霞のメイクや衣装選びによって、完全に女性の見た目となっている私は現在、前回勤めていた鎮守府、呉鎮守府へ来ていた。
「お待ちしていました。現在提督を任されています。小鳥遊たかなしと申します。本日はよろしくお願いします。」
「ええこちらこそ。久しぶりですのでね。それと、この格好で来て本当によろしかったですか?」
「構いません。今日は彼女らには私の血縁者が来るとだけ伝えています。自由に見て回ってあげてください。」
「そうさせてもらいますよ。」
「つかぬことをお聞きしますが、お名前は?」
「ああ、どんなのがいいですか?」
「は?どんなの、とは…」
「私、自分の名前を他人に知られるのがすごく嫌なんです。なので、今、ここで、あなたが偽名を決めてください。」
「そ、そうなんですか…。しかし、突然そんなこと言われましても…。」
「まあいいじゃないですか。私の名前なんて。適当に誤魔化しておけばいいんです。」
「司令官ー!門の前で何をなさっているんですか?」
向こうから吹雪がたったっと駆けよってくる。
「吹雪。こちら、今日のお客様だ。失礼のないように。」
「どうも。」
「あ!初めまして!ようこそ鎮守府…へ…?」
「?」
「あの、どこかでお会いしたことありましたか?」
どきりと心臓が跳ねた。
「あはは…そんなわけありませんよ〜。人違いでは?」
「う〜ん、そうなのかなあ。」
「ほら、吹雪!これから演習の時間じゃないか?」
「あ!そうでした!ではごゆっくり〜!」
再び鎮守府へ向かっていく吹雪を見届けて、執務室へ案内される。
「いや〜肝が冷えましたねぇ。前よりも勘が良くなっているのでは?」
「そうかもしれませんね。とりあえず、私はここで事務仕事をしているので、あなたはここを色々見に行ってあげてください。彼女たち、かなり楽しみにしてましたよ。」
「ではお言葉に甘えさせてもらいます。」
執務室を出て、早速空母寮に併設されている弓道場へ向かう。懐かしい引き戸をコンコンとたたき、カラカラと開ける。訓練中の空母たちが一斉にこちらを向く。
「どうぞいらっしゃい。あなたが提督の言っていたお客人ですね?」
鳳翔さんが迎えてくれた。
「はい。本日はよろしくお願いしますね。」
突然、瑞鶴がツカツカと向かってくる。
「あなた、少し来てもらってもいいかしら?」
「え、ええ。」
「じゃあみんな。この人と少しお話ししてくるから。」
「ちょっと瑞鶴!迷惑かけちゃダメでしょ!」
「すぐ終わらせるから。」
そう言って弓道場を退室する。
「あなた、提督でしょ。」
「なんのことやら…。」
「そんな格好しても無駄。隠せてないの。みんな気づいてないふりしてるの。」
「…バレましたか。我ながら完璧な変装だと思いますよ?ほら、声だって高くしているでしょ?」
「わかるわよ。私が秘書艦の時隠し芸とか言ってたときの声と同じだったもの。」
「よく覚えてましたね。」
「当然よ。ほら、こんなことして悪かったわね。前の提督じゃ、練習してるとこなんて見れなかったでしょ?好きなだけ見て行ってよ。」
「もとよりそのつもりですからね。飽きるまで見せてもらいます。」
もう一度戸を開けると、空母の人たちがソワソワしてこちらを見ている。
「みんな!提督が帰ってきたわよ!」
「ちょっと!」
瑞鶴の一言を皮切りに、みんなが安堵したような顔に変わった。鳳翔さんだけは目を丸くしている。
「提督、おかえりなさい。」
「提督さん。お久しぶりです。」
たくさんの暖かい言葉で出迎えてもらい、なんだかむずむずした。
「ところで、その腕、どうなってるの?」
「これですか。義手ですよ。妖精さんに作ってもらったんです。なかなかうまいものでしょう?」
ここでは空母の人たちの近況報告や、練度がどれだけ上がったか、新しい提督が取る指揮がどうのと溜まっていた分を全部話した。
「提督!久しぶりに打ちませんか?麻雀。」
そう言って赤城がいつのまにか麻雀をセットしていた。
「仕方ありませんね。暫く打ってていませんでしたから、流石に気分が高揚します。」
「提督。」
加賀さんに少し怒気の籠った声で呼ばれる。