休憩中の荒潮と数分程度喋った頃、少し遠くの方から見慣れた背丈の影が二人分近づいて来るのが見えた。
「あら〜。霞ちゃん良くなったのかしらね〜。」
「そうかしらね。あんまわかんないけど、二人で決めたんならいいと思うわよ。」
霞は見慣れてしまったが、随分攻めた水着だと改めて思う。本人の希望ではないし、納得しているかもわからないけれど似合っているからいいと思う。問題はクソ提督の方。上半身はかなり肌に密着したもので、左腕のところは切断面の辺りより少し上の方に切っている。そして下半身はスカートのような布を身につけている。
「遅れましたね。曙はまだ入っていないんですか?」
「そうよ。外から全体を見れるやつが一人はいないと危ないじゃない。」
「それはそうですけどね。」
「霞ちゃん似合ってるわ〜。」
「いっつも着てるわよ。…まあ、別にいいけど。」
わかりやすく照れているのがわかる霞と、どこか納得のいっていなさそうなクソ提督。傍目から見てカリにも夫婦であるようには到底見えない。むしろ犯罪臭がしてくる。
「まだ本調子じゃないから海には入らないけど、曙の代わりにここで見ておくわ。」
「霞の付き添いなのでここにいますよ。」
「あらあら〜。たまには単独行動をしてみるのもいいんじゃないかしら?霞ちゃんは私が見ておくから〜。」
「お断りしておきます。」
「クソ提督には何言っても無駄だから。行くわよ荒潮。」
既に水気の無くなってしまった荒潮の手を引いて海の方へ。水面が太陽の光を反射して眩しい。加賀はなぜか翔鶴に頬を挟み込まれて、瑞鶴はそれを形容し難い目で見ている。
「司令官、海って、そんなにいいものかしら。」
ふと頭の中に浮かんできた疑問を口に出す。別に病んでいるからとかではなく、単純に疑問で。
「私からすれば、結構興味が引かれますよ。海底はどのような魚がいるのか。そもそも魚ですらないものがいるのか。考えても出ない答えを延々思考するは案外楽しいものです。」
「そう…私はあんまりわからないわ。」
だって、海とは私にとってはただの仕事場。それも自分たちが存在する理由の深海棲艦には殆ど関わらない。海には確かに関わっているし、ないと私たちの存在意義が問われてしまう。でも、それ以上の興味関心が海という広大なものには持てない。
「別にいいんじゃないですか?海のことで悩んでも、深海棲艦がいなくなるわけではありませんし、人類が消えてしまうわけでもありません。人間的な生活、艦娘としての生き甲斐。それらは海に関係するかもしれません。けれど、最終的な結論は魚にとって必要な居住区。それくらいの適当な認識でいいと思いますよ。」
彼は、時々何を言っているかわからない。彼の発した言葉の殆どを私は理解できていないと思う。けれど、彼の意見や考え方を聞くとその中のほんの一部は共感できたりする。そうでなくても、なんとなく心が軽くなるような気がする。
「そっか…。そうよね。あんまり考えてもしょうがないか。」
「そうですよ。」
「じゃあ私は海に…」
「ダメですよ?」
適当に流してみんなのところに行こうとしてみたけれど彼に腕を引かれて阻止される。面倒な問いを彼に押し付けてみて、なんとなくはぐらかそうとしたけど無理だった。膝の上に無理矢理座らされて海を眺めさせられる。海鳥が悠々と飛び、遠くで鯨の潮吹きが見えた。海に依存しながら生活する動物と海上でしか存在意義を発揮できない艦娘。どちらの方が充実した生き方をしているのだろうか。
「哲学的な考えは疲れますよ。」
「なんでわかったの?」
「あなたが遠くの方を見つめながら首を傾げるのは、基本そういうことを考えている時ですから。」
自分では気付けなかったクセである。あまり意識したことはなかったから、いざそう言われるとなんとなく意識してしまう。ふと海に腰まで浸かっている子達に目を向けてみると、正直に言って魅力的な身体を持っていた艦娘が皆一様に水着という肌面積の多くなるものを身に纏っていて、非常に危険な光景が映っていた。司令官はずっと私の方を見ているけれど、もしかしたらそれも変わってしまって向こうにいる子達に夢中になることもあるかもしれない。そう考えるとちょっとだけ怖い。
「ねえ司令官。」
「どうかしましたか?」
「腰、もっと痛くなっちゃったかも。」
「言わんこっちゃないですよもう。なら戻りますか?」
「それはやだ。ここでマッサージってできる?」
私の頭を撫でながら少し唸って、耳をキュッとつねられた。
「んひゃう…」
「できますよ。ただしあまり期待しないでください。」
「じゃあ、耳つねらなくてもよかったんじゃないの?」
「お仕置きですよお仕置き。」
少し怒られながら砂の上に寝かされる。パラソルによる日陰のおかげで熱くなく、結構快適な温度だった。そりゃあ曙もずっとここにいるというものだ。
「あ…ん…その辺…いいかも…」
「あんまり変な声出すと本気にしますよ。」
「本気…?なんでぇ?」
「わからないならいいです。」
少しだけ力が強くなって、腰にくる痛みが増える。けれどその分よく効いているような気もするのが複雑。