頭を振りながら、朝の日差しを受ける。金剛も恐らく同じくらいに起きたと思う。
「ね、よく眠れた?」
「エエ…グッスリデシタ。」
寝ぼけつつ私の顔を確認して、わしっと胸を掴まれる。そのまま二、三度揉み込んだ後、その感覚を覚えているような手の動きを見せられた。
「何がしたいのかしら。」
「Oh…やっぱり違いマスネー。」
そう言って今度は自分の胸を揉み始め、柔らかさ?を比べているようだった。うんうん唸って口をもごもご動かしているところに頬をぱちんと両掌で挟む。
「…?どうかシマシタカ?」
「目、覚めた?」
「えーと…?」
冷静さを取り戻しつつあるのか次第に顔が紅潮していく。汗が流れ、熱くなる。
「起きたかしら?」
「バッチリデス…」
長門さん、今朝方に帰るなんて電報を送って、まだまだ帰れないのかしら〜。もう七時よ〜?青葉さんはカメラのお手入れがって付いてきてもらえなかったし〜。あの人、あまり慕われていないのかしら?
「む、荒潮。出迎えか?」
「あら〜。武蔵さん。そうですよぉ。」
「そうかそうか。きっとあいつも喜ぶだろうさ。」
「武蔵さんは一体どうしてここに?」
「かく言う私も長門の出迎えさ。」
私は港に座っているけれど、武蔵さんは隣に仁王立ちして、太陽の光を浴びながら待っていて、肌面積もあって暑そうで仕方ないわぁ。風があるからそうでもないのかしら?
「…ほう。どうやらすぐそこらしいぞ?」
「電探でわかったんですかぁ?」
「そうだな。それに、小さくはあるが確かに、あそこに姿が見えている。」
「…そうですかぁ?見えませんけど〜。」
「あ〜。加賀?朝から食べすぎない方がいいわよ?今ご飯何杯目よ。」
「…まだ四杯目くらいですが?」
「ならそこに積んであるお椀の山は何よ。四つ以上あるわ。」
「百万石ですから。」
「意味わかんないから。」
本当にいつもどこに入っているのかわからない量を無限に運んで、しかし全く太らないのが不思議でしょうがない。まあ、幸せそうだから体調に変化がない限りはいいけど。
「曙も如何ですか?」
「あたしはもういいわよ。十分食べたし。」
厨房から覗き込む間宮さんの期待の眼差しと、伊良湖さんの畏怖の込められた瞳が加賀に向けられているのに気づいたのは加賀が今のお椀に入っていた米を全て食べ終わってしまった頃だった。それと、また更に食べようとしているのもわかる動き方をしていた。
「姉さま、」
「どうしたの山城?」
「いえ。今日は何をされるのかと思いまして…」
「たまにはあなたたちのしたいことをしてもいいのよ?いつも私のことを優先してくれるのは嬉しいけれど…」
三人の山城は、みんな少しずつ考え方や行動が違っているけれど、行動心理の奥の方には常に私がいて、それがなぜだかすごく申し訳なくなってしまう。
「私のやりたいことは姉様さまのやりたいことですから。」
「そうです!」
「さあ、遠慮なさらず!」
いつもこのように押されてしまって、なし崩し的にこの子達を巻き込んでしまう。だから、どうにかしてこの子達に自分たちの本当にやりたいことを知ってもらいたい、と常々考えて、今日もいつも通り部屋の中で一日中いるのが当たり前となって…
「山城?私、少し歩いてきてもいいかしら?」
「なら私たちも…」
「違うわ山城。偶には、私一人で…ね?いいかしら。」
「姉さまがそう言われるのなら…」
「ありがとう。」
我ながらずるい聞き方。私の妹達はみんな私のことを尊重してくれるのに。
翔鶴姉の射掛け方を見ると、なんだか懐かしい。本当にあの鎮守府にいた頃みたいに毅然とした姿勢で、息を乱さず冷静に、静かに的を撃ち抜く姿に見惚れる。でも、私だけがあの頃に縋り続けているだけなのかもしれないと思うと、少し胸の奥が痛くなる。加賀さんはあの頃を覚えているけれど、今は新しい人生を歩んで幸せそうにしてる。
「あ…」
「また外れてるわ…ねえ瑞鶴。どこか悪いなら、教えてくれる?」
「や、どこも悪くないよ。ほんとに。ちょっと考え事してただけだからさ。」
「ダメよ…もし何かあったらどうするの?」
「わ、ちょ!?」
手を引かれて、無理矢理膝枕をされる。暖かくて、柔らかい。頭を撫でられるとどんどん気が抜けていって、けれどその分いらない思考に耽る時間も増えてくる。私は、加賀さんとは仲がいいと自負しているけれど、唯一この弓に関しては相容れない。いつも背筋をまっすぐにして発艦できるわけでもないんだから、少し命中制度は落ちるかもしれないけど敵の攻撃が当たりにくい姿勢でやる方がいいじゃない。
「あなたが何を思い悩んでいるのかは知らないわ。でも、あまり一人で抱え込むのはやめてちょうだい?」
「…わかったよ。」
「司令官、海、海行きましょ!」
「この前行ったでしょう。」
「あの時はちゃんと泳げなかったから!今度は二人っきり!」
「…いやいや。今日は…」
「ね、ね、お願い。」
日がだいぶ昇り、長門も帰ってきて、そして仕事もない。だから司令官を海に誘ったわけだけれど、思いの外渋られてしまった。
「…じゃあいいわよ。もう水着着ないから。」
「それは…少し不味いというか…来年の夏着なかったら怒られるのは私ですし…」
「なら…」
「それとこれとは違います!第一、もうすぐ夏も終わりですよ。」
「だから行くんじゃないの。」
きっと彼はせっかくしまった水着を引っ張り出すのが面倒だから嫌なんだろう。もう彼のしまった場所はわかっていたから、既に取り出している。あとは着てもらうだけ。
「ね、ほら、あなたの水着も出してるのよ?」
「いつのまに…はぁ。まあいいでしょう。しかし、今年はもう海に行くのは遊びでは最後ですよ。」
「やった!」
あの時はずっとパラソルの下でじっと海を見ながら楽しそうにしているあの子達を見ているだけだったから生殺しだったけれど、今日は思い切り遊べると思うと、嬉しくてしょうがない。それに、司令官と二人きり。艦娘の所属が増えてから滅多にない機会だから、大切にしたい。