「艦はどうだったの?」
「まだまだ私の知らないことばかりです。非常に興味深いとだけ言っておきますよ。」
満足そうな顔で帰ってくる。突発的な行動ばかりで振り回される側は少しだけ疲れる。今回は早めに帰ってきたから怒っていないけれど、こういうことは控えてくれると嬉しい。
「しかしまあ、本当に…」
「どうかしたの?」
私の身体を頭からつま先までじっくりと見て、顎を指でなぞりながら深く頷かれる。どういった意図なのか全くわからない。ただ一つ言えることは、またおかしなことを考えているということ。
「霞は随分魅力的ですね。」
「…なにそれ。」
あまりにくだらなさすぎて、けれどいきなりそう言われたことで変に意識してしまって、顔の温度が急上昇する。今の私を見て司令官が更に口角を上げ、近づいて来る。
「そういうところですよもう。無意識にそんなことするなんていけない子ですねぇまったく。」
「そんなんじゃ…」
ぎゅうと抱きしめられ、彼の温もりを感じる。ほのかに汗をかいていることによって微妙な湿度がある。そして、少しだけ鉄臭い。
「ん…もう。」
「今夜、楽しみにしていますから。」
「今夜…!?あ、う…」
耳元で小さく呟かれて、夜のことを思い描くと、更に熱くなって、心臓の鼓動音がより鮮明に聞こえる様になって、期待に胸が膨らむ。
「私も…その…」
「ええ。ありがとうございます。」
もう一度腕に力を込めて、しっかりと抱き合う。自分より大きな体躯の彼にこうされるとドキドキして、呼吸が乱れる。
「さ、何をして過ごしましょうか。仕事はありませんよ。」
「仕事はないかもしれないけどここにはいなきゃダメじゃないの…?ほら座って、ね?」
少し強引に椅子に座らせて、彼の膝の上に腰を落とす。
「霞が座りたいだけでは?」
「違うわよ?でも、こうしておいた方がちゃんと近くに居てくれるじゃない。」
肌触りの良いズボンの生地を撫で、彼の胸に頭を擦り付ける。こうすると実に気分が良い。ついでに頭も撫でて貰えば完璧だ。しかし、そう都合よく行かない現実がもどかしい。
「大変デース!扶桑と伊勢が!」
「何を起こしたんですか?面倒ごとは御免蒙りますが。」
「なんか大変そうよ?行ってあげたら?それに、二人とも航空戦艦だし、もし暴れたりして工廠にあるあなたの…」
「一大事の様ですね。金剛、さっさと案内しなさい。」
「え、ええ!こっちデス!」
慌ただしく駆けていき、それをゆっくり歩いて追いかける。
「ふ、扶桑姉さま、落ち着いてください…」
「伊勢!落ち着け!何があったんだ!?」
「山城…少し黙っていてくれるかしら?」
「宥められたって、これだけは譲れないわ。あなたたち、早く退いたほうが身のためよ。」
遠目に見てもかなりヒートアップしている喧嘩。でも、なんだかくだらなさそうなことで争っている様な気がする。止めていた二人もすっかり怯えていて、言い争いのない闘争に怖がっているらしい。
「ど、どうしまショウ…」
「落ち着いて下さい。とりあえず曙と加賀を…」
「必要ないわ。私が行くから。」
向こうは艤装を展開させているし、こちらが穏便に済ませようと努力する必要はない。さっさと黙らせればこんなこともすぐに終わるから。後ろがなんだかうるさいけれど、構わないことにする。
「二人とも、やめなさいな。話ならいくらでも聞くわよ。」
「霞…事情を知らないあなたに出る幕はないわ。」
「そうよ、早く引いてもらえるかしら。」
「こっちもあんたらをまとめる立場としてやんなきゃいけないのよ。わかったら…」
その瞬間に、雷が落ちた様な轟音が鳴り響いた。2人の砲塔から同時に撃ち込まれた。直撃を喰らい、おそらく中破程度に削られる。比較的低練度の2人とはいえ、ダメージはやはり本物だった。それに、攻撃されたなら、こちらもやり返す口実ができる。
「へぇ…宣戦布告かしら。」
「引かないほうが悪いのよ。」
「いいわ。2人まとめて潰してあげる。」
「…後悔しますよ?」
「御託はいいからさっさとかかってきなさい。」
「ふん!!」
「「!?」」
「司令官!?」
ズゴっと鈍い音が響き、2人が崩れ落ちた。
司令官による鉄拳制裁で2人を大破にし、無理矢理拘束した。私は最初の攻撃以外の負傷もなく、無事ではある。
「で、なんであんな怒ってたわけ?」
「霞…無茶はしないでください…。」
「あなたもね。」
「伊勢が言ったんです。山城の悪口を。」
「だから、言ってないわよ!」
「姉さま…!」
「そういうのいいから。伊勢はなんて言ったのよ。」
「変なことじゃないわよ?ただ、なんで3人もいるのかしらって…」
「ほら!言ってるじゃない!」
「…なんで?」
「姉さま…?」
「そんなの…山城が一番辛いんじゃないんですか!?いつも自分と同じ顔で、同じ声で、常に私のところにいて…本当はこの子達が一番辛い思いをしているはずなのに…それをそんな軽はずみな言葉で言及しようだなんて…」
「ほらね…わけわかんないわよ…。」
「姉さま、私たち、別に気にしているわけでは…」
「原因はわかったわ。とりあえず静かに。伊勢はなんであんなに怒ってたのか、理由だけでも教えてちょうだい。」
「それね〜。ほら、なんとなく面白そうだったから怒ったふりをしてみたの。そしたら役にハマりすぎちゃって…」
「一回沈んでおく?」
「ゴメンナサイ!」