久しぶりに来た制服はなんとなく違和感があり、それが少し怖かった。なぜか知らないけれど、自分にとっての当たり前の服装が水着になりかけていたからかもしれない。
「この服…こんなにブカブカだったかしら?」
来てみると、思いの外自分が痩せているということにも気付いた。
「ね、ほら。服がおっきいの。」
ぎゅっと服を掴み、後ろ側に引っ張って司令官に見せた。
「十分わかりました。なのでそれを他の人には絶対しないでくださいよ?」
「?うん。」
こうも布が余っていると日常生活にも演習にも支障が出そうで少し怖い。というか、なんとなく袖も余っている気がする。手の甲の半分くらいまでを覆っている。
「司令官、私の服に何かした?」
「いえ、何もしていませんけど。」
【私たちがお話ししましょう!】
「「!?」」
着替えている途中なはずが突然現れた妖精さんにより停止する。どこかえっへんという擬音が似合いそうな顔をしている。
【ふっふっふ…その服はですね、司令官さんの好みかと思って改造しました!】
「…私の?」
【そうです。小さな女の子が好きらしいので…】
【この通り!霞さんの服を調整してより小さく見えるようにしました!】
「司令官…」
「誤解ですよ…それに、規則に則った服でないといけませんよ。水着だろうが浴衣だろうが、軍の支給した服装ですよ?サイズまで変えてしまうのは…」
【あれ?私たちは袖を伸ばしただけですけど…】
【サイズまで変えてしまうのは霞さんも大変かと思って…】
「え?じゃあ服が大きいのは…」
【はい!単純に霞さんが痩せただけです!】
ただ単純に痩せただけ…?だとしてもこんなにブカブカになるのは…いや、その前にどのタイミングで?演習もそんなにしていないし…あれ?あれ?
「体調に悪影響さえなければ別に痩せても構わないのでは?それに、違和感があるなら妖精さんにお願いすればいいですよ。ちょうどここに居るんですから。」
【はっ!しまった!】
「…妖精さん。この服、採寸し直してもらえるかしら?」
【うーむ…まあ、構いませんよ。少しこちらに来てください!】
しまったという割には結構楽しそうで、工廠まで連れて行かれる。艦娘関連のものは基本ここで管理しているのだから、当然と言えば当然ではある。
「…曙、演習、しますか?」
「んー…荒潮もいるなら。」
「なぜ荒潮を?」
「昨日のお返し。」
不機嫌そうにため息を吐く彼女はトントンと指で机を叩き、いかにも
『私は不機嫌ですよ』
とでも言っているかのような雰囲気を漂わせる。
「私のこと〜。呼びましたか〜?」
ビクッと肩を震わせ、恐る恐る後ろを見やり、いつの間にかそこに居た荒潮と目線を合わせる。目の前の曙はそれを待っていたかのようにがっと詰め寄る。
「呼んだわよ。演習。あんたも参加ね。」
「あらあら〜。お手柔らかにお願いしますね〜?」
「おや?演習ですか。青葉も一つ…。」
「あんたも?」
荒潮に続き青葉もやってくる。どこか浮き足立ちながらカメラを扱う彼女の顔は緩み切っていて、緊張感がない。
「青葉。あなた、何かあったの?」
「お、気づいちゃいますか?えっへへ〜。知りたいですかぁ?」
「いいえ。興味を今の一言で失ったから結構よ。」
「またまた、そんなことを言って…」
「青葉さん?少し、お口チャックできるかしらぁ。」
荒潮が冷たく笑い、青葉がそれを聞いた瞬間に萎れる。おそらく青葉がはしゃいでいる要因を嫌というほどに聞かされ続けたせいだろう。同部屋であるが故のことであるのかもしれない。その瞬間だけ哀愁が漂い、面倒臭いものを見る目だった。
「まあ、どんだけいても構わないけどね。今んとこ四人しかいないけど…どうする?長門とか伊勢とか…呼ぶ?」
「私はどっちでも構わないわよぉ?それに、大事なのは編成ね〜。加賀さんと曙ちゃんは当然別々なのよねぇ?」
「は?」
「一体どういうつもりなのかしら。」
「ええ?だってぇ、昨日はすごく喧嘩していたじゃないですかぁ。」
「頭冷やしたらどうでも良くなったの。はぁ。あったま来た。荒潮。あんた、好きなように編成しなさい。あたしと加賀だけで相手してあげる。」
「…曙?」
「あらあらぁ。いいんですかぁ?少し…冷静にならないとだめよぉ?」
「いいからさっさと行きなさい。」
「…ふふ。はぁい。」
呆気に取られる青葉が、首を傾げながら荒潮について行き、曙はふんと鼻を鳴らしてどこかへ向かう。
「曙、本気ですか?」
「本気も本気。大真面目よ。あたしもあんたも、霞に喰らいつけるくらいは強くなってるんだから、十分いい勝負になるわよ。」
「そういうことではなく…」
「じゃあ何よ。」
「その喰らいつける相手の霞を彼女が選んだらどうするんですか?」
「…あ。」
どうやら頭に血が上りすぎて言ってしまったらしく、今更慌て始める。どうしようとか、口が滑ったとか、いやいやそんなことは流石に…と、必死に希望を集めている。
「…まあ、いいじゃないですか。何事も経験です。カッとなると、良いことはない、ということですね。」
「はぁ…ま、負けないように、こっちも頑張るしかないわね。よろしく。」
「ええ。こちらこそ。」