※この作品はR-18です。

【艦これ二次創作】辺境鎮守府   作:スイっぴ

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決壊

逸る気持ちで電車に揺られ呉へ向かう。一番近い駅からでも走って十分以上かかるこの鎮守府に用がある。門の前に立つ見知った顔の守衛に呼び止められる。

「おや、懐かしいですな。調子は…あまり良くなさそうですが。」

「ええ…少しここに用があってきたものですから。菓子折りもなしに申し訳ない。ここに入ることを許可してもらうことは可能ですか?」

皺を刻んだ守衛が蓄えた髭を撫で、細目で私を見た後、しっかりと頷き言った。

「構いませんよ。無線で現在の提督に伝えておきます。ただ、くれぐれも艦娘の方を刺激せぬ様、お気をつけください。あの子らも少し気が立っていた様ですから。」

「忠告どうもありがとう。では、失礼します。」

偶然にも運動場には誰一人おらず、駆逐艦娘たちも全員がいない。雰囲気の変わったここは少し恐ろしい。鎮守府内は案の定艦娘が多かった。皆が私を見て驚きの表情を見せた後に飛び込んでくる。中には泣いてしまう子もいて、なんだか申し訳がなくなる。

「…提督?」

聞き覚えのある様な、懐かしい声が一際目立って聞こえる。黒髪を長く伸ばし、弓道着に身を包み、そして左側をはだけさせた艦娘。私が初めて建造した空母である。思い入れもそれなりにあって、向かわせた戦場はこの鎮守府内でもダントツだったと今でも思っている。

「祥鳳。お久しぶりですね。」

「ええ…本当に。」

最後に会ったのは例の視察以来で、その時はいつのまにかいなくなってしまっていたのが印象的だった。

「皆さん、提督が困っていますから。」

祥鳳の一声に皆一斉に離れ、距離をとる。それでも目線は変わらず、心配そうな雰囲気が感じられる。

「提督…会ってもらいたい子がいます。」

「…一体誰ですか?」

「霞ちゃんです。」

「霞に?一体何故。」

祥鳳はそこまで言ってから身を翻し、私の質問に答えようとはしなかった。おそらくは、霞に何かがあったのだろう。小鳥遊提督にも伝えられない様なことなのだろうか。

 

「ここです。」

「そうですか。あなたは、もう行ってしまうんですか?」

「…できればご一緒したいですが、霞ちゃんはきっとそれを望みません。それでは。」

靴を鳴らして廊下を進み、曲がり角を曲がってようやく彼女の姿が消える。扉には第十八駆逐隊と記された表札が掛けられている。霞以外にはいないのだろうか。扉をノックすると少し弱々しい声で、しかし霞の声である返事が耳に入った。

「失礼しますよ。」

「…は?司令官?」

「ええ。あなたの"元"クズ司令官です。」

彼女の目元には厚く隈が乗っていて、表情もやつれ気味。しかし私の方を見た瞬間にみるみるうちに正気を取り戻していく。そして、立ち上がり、大股で詰め寄る。

「このクズ!今更戻ってきて何よ!こっちはあんたのせいで苦労してるの!」

「ええ。すみません。」

「なんで今更戻ってきたのよ!悪いことは言わないわ。早くここから出ていきなさい!」

「それはできません。私も、考えなしにここにきたわけではありません。私の戦艦の件で…」

「…!ばっかじゃないの!!」

今日一番の霞の大声だった。キィンと耳鳴りがし、数秒間時が止まる。二人だけのこの部屋の中で私の方を睨み、握った拳を震わせる。

「あの艦のせいであんたがそうなったのよ!?どうしてその艦のために動くの!ほんとに馬鹿みたい!」

「…」

「何よ!なんなのよ!なんで黙ってるわけ!?なんとか言ってみなさい!」

「…何故そうも焦っているのですか?」

「…は?私が?何を?どうみたらそうなったの?ほんとにクズね。元とはいえ私の司令官だったのになんでそんなこと言える様になったのかしら。わけがわからないわ。」

明らかに今の彼女は異常だ。目線は安定せず、情緒もおかしい。握った拳も定期的に開いては閉じてを繰り返す。

「何かあるなら、ぜひ話してほしい。祥鳳に言われてきたのです。あなたに会ってほしいと。何か抱えているなら、是非話していただきたいです。なんでも聞きますから。」

霞が息を切らし、小声で言う。

「あんたが…いなくなってから…最悪よ。」

「…何故ですか?」

「みんなおかしくなったの。あんたも見たでしょ?時雨を。もう時雨は忘れちゃったみたいだけど他にもたくさんいるの。如月に初雪。天津風だって。」

「…」

「駆逐艦だけならまだいいわ。でも、他の艦も酷い人はたくさんいるわ。足柄だって前まではあんまり飲まなかったのに今は隙をみてお酒ばっかり飲んでいるんだもの。みんな口に出して言うわ。司令官が、司令官がって。」

「申し訳ないです。」

「なんでかしらね。私が駆逐艦のみんなのことを見なきゃいけないのよ?一人で。何かあればすぐに私が呼ばれて、面倒事を終わらせて、それ以外に数は他の子より少ないけど出撃に遠征にやらなきゃいけないことが山ほどあるの。これも、全部あんたがあの艦に乗ってたからよ。」

相当溜まっていたらしい。どこかスッキリした様な少し軽くなった顔でこちらを睨みつけている。話を聞いた限りでは今の霞が何故こうなってしまったのかがよくわかる。ストレスと、過度なプレッシャーだろう。ふと、机の上に薬剤の瓶があるのが目に入った。頭痛薬と痛み止め。おそらく今の霞が常飲しているものと思われる。相当なものであると言うことは想像に難くない。

「今、ここでそう言ってくれたことを感謝します。」

「ふん…何よ。向こうでは別の私とよろしくやってんでしょ?」

「…それが?」

「…酷いじゃない。私とあの子の…どこが違うのよ。別に私を選んでくれていたってよかったじゃない。私じゃ…私たちじゃダメだったの?」

「その頃は皆さん私に対してはケッコンは焦るなと言っていましたから。私も、それだけ奥手になっています。それに、出会った時期もあるでしょうね。」

「…ほんとにクズ。そう言うのが聞きたいわけじゃないってことくらいわからないの?」

涙交じりの嗚咽が静かな狭い空間の中に響き、やがて大きな泣き声に変わる。見た目相応の少女がついに決壊し、限界を迎えた。大粒の涙が頬を伝い、それを拭う様に袖で目を擦る。

「わかったらさっさとでていきなさいよぉ…」

一つ、抱擁する。彼女の力が一気に抜け、代わりに私の背にも回る。

「何してんのよ…やめてよ…」

彼女自身も認めたくないであろう現状は伝えない方が幾分かマシだろう。ただ、それでもこの程度で彼女が治ってくれるのならいくらでも付き合う。

「よく頑張りましたね。今だけは、思い切り泣いて仕舞えばいいんです。言いたいことを、なんでも言って仕舞えばいいんです。なんせ、恨み言を言える人間が目の前にいるんですから。」

彼女が目一杯に泣く。本来の用も忘れ、しばらくそうしていた。

 

しばらくして泣き疲れた霞を寝かせ、部屋を出る。

「司令官…」

「霰。」

「霞姉さん、ここ最近ずっと辛そうだったから…きてくれて、よかった。ありがとう。」

「いえ、元より私の責任ですから。」

霰が少し微笑んでから部屋の中に入る。

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