だいぶ長い時間演習に耽って、日の傾きもかなりわかりやすくなった。午後は加賀とずっと二人で演習をしていた。陸で見ていた曙の髪飾りの反射で常に視界のどこかにはその光があった様な気もする。
「加賀、練度はどうかしら。」
「あと少しですよ…。多分…一回やったら限界です…。」
「そ、ならもうやっちゃうわよ。休んでる暇なんてないんだから。」
手を膝につきながら肩で息をする加賀も、実力では油断すれば痛手を負いそうな危機感を持たせるほどには強い。ただやはり体力のなさは変わっていないのが痛い。実力は申し分ないのだけれど。
「あと…最後は曙とやってね。」
「曙と、ですか?」
「ずっとあそこで見ていたんだもの。きっと混ざりたいのよ。私も少し疲れたし。」
曙を無線で呼び出すと、機嫌の良さそうな声色が聞こえてくる。そりゃあもう楽しみで仕方なかったと思う。あの指輪を頼んでからどれだけ経ったか。艤装をいつも以上に慌ただしく装着してから波を立ててこちらに迫る。
「待たせたわね。さ、加賀!やるわよ!」
「ええ。手合わせ、お願いします。」
「私は見てるから。二人の好きなタイミングで初めて。」
今度は私が陸に上がる。二人は互いに見つめ合いながら談笑しつつ、キリの良いところで離れていく。いつもなら必ずと言っていいほど同じ艦隊で行動していた彼女らが今は互いを敵と認識している。練度の差もそれほどなく、私の次の実力でここにいた曙と、当初とは見違えるほどに強くなった加賀。十分楽しめそうだ。
「霞ちゃん、隣、いいかしらぁ。」
「姉さん…ええ。いいわよ。私、コンバート改装してくるから二人のことちゃんと見ててね。」
「一緒に見てくれないのねぇ…。」
波も無く、日はじりじりと照りつけ、風はわずかに南向き。優しく汗を引いて行く風が全身を撫で、加賀との距離を押し測る。電探は使うまでも無く、今回は主砲の代わりの高角砲と高射装置を持ってきた。正々堂々すれば艦載機による数で負ける可能性がある。いくら加賀でも、負けたくはない。もちろん潜る戦法もあるにはあるけれど、流石に加賀も嬉しくはないはず。
「あなたと戦うのは初めてかもしれませんね。」
「そうね、ずっと一緒だったもの。」
無線で互いに話しながら演習を始める。潜水するならこの無線を切らなければいけないというのも今回はしない理由にもなっている。まずは加賀の艦載機から。やはり、いつ見ても加賀の射掛け方は美しいと思う。そして、矢の軌道から一転してブゥンと艦載機へ変身し、私へ向かってくる。
「手加減は無しだから!」
「こちらの台詞です。」
高角砲による掃射である程度は落ちる。しかし、それでも残っているものは多く、これ以上は躱す以外に選択肢はない。艦載機による雷撃と機銃が襲いかかる。素肌への衝撃も艤装が吸収してくれるとは言え、流石に抵抗がある。機関を調整し、増減速を駆使してなんとか避ける予定だった。
「…あ!」
「ふむ…機銃が一発、ですかね。注意不足なのでは?」
「へぇ…言うじゃないの。こっからよこっから!」
一丁前に挑発とは、加賀も随分偉くなったものだ。小破判定にはギリギリならない程度に抑え、一気に加速して近づく。向こうは今はまだ発艦準備が済んでいないので、極力投げに徹する。しかし、速力の差はどうしても出る。さらに、今回の演習は加賀からの要望で互いに中距離から始めたいと言われたので、あたしの有効射程にもいつもよりもすぐに入れる。
「は!もうあたしの射程圏内よ!降参するなら今じゃないの?」
「なるほど…少し、勝負を焦ったのでは?」
「…は?」
突如、上空からエンジンが唸りを上げて猛スピードで突っ込んでくる。まるで特攻でもしているのかと錯覚するそれから、一本の魚雷が放たれようとする。
「直上、いつものあなたならば、気づいているはず。」
不味い。すごく不味い。潜水するとしても距離が近い。
「あなたの方こそ、降参するなら今の内では?」
高角砲は間に合わない。そこまで照準を合わせる間にあたる。直撃は装甲の薄さで耐えることはできない。とにかく速力を上げ、加賀に近づく以外他にない。
「言ったでしょ!もう有効射程なのよ!あんたを今大破判定にすればいい!」
曙が鬼気迫る顔で接近する。やけに視界が遅く、彼女の動きが全て、細部まで確認でき、微妙な落ち着きさえある。深呼吸をし、艦載機から魚雷を放ち、直撃させる。演習用とは言え、当たれば痛いかもしれない。けれど、曙も本気で来たのだから、私もそれを迎え撃つべく努力はする必要がある。
「終わりですよ、曙。あとほんの少しで…」
あたる。そのはずだったのに、そうはならなかった。曙が突然急加速し、艦載機が衝撃で弾かれる。魚雷はあらぬ方向へ飛び、無防備な自分に勝利を確信した瞳が迫る。
「な…ぜ…」
「「終わりよ。」」
無線からの声と、少し早く聞こえてきた声で反響する様に鼓膜を振るわせる。
「はい、あたしの勝ち。」
「…なぜ、あたらなかったのですか?」
「あんなん一か八かよ。近づいてそうなタイミングで爆雷を上に打ち出しただけ。すぐ発動しそうで怖かったんだから。ま、成功して良かったってとこかしらね。随分強くなったんじゃないの?」
「敵いませんよ、あなたには。」