「あんたもようやく練度が限界になったわね。」
「いつのまにか、ですね。」
「色々あったわよ。」
「そうですか?私はあまりよく覚えていません。」
「…なんでよ。」
「嘘ですよ。忘れるわけないじゃないですか。」
「そ。まあいいけど。」
演習を切り上げて、補給と艤装の点検を妖精さんに任せて工廠を後にする。その際見慣れない艦娘がいたのは少し気になったけれど、とりあえず無視することにした。向こうもこちらには興味がなさそうだったので、どちらも関わらない様にすればいい。
「ねえ加賀。」
「なんでしょう。」
「渡したいものがあるの。」
急に心臓が激しく鼓動を始め、耳がその振動に支配されていく。夏の暑さだけではない発汗が尋常ではない。
「…場所は変えますか?」
「うん…えっと…そこの堤防で…」
堤防への道はどちらも言葉を発しなくて、波の音と時折聞こえる鯨の潮を吹く音しか聞こえない。その沈黙が余計にあたしを焦らせる。
「曙?大丈夫ですか?」
「…ふぅ。大丈夫よ。」
一呼吸置き、ずっと隠し持っていた、小さな黒い箱を取り出し、加賀に差し出す。緊張して、少し膝が揺れる。加賀の表情も今はよく見えないけれど、掌の上の箱に興味があるらしい。
「なんですかこれは。」
首を傾げ、じっくりと見つめ、その瞳が吸い込んできて、上手く呼吸ができない。
「霞と、クソ提督の関係が…その…すごくいいなって思って…だから、」
思い切って箱を開け、中に入っている銀色の指輪を取り出し、加賀の前に指で運ぶ。
「あたしと、け、ケッコン!して…くれる?」
「…喜んでお受けします。ありがとう曙。」
そう言って加賀の方から薬指に指輪をはめる。あたしも、ペアになっている指輪を加賀に渡し、はめてもらう。その瞬間にじわっと顔が熱くなり、涙が溢れ出す。
「よかったぁ…断られたらどうしようって…」
「私、幸せですよ、曙。」
加賀があたしを抱きしめ、柔らかく包まれる。
「ん…」
「愛しています。」
「あたしも…」
「あらあら。」
「やっと渡せたのね。」
「霞ちゃんはずっと前から知ってたの〜?」
「もちろんよ。それに、指輪のことは教えられてたし。」
「そうなのね〜。」
人払いはあらかた済ませているので二人の熱い抱擁は私と荒潮姉さんしか見ていない。だから、別に覗いたっていいだろう。
「霞ちゃんと司令官もああやって情熱的に抱き合ってたのかしら〜。」
「んな…ね、姉さんには関係ないでしょ!」
「あら、ごめんなさいね。」
いつもひらひらと躱されているような気がする。今もこうしてのらりくらりと私から逃げていく。
「もういいから、ね、戻りましょ。」
「そうね〜。あとは二人きりにしてあげないと…ね〜。」
涙で顔がくしゃくしゃになっている曙とそれを抱き抱えながら頭を撫でる加賀。いつもとは立場が変わっていて、けれど二人ともなんとも思っていなさそうで、純粋に幸せそうで、見ていて嬉しくなる。