮りはするな。ほら、慰めてやろう。」
武蔵さんが腕を広げて誘惑します。これは夢でしょうか?いえ、あのカメラから腕に伝わる振動は本物でした。死を予感しました。ですから武蔵さんの胸の中に飛び込んでしまってもいいのです!
「武蔵さん!」
「はっはっは。どうした。そんなに怖かったか。」
武蔵さんの腕の中は暖かくて、柔らかくて、力強くて、とにかく最高です。大きな掌が青葉の頭を撫でてくれます。こんなにいい気分になるのはきっとこれ以降はないでしょう。夢なら覚めないで欲しいのが本音ですね。
「青葉さん!ずるいです!私の武蔵なのに!」
「大和、少し落ち着け。寝る前にいつもしているじゃないか。」
「そ、そんなこと言わなくても…じゃないです!とりあえず武蔵から離れてください!」
少し優越感がありますね、これは。あの大和さんに勝負で勝ったので今日一日は青葉が武蔵さんといることができます。この温もりは青葉だけのものなのです!ええ!
「ふふふ…大和さん。」
「なんですか?」
こちらに向ける大和さんの顔は涙ぐんでいて、少しグッと心に刺さります。が、今の青葉は不覚を取られるほど弱くありません!
「ドンマイ、です。」
「おい青葉。お前、案外平気なんじゃないのか?」
「ひどいです!ひどいです!」
涙を流しながら走り出し、どこかへ向かう大和さんを見つめながら青葉は武蔵さんの腕と胸の感触に包まれています。これが、幸せというやつでしょうか。
「だーかーら!私はこの射掛け方がいいんだって!」
「いいえ。あなたは何もわかっていません。」
「二人とも少し落ち着いて…曙からも何か言ってあげて!」
「んあー…少しは落ち着いたら?怒りながら話しても建設的な議論はできないわよ。」
「「曙は少し黙っていてください(くれないかな)!」」
また怒鳴り合う。これ以外ではかなり仲がいい二人も、一瞬で歪み合う。加賀からすれば昔の瑞鶴とは全く違う射掛け方で、しかも命中制度も加賀や翔鶴に劣るのが面白くないんだろう。一方で瑞鶴は少し言っていたけど、自分で見つけた…我流の射掛け方を誇りに思っていて、だから歪み合う。あたしは別に本人のやりたいようにやればいいと思う。それに、みんながみんな同じ姿勢で打つのは些か面白みに欠ける。瑞鶴の射掛け方は結構好きだし。
「そのやり方では艦載機や艤装が傷つく可能性があると何度も言っているでしょう。いい加減やめなさい。命中制度も上がっていないようですし。」
「…!そればっかり!私の射掛け方を加賀さんが決めなきゃいけないなんてことないでしょ!?」
「瑞鶴。あなたは感情に走りすぎています。」
「加賀さんは基本に囚われすぎてるんだよ!」
翔鶴は慌てて二人を仲裁しようとしながらも、間に割って入るのは難しいらしい。あたしもあの二人の間に入るなんて自殺行為はしたくない。もっといえば艦載機の扱い方を知らないのに口を出せば余計に怒りを向けられるだろう。
「どうしましょう…瑞鶴本当は仲直りしたいって言っていたのに…。」
「え、そうなの?」
少し面白そうな情報が聞けた。翔鶴は困り顔のままあたしに続きを話す。
「そうなの…。この前は泣いちゃって…慰めるのも大変だったわ。次こそちゃんと仲直りすると言っていたのに…。」
「加賀もそうだったわよ。流石に泣いてはないけど、落ち込んでたわ。瑞鶴を前にするとついつい言っちゃうとかでさ。」
「…なら、あまり考える必要もないのかもしれないわね。」
「とりあえず見守っておけばいいんじゃないの?面倒事は嫌いだし。」
互いに互いを怒りながら、それでも本音は仲直りしたいとは、随分不器用な二人で、しかも行動原理も似ている。本当は喧嘩なんてしていないのかもしれない。
「あ、いいこと思いついたわよ。」
「…何でしょうか。」
「何!」
「明日、霞と演習していい勝負できた方の射掛け方にするのはどう?」
一瞬で空気が凍りついて、二人の唾を飲む音が聞こえるほどの静寂に包まれる。急に震え出した加賀が私の肩を掴んで、絶対にやめて欲しいと呂律の回らない口で訴えられる。
「ふ、ふん!加賀さん負けるのが怖いんだ?」
「ええそうよ。あなたにではなく霞に。」
「む!何さその言い方!」
「瑞鶴。少し落ち着きなさい。霞といい勝負なんてできると思っているのかしら?」
それを聞いた瑞鶴が一瞬ぽかんと口を開いて停止した後、全身を震わせ始めた。
「そ、そうじゃん!どっちにしたってお互い何もできないじゃん!」
「でしょ?ほら、仲直りしなさい。」
(曙?少し強引では?)
(いいのよ。こんぐらい怖がらせた方がスッと謝れるでしょ。)
思惑通り、二人が向き合い、短く謝罪文を述べて終わらせる。そして、こちらに助けを求めるように涙ぐんだ瞳を向ける。
「…あぁ、もういいわよ。」
ふっと二人の身体から力が抜け、床にへたり込む。よっぽど嫌だったらしい。あたしはさっさと加賀に練度をあげて欲しいけれど…まだいいか。