「おや?お客さんかな?いらっしゃい。僕らの鎮守府へ。」
廊下を歩いていると、時雨に声をかけられた。
「どうも。初めまして。」
「いえいえ。しかし提督さんもひどいことするな。始めてくるところに女の子一人で歩かせるなんてさ。」
「アハハ…」
ひとまず時雨にはばれていないようで安心する。
「っと、あんまり立ち話もあれだし、もしよければここの案内をさせてもらうけど、どうかな?」
「ぜひお願いします。」
「よーし!そうと決まれば早速しゅっぱーつ!」
元気そうで何よりである。
「ここはね~…」
時雨は歩きながらいろいろな部屋の説明をしてくれる。自分の知っているものや、新しく作られたもの。秘密の場所と称して私の知らないものなど様々だった。
「時雨?その人が例のお客さん?」
振り返った先には島風がいつものように連装砲ちゃんを抱えていた。
「そうだよ~。あ、紹介するね。この子は島風。すっごく足が速いんだよ!」
「初めまして。」
「これはご丁寧にどうも。今日はよろしくね。」
島風は身をひるがえし、
「じゃあ、またね。」
「ありゃ、行っちゃったかあ。まあいっか!じゃあ次に行こう。」
すると外に連れられ、広い運動場に出る。
「ここでは駆逐艦のみんなが運動してるとこなの。いつもならたくさんいるんだけど…今日は嘘みたいに静かだね~。」
知っている。ここでみんながかけっこをしたり、秋になったら運動会と称して鎮守府全体を巻き込んでいたこと。
「どうしたの?泣いちゃって。」
「あ、いえ。目にゴミが入っただけですから…。」
「そっか。大丈夫?目、洗いに行く?」
「大丈夫なので、ほ、ほら!次行きましょう?」
「ならいいけど…って、もうこんな時間!みんなを迎えに行かなきゃ!」
「みんな?」
「うん。遠征から帰ってくる時間。ほら、ついてきて!」
「わ!」
左腕をつかまれる。同時に、強く引っ張られたのか、義手を固定していたベルトが緩み、ポロリと外れてしまう。
「え…?」
時雨は突然の出来事に体を硬直させ、その後突然両膝をついてしまった。
「大丈夫ですか!」
時雨は義手を手から放し、両肩を手で押さえながら、歯をカチカチと鳴らしている。
「あー。忘れかけていたのに。大丈夫。心配しないで。時雨を医務室に送ってくるから。提督は遠征部隊を迎えに行ってあげて。」
「島風…気づいてたんですか?それより、時雨のこれは?」
「トラウマだよ。ほら、提督の腕が例の事件の時にもげちゃったでしょ?それ、時雨やほかの子たちが聞いた瞬間に戻しちゃったり、気を失ったりしちゃったの。それが収まるまでは出撃をさせないようになっててね。その症状もだいぶ見なくなったときにちょうど提督が来たの。近くで見張っててよかった。」
「…すみません。」
「別に謝らないでよ。怒ってないし。むしろ、久々に顔が見れてよかった。何かわけがあってそんなかっこしてるんでしょ?ほら、遠征の子たちの顔でも見に行ってあげて。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
義手をつけなおし、港へ向かう。
「本当に…来てくれてよかった。ほら、時雨立って。医務室行こう?」
進みなれた道を抜けると、そこには見慣れた駆逐艦が大勢いた。そうか。運動場にいなかったり、駆逐艦寮で誰とも出会わなかったのはこれが原因か。
「皆さん初めまして。今日一日ここを見学させてもらいます。」
一瞬の静寂の後、わっとみんなが駆け寄ってくる。