砂浜は思いの外熱く、素足で歩けば火傷は免れないほどに思える。パラソルの下、司令官から全身に何かを塗られる。
「これ何なの?」
「日焼け止めですよ。焼けると痛いですから。」
首元から足先までを隅々まで塗り込まれ、妙なくすぐったさで身体を揺らす。ひょいと身体を持ち上げられて影の中で立ち上がる。
「一旦身体を動かしてからでないと、危ないそうです。私はほとんど泳いだことはありませんのでよく知りませんけど。」
そう言いながら足首を回し、準備運動を着々と進めていく。私もそれに倣って腰を回したり、足を伸ばしたり。波に反射した光を受け止めながら沸き立つ好奇心を抑え、極力丁寧に済ます。
「じゃあ、入ってもいいですよ。」
「司令官は?」
「義手が海水に耐えられるのかはわかりません。片腕がない状態で入る海ほど恐ろしいものもないでしょうから。」
彼との認識のズレがはっきりと見せられたようで、少し悲しくなる。海というものへの気分の昂揚は私だけしかなくて、司令官はそれをあまり気にしていないような、少し冷めている反応。
「あまりそんな顔しないでくださいよ。怖いだけで、入らないとは言ってないでしょう。」
「どういうこと?」
「浅瀬程度なら問題ありませんよ。」
そう言って、私の手を引く。いつもよりも少しだけ強めに引かれて思わずバランスが崩れそうになる。転ぶギリギリで体勢を立て直し、足取りを掴む。初めてまともに入った海は優しく、包み込まれるようなものを感じ、安心感に満ちている。気温とは違いとても冷たく、そしてまとわりつくような嫌な感じもない。
「気持ちいい…」
ぱしゃぱしゃ波に足を上下させていると司令官の目が優しくこちらを見ていて、それが少し恥ずかしかった。子供のようにはしゃいでいるのを見られるのはあまり嬉しくない。できれば見てほしくはないような素振りだから、顔も背けてしまう。
「おや…恥ずかしかったですか?」
「別に、そんなこと…司令官?」
徐に屈み始め、片腕で海水を一掬いし、不敵な笑みを浮かべている。私にはそれがわからなくて、一瞬硬直を見せてしまった。瞬間、手の上にあった海水が私の顔に直撃し、全身が濡れる。
「わぷっ」
目を閉じ、海水が入らないように反射で動く。司令官は微笑を漏らしながらこちらを見ている。
「おや、やられっぱなしでもいいんですか?」
司令官が、煽る。やられっぱなし、と。その言葉が引っかかり、勝負魂に火が付く。二回目の攻撃は甘んじて受けつつ、今度は私もかける。しかし、狙いが逸れたのか半身に当たっただけに留まる。
「ふむ…これはこれは。相当な腕をお持ちのようで。」
「お褒めいただき光栄ね。その鼻明かしてあげる。」
「できるものなら、ね。」
それからはお互い何度か水を被った。ひらりと躱そうと身を翻したその時、足を砂に取られて転んでしまったのだ。そうなった時に司令官が慌てて私の方に駆け寄ってきてくれて、心配してくれた。それが嬉しかったと同時にチャンスだとも思って、水をかけた。すると彼がポカンと呆けた顔で固まり、数秒後に複雑そうな顔を見せて敗北を認めた。
「ねぇ、ごめんなさい。私が悪かったから、だから怒らないで…」
「…さあどうしましょう。そう簡単に許してしまうのも私のプライドというものが許せないんですよね。」
パラソルの下に避難し、頬をこねられながら文句を言われる。今、制裁として頬を弄ぶというなんとも恥ずかしいものを受けている。二人きりでよかった。
「別にいいですけどね。楽しそうなあなたが見れましたから。」
「楽しかったけど…でも、ごめんなさい。」
「謝れるなら、よしです。」
きゅっと抱きしめられ、熱くなる。気温と体温のせいで熱がこもり、いかに影の下とはいえ熱くて敵わない。
「あつ…」
「私は休憩していますから、しばらく一人で遊んでみては?」
そう言って背中を優しく押される。改めて海に入ると、最初は冷たかったけれど後から少しずつ慣れていった。浅瀬を水を蹴りながら歩くだけでも新感覚で楽しく、適当に歩き回る。
「…ん?なにこれ…」
水の中、もっといえば砂の下に埋まる何かが見えた。桃色と白色が綺麗に分かれた何か。一枚の薄い板のようなそれが可愛らしく見えて、夢中になる。そして、注意深く見れば見るほどそう言ったカケラが大量に散らばっているのがわかった。そして、その中でも一際輝いているように見えたもの。渦を巻いて、白一色。中は砂すらも入っていなくて、表面はツルツルして触り心地がいい。この発見を、共有したい。司令官に、これを渡したい。そう思うと、勝手に走り出していた。
「ね、司令官、これ…」
少し興奮気味に持っていった先には、不審な集団に囲まれた司令官がいた。肌が小麦色に焼けていて、背が高く見える。髪は金色で短い人もいれば茶髪でとんがった人もいる。こちらにはなぜか気づいていない様子で、司令官に何かを話しかけ続けている。それが無性に怖くて、それに、司令官の姿が見えない。男たちが壁となって存在を見せないようにしている。どうしようもなく不安で、焦りで呼吸が浅くなる。