四人くらいの男たちが囲んでいて、それにゆっくり近づく。何かされているなら、司令官より強い私が守らなくてはいけないから。大切な人が傷つく姿は、見たくないから。不安でいっぱいで、左手に白く美しい渦巻いたカケラを握り締め、右手で指輪を包む。
「あの…し、司令官が、どうかしましたか…?」
一人が振り返り、私の方を見る。怖くて、泣き出してしまいそうなのを必死に堪えて相手を見つめる。怖い、苦しい、泣いてしまいたい。相手がしゃがみ、私の方をじっと見つめる。切長で三白眼の瞳が恐ろしく見えて、しかも黙りこくっているのが余計に不安を増幅させる。首だけ振り向き、司令官の方へ振り返る。
「だめ!」
ピクッと彼らが硬直し、私も硬直する。司令官が危ないと思った。だから、咄嗟に大声が出てしまった。身体が震え始めて、息が浅く繰り返される。
「霞、どうかしましたか?」
突然司令官が口を開いて、まるで何も起こっていないかのような冷静な声を出す。それがまた怖くて、理解が追いつかない。
「このコ、やっぱり艦娘ですか?」
私のことをじっと見つめた男が丁寧な口調で司令官に確認を取る。何が起こっているのか皆目見当もつかない。不安が渦巻き、握る手の力が強くなる。
「ええ。朝潮型駆逐艦の十番艦霞。可愛らしいでしょう?」
「そうっすね…なんか、俺らが知ってる霞とは雰囲気違うと思います。」
「っかしーな…学校だったらもっとドギツイ性格してるって聞いたのに…」
わからない。わからない。学校?知ってる?それに、司令官の態度があまりにも変。まるで親しい友人に話しかけるような優しい口調だった。
「えっと…あなたたちは…誰ですか…?」
「俺たちは学生です。士官学校に通ってるんです。」
「私の後輩に当たりますね。」
簡単な紹介を経て、男二人が道を開けて司令官の元へ行くように催促する。何が何だかさっぱりわからず、混乱したまま司令官の隣に座る。みんな威圧的な格好でなんとなく恐ろしい。
「君たち、霞が怖がっているでしょう。どうにかしなさい。」
「ええと…ほら、怖くないっすよ!ええ。」
そう言いながら顔を少し変えて、おどける。それが何かもわからなくて、謎の沈黙が流れる。士官学校所属と名乗った集団の中の誰一人としてその男にものを言わず、黙っている。司令官は私を持ち上げ、膝に座らせる。
「…その方が怖いだろ。」
仲間の一人がそう言って、おどけて見せた丸坊主の男はショックを受けたように膝から崩れた。
話を聞くと、彼らは士官学校の夏休みを利用して海水浴に来たらしい。派手な格好は学校内では禁止されている髪染めをやってみたくなったから。そして、私のことを見つけ、学校にいる艦娘以外とも会話をして、実際に関わる際にはどうすればいいのかの練習がしたかったらしい。それには司令官も嬉しくなったらしく、いろいろ話をしていたとのこと。
「いやあ、申し訳ないっす。こわがらせる気なんて毛頭…」
「私、その…もう、大丈夫ですから…」
落ち込んだ男に仲間たちが背をパシッと叩き、励ましの言葉を送る。楽しそうで、しかし威圧感は相当。
「えっと…なんて呼べばいいですかね?」
「私のことは司令官と呼びなさい。」
「司令官、さん。立派な提督になるためにはどうしたらいいっすかね。」
おちゃらけた格好とは裏腹にこの男には目指すべき目標があるように見えた。司令官に向ける眼差しは本物。身を乗り出しながら真剣に聞こうとする姿は最初の印象とは全く異なる。
「提督のなり方なんて一つしかありません。勉強です。士官学校で、学べることは全て学ぶ。試験に合格さえしてしまえば、提督になるための資格を得たことになりますから。しばらくは見習いとしてどこかの鎮守府で務めることになりますが。あとは、人並みの優しさをもちなさい。」
ほう、と頷きながら全員が話を聞く。曇りのない目で一心にその話を聞いていた。内容は本当になくて、誰でも思いつくような文言でも、彼らにとっては貴重な言葉になるんだろう。
「なるほど…基本が大事ってことですね。それと、艦娘との接し方。」
「君たちなら、きっとなれますよ。」
「光栄です!」
「ありがとうございます!」
なんだか気まずくて、最初に悪者と決めつけてしまったのが申し訳なくなるほどの誠実さを持った人たちである。
「霞から、何か彼らに言えることはありますか?」
突然振られて、頭が真っ白になる。彼らも身を乗り出して、真剣な眼差しでこちらを見る。そうされると、答えないわけにもいかなくて。
「えっと…その…あ、あんまり勉強したことに拘らないっていうか…その…か、艦娘にも、いろんな子がいるから…だから、その子にしっかり向き合ってあげるのがいい、と思う…。」
あまり、詳しくはいえない。詳しくいうと、彼らが目指す道が狭まってしまうと思った。でも、彼らはみんな真面目で、真っ直ぐだった。格好は怪しくても、人となりはしっかりしている。
「ありがとうございます!」
あまりにも正直な感謝の言葉に少しむず痒くなって、くすぐったい。恥ずかしくて、ぽ、ぽ、ぽと熱くなる。
「ところで、皆さんなぜ士官学校に?」
「俺ら、幼馴染なんです。みんな、漁師の家の子で、島出身なんです。だから、艦娘さんにはお世話になってて…親父には家業を告げなんて言われたけど、俺ら、どうしても艦娘さんのお役に立てるような仕事をしたかったんです。だから、必死に勉強して、金貯めて、ここまで来れたんです。今日、お二人に言われたこと、しっかり活かそうと思います!」
「今年が勝負の年っすから、俺ら全員、立派に提督できるようになります!」
それを聞いた司令官に促されて立ち上がり、そして無言のまま敬礼をした。彼らもそれに応えるようにビッと、軸をぶらさず敬礼した。これが、せめてもの激励となればいいと思う。