「…お二人の修理もしていきますか?」
「いえ、結構です。このまま数時間入渠させておくので。」
「そうですか…では。私たちはお仕事も終わったので、ここらで撤収させてもらいますね。」
「ええ。今日は助かりました。またいつか呼ぶかもしれません。その時はまたよろしくお願いします。」
外も日が落ち、月明かりがぼんやりと波間に映る頃。艦の様子を見に行くとちょうど終わっていたらしく、まるで新品の様に輝いている様に見えた。司令官の大切にしている艦。少し嫉妬してしまいそうになる。
「いい時間ですし、ご飯、いただきにいきましょうか。」
「そうね。お腹すいちゃった。」
間宮さんのところはいつもの様に明かりがついていて、仄暗い廊下とは雰囲気が変わる。昼間は見なかった青葉たちが楽しそうに会話を続けている。翔鶴と瑞鶴は控えめな量を、加賀は大和型の2人に負けない量を、曙はおそらくすでに食べ終わっている。こういう雰囲気は嫌いじゃない。
「あらぁ。2人とも来てたのねえ。」
「ええ。あなたも今からご飯ですか?」
「そうよぉ。一緒に食べる〜?」
「そうしましょ。」
少し濡れた髪を纏めた荒潮姉さんがおっとりと言う。雰囲気がいつもよりも断然柔らかく、そして本人も気分がよさそうで、少し嬉しい。
あっという間に食事も終わり、各々が好きに過ごす時間が訪れる。基本暇なこの鎮守府でわざわざ自由時間がいるかと言われれば難しいけれど、夜中のこの時間があるおかげでなんとなく特別感がある。
「我々はお風呂ですけどね。」
「早くいきましょ。ね、ね。」
「あ、あんたらも今から?」
曙と加賀。2人ともなんとなく疲れている様に見える。加賀はそうでもないけれど、本題は曙。どこかやつれていて、脱水気味な表情で、けれどなぜか満足そうで、少し不思議。
「全員キコンシャということですか。」
「あれ、なんで知って…」
「手、見ればわかりますよ。それに、随分機嫌もいいですから。」
「曙はわかりやすすぎですよ。」
「うっさいわね…」
頬を赤く染めながら反発し、不機嫌そうに膨れっ面を見せる。膨らんだ頬は加賀の指先一つで一瞬にして解けてしまい、更に機嫌が悪くなった。
「もう!さっさと行くわよ!」
「加賀も大変ですね。曙と一緒は疲れそうですが。」
「いえ…そうでもないわ。」
曙の背中しか見えていないけれど、加賀がそう発言した時だけ、少し嬉しそうに髪が跳ねた…様な気がする。確実に言えるのは、足音が少し軽くなったということか。
湯船に浸かると、身体の芯から暖まるような感覚があった。じわりじわりと侵食してくるような熱に身を任せ、自分の存在をこのお湯のなかに溶かしていく。もちろん感覚的な話で、本当に溶け出してしまうわけではない。
「霞は本当にお風呂が好きですね。」
「ん…あったかいもの。」
「のぼせるまで何も言わないのも危ないですけどね。」
「別に言えるわよぅ…。」
司令官の手が私のことを捉えて、しっかりと掴まれている。こうしていると非常に熱い。けれど、司令官はちゃんと私のことを考えてくれていて、沈んでしまわないように後頭部に左腕を運んでいる。そういうさりげない仕草で安心しているのかもしれない。