「珍しいわね。あなたが獲物を取り逃すだなんて。」
「あれ?ふぅ…別に、あんたたちは加賀と瑞鶴じゃどうにもなんないでしょ?金剛一人ならあっち行っても問題ないし…」
「でもそれであんたの負担は大して変わらないわよ?それに、姉さまの恨みもあるんだから。」
「どうってことないわよ。中破だろうが…はぁ、あんたら纏めて相手してあげるから。」
と、虚勢を張ってみる。姉さんと青葉との戦闘のダメージをそのままにして扶桑と戦っていて、一発もらってしまった。倒したとはいえ、継続して二人の相手は厳しいかもしれない。
「霞、助太刀に来ました。」
「ああ、そうなの。じゃ、その辺で倒れてるの、全部陸に置いてきて。あんたが帰ってきた時に立ってる方が勝ちだから。」
「…ご武運を。」
「当たり前でしょ?ほら、さっさと行きなさい。」
潜水はあまり意味はない。潜ったところで稼げる時間は数秒がいいところで、むしろ体力を余計に削るのは好ましくない。やはり正面切ってやり合う方が勝算はでかい。
「じゃ、やろうかしらね。」
「「いつでも?」」
まずは一回魚雷を放つ。狙いは特に定めないけれど、相手の行動の邪魔にさえなればいい。予想通り二手に分かれ、主砲を突きつけられる。微妙に息のあった動きに少し苛立つも回避行動に移る。主砲で山城を牽制し、一発掠める。
「危ないわね!」
「構わないわよそんなの。傷も残るわけじゃないんだから、我慢しなさい。」
「こっちはいいのかしら?」
「ほっとくわけ、ないでしょ!」
二人が撃ち込もうとした時、伊勢の目の前に勢いよく水柱が立つ。仕込んでいた爆雷がちょうど起動してくれた。ダメージは期待していないから、目眩しになればいい程度の淡い期待。ついでに山城も驚かせることができれば万々歳。けれど、水柱に穴を開けて撃ち込まれ、山城は私の避けるであろう位置に放つ。
「霞、こんなところで終わらないわよね!」
どう回避したものか。下手な避け方は意味がない。潜水は息が持たない。艤装を盾にするのは難しい。というか、もう耐えられるほどの装甲はない。頭が沸騰し、超高速で思考が巡る。ぷつっと何かが切れるような感覚の後に、鼻から熱いものが流れた。
「あっ!?」
「嘘でしょ!?」
二人の一瞬の動揺の内にブーツを斜め60度くらいに傾け、全力で動かす。空気抵抗が働き、身体が後ろに持っていかれるのを堪えながら勢いよく飛び上がった。空回る艤装の稼働音以外に何も聞こえない極限とも言える無限の思考時間を得て、硬直する山城に魚雷を直接当てに行く。伊勢には、特別に主砲を数発撃った。一分か、一時間か、どれくらいかの滞空の後、海の上に落ちた。受け身は取れない。背中が痺れ、起き上がるのも辛かった。
「…どうよ。」
身体を持ち上げ、二人のいた場所を見やる。山城は予想通り倒れ伏していて、伊勢は飛行甲板をズタボロにしながら、震える脚を支えていた。
「流石、一番の練度なだけあるわね…。」
「…でしょ?さっきので倒れておけば、追撃もなかったのにね。」
もう立ちたくない。動きたくない。ここまで追い詰められたのは初めてだった。と言っても、二人からはダメージを受けていなくて、自滅のようなものだけど。心臓が高鳴り、全身が熱くなる。感覚が麻痺して、痛みは引いていく。ただ、流れる熱い液体は先ほどよりはっきりと感じる。
「…次で終わりかしら?」
「いえ…ここで終わりよ。」
「?何を言って…」
「加賀ぁ!決めなさい!」
「もちろん。鎧袖一触です。」
振り返った伊勢に、夥しい艦載機の群れが覆い被さるように見えた。全方位から襲いかかり、伊勢では避けられない。
「…そういえば残っていたわね。」
「少し眠っていてください。」
「…ああ。終わった?」
「ええ。私たちの勝ちのようです。」
「…そ。なら、よかったわ。」
「残ったのは、あなたと私だけですか。」
「みたいね。」
「流れは、荒潮、青葉がほぼ同時に終わり。次いで曙から武蔵と大和。更に長門。瑞鶴の後に翔鶴と金剛。扶桑がやられ、山城と伊勢…ですか。」
「結果だけなら私たちの勝ち、か。」
「あなたは不満ですか?この結果に。」
「当たり前でしょ?今回、あんたの方が戦果を稼いでる。私は姉さんと青葉と扶桑。あんたは大和と翔鶴に金剛。最後の伊勢に止め刺したんだから。しかも、大和と翔鶴と金剛は曙を抱えたままなんだから。それに、損害も艦載機が少し減ったくらいでしょ?」
「…私の方が強いと?」
「ま、そう言うことね。最強の座はあんたに譲ろうかしら。」
「…私はそうは思いませんが。」
「なんでよ。」
「何故って…決まっています。一番敵に回したくないのはあなたですから。」
「…嬉しくないわよ。」
「あとは、一番最後まで闘志を燃やしていたのがあなたですからね。ほら、早く鼻血を止めないと。」
「…肩、貸してよ。」
「伊勢と山城は?」
「…そっちが先ね。」
「さ、早く立ってください。」
「わかってるわよ…んっ…と。」
「では。」
「?なんで座って…」
「何故って…あなたが最後に立っているんですから、あなたの勝ち、ですよね?」
「…。くだらないわ。」
「そうですか?」
「あの言葉、実現させられても嬉しくないわ。」
「にやけていますが。」
「嬉しくないったら!」