「ねえ、金剛さん。」
「荒潮?どうかシマシタカー?」
「私、泳げないわぁ。」
「だから浮き輪を使っているノデスカ?」
「そうよ〜。」
ヒラヒラした水着に身を包んでさも大人びた少女のような色気を演出しながら実態は結構抜けているのが荒潮という少女である。金剛を呼び止めながら何やら話をしている。いつもニコニコ貼り付けたような笑いをしているけれど、遊んでいる姿を見るとそれほどおかしな様子は見せない。
「泳ぎ方、教えてくれないかしらぁ。」
「Hmm…私にもよくわかりまセーン。ですから、私があなたを押して行きますネー。」
「あら、優しいのねぇ。」
遠目から見ると随分楽しそうに見えて、最初の頃は金剛も楽しそうだった。しかし、次第に表情が変わって、息も上がっているように見えた。どれだけ泳いだのか。単に泳ぐと言っても荒潮を押しながら泳ぐのは労力としてはいくら戦艦とはいえ、厳しいものがあると思われる。
「あらあら〜、高速戦艦、でしたよねぇ?」
「はぁ…はぁ…何が言いたいノデスカ?」
「いいえ〜?少し…遅いかな〜、なんて。」
荒潮の目が一瞬にして変わり、金剛のことを都合の良いおもちゃのように見つめている。そして、ボソリと何かを呟いたと思えば、凄まじい速さで海上を荒潮の上半身が滑っていく。帽子を手で押さえて空気抵抗に抗うその光景が面白くて思わず吹き出す。
「あらあら〜」
ちょっぴり揶揄ってみただけなのに、金剛さんてば随分張り切っちゃってるのねぇ。でも、ちょっとこれは速すぎるかも〜。
「金剛さん、ねぇ、聞こえてるかしらぁ?」
…ちょっとだけ声が聞こえるっていうのも、怖いわねぇ。顔は飛沫で見えないし、声も風が耳で抵抗があるからうるさいし、な〜んにも聞こえない。それと、なんだか少しずつ体が上っていってる気が…
「…あら〜?」
「Oh!」
気づいたら浮き輪から飛び上がって置いていかれちゃった。金剛さんも急いで戻ってるみたい。どうしましょう。私、本当に泳げないわぁ。このまま沈んじゃうかも〜。
「んぐ…」
体全体が一気に冷たい水に包まれて、少しずつ怖くなって、焦っちゃう。でも、空気は吐き出せないから、両手は口元を押さえなきゃいけないし…
「大丈夫デスカ荒潮ー!」
脇を掴まれて上半身がやっと水面に上がって、息ができて…ああ苦しかった。
「ごめんなさい金剛さん…」
「私もムキになりすぎマシタ…」
「あら…あらら?帽子が…」
「Hat?それなら…アレ?」
「もしかして飛んでいっちゃったのかしら?大変だわ〜。瑞鶴さんに買ってもらったのにぃ。」
わざとらしく焦って見せると金剛さんも過剰気味に騒ぎ始めて、面白い。やっぱり揶揄い甲斐のある人は好きだわ。
あの二人…何やってんだか。飛んでいった帽子は運良く近くにいた翔鶴の頭に被さったし、それをみて大笑いする瑞鶴と反対に笑いを堪える加賀が見れたし、金剛の焦りと引き換えの面白い光景と思えばいいかな。にしても翔鶴、随分派手な水着ね。背中丸見えじゃない。